宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

松井彰彦(1962-)『不自由な経済』第1部、日本経済新聞出版社、2011年

2017-05-09 09:07:04 | Weblog
 はしがき:市場は万能でない。しかし市場を拒むことは「不自由な経済」を作ることである。
A 「規制緩和一辺倒で、市場経済を創る」という考えは、学界では1990年代には、すでに過去のものである。
A-2 「ゲーム理論を核に据えた情報の経済学」、「組織の経済学」の進展。
A-3 「神の見えざる手によって経済が望ましい方向へ調整される」という市場観は、素朴すぎる。
B 経済(取引)は、相手がいないと成立しない。

第1部 市場を考える
(1)都市:顔(身分)で人を差別しない取引(市場)の成立
A 自然状態では、「横取りされる」ため、努力して生産することがなく、社会の生産性は低い水準にとどまる。
B 共同体が成立すると、「お互い様」の取引が成立する。
B-2 共同体内では信頼と協調の関係が成立するが、共同体から出れば、弱肉強食の関係。
B-3 強い共同体が、弱い共同体を傘下に置く。
C 共同体の対極は、人々が集まり「お互い誰が誰だかわからない状態」になった都市である。
C-2 都市で、顔の見えない取引(市場)が成立する。顔(身分)で人を差別しない行動規範の成立。

(2)(ア)市場原理は相手が誰であれ分け隔てしない&(イ)市場から排除されることもある
D 市場原理は、相手が誰であれ、分け隔てしない。市場は、市場ルールを守る者たちで、成り立つ。
D-2 「障害者は○○できない」というように、画一的に市場を閉ざす・市場から排除することがある。
D-3 製造業への労働者派遣を禁止しても。正社員が増えるわけでなく、失業者が増えるだけになる。

(3)(a)買い手独占だと不当に安く売るしかない&(b)技術進歩によるバリアフリーが障害者雇用にとって重要
E 市場がないと、例えば買い手独占だと、不当に安く売るしかなくなる。
E-2 労働市場の創造が格差縮小につながる。例えば、医療・介護での雇用増加が、30歳未満単身女性の可処分所得を増やした。(2004-9年)
E-3 障害者雇用を福祉とさせないためには、技術進歩によるバリアフリーが不可欠である。

(4)厚生経済学の第1基本原理(=パレート効率性)では、格差・公平性の視点が抜ける
F 厚生経済学の第1基本原理:「理想的な競争市場の下では、効率的(最適)な資源の配分が達成される。」
F-2「厚生」とは、社会全員の満足度のこと。
F-3「効率的(最適)」とは、誰かの満足度を上げようとすれば、他の誰かの満足度を下げざるをえないこと。パレート効率性(最適)。
G パレート効率性は、公平性の観点を含まない。独裁者の1人勝ちでも、パレート効率的な状態でありうる。
(4)-2 市場の失敗の問題
H 現実の市場はどのような時に失敗するのか?
①市場がうまく機能するには、需要供給に応じて価格が上下しないといけない。
①-2 価格調整ができないとは、例えば診療報酬が政府によって一元管理されること。かくて、医師が都市部に偏在し、産科での医師不足が生じる。
②マッチング制度は、計画経済的割当より、効率的である。
③人々が、他人と自分を引き比べると、競争はゆがむ。相手に先んじたいと、思ってはいけない。「オンリーワン」で、他と無関係に、消費する。
④温室効果ガスについて、排出枠を、オークションを通じて割り当て、微調整を排出量取引に委ねる。

(4)-2 厚生経済学の第2基本原理:公平性(格差)に不満がある場合は、市場を縛るのではなく、所得移転で対処せよ。
I ただし所得移転欲しさに、さぼる人が出ると、社会の総所得は落ち込む。
I-2 所得の平等性を高めたいのなら、「負の所得税」が、検討に値する。所得が一定の基準額に満たない人には、不足分の一定割合を補てんする。

(5)市場理論(「市場対個人」)とゲーム理論(市場を「個人対個人」のゲームと考える)
J 市場理論は「市場対個人」がベースになる。ゲーム理論では市場を「個人対個人」のゲームと考える。
J-2 市場理論は「顔の見えない取引関係」(分け隔てしない)を想定。ゲーム理論は顔の見える取引関係を想定。
J-3 ゲーム理論を取り入れ、市場の分析を深める。

(6)独禁法の「自首」制度と「囚人のジレンマ」
K 2006年独禁法改正:課徴金引き上げ&措置減免制度(「自首」制度)導入。
K-2 「自首」制度:ゲーム理論の「囚人のジレンマ」(自分だけ割を食うのを怖れ、全員自供してしまう状況)の応用例。コンプライアンスに熱心な企業ほど得をする。
L 事前規制は緩和されたのに、事後規制(独禁法の運用)が対応しきれていない。

(6)-2 企業結合規制は事前規制で、緩和すべきである
M 合併・買収を規制する企業結合規制は、典型的な事前規制。事前規制から事後規制へという流れに反する。
M-2 公取委は、(ア)素材産業の規模の経済、(イ)世界シェアを考慮すべきである。

(6)-3 公益事業の分割、電波オークションなど、積極的な競争政策を推進せよ
N 1985年電電公社民営化:(a)遠距離通話料金1/10に下落(1985-2000)。(b)新規参入業者育成政策が成功。
N-2 携帯電話の番号継続(ナンバーポータビリティ)制度が市場競争促進。
N-3 電力会社の地域独占については、安定供給を確保しつつ(自由化後、2000年ごろカリフォルニア州で停電頻発)、独占の弊害を減らす方策が必要。
O 郵政事業、電波利用も、公益性・政治性が高い課題。
P 電波オークション:市場を作ることで、電波の効率利用を促進させる。
P-2 1994年、アメリカで成功。米国では連邦通信委員会(FCC)が周波数帯をオークションで割り当てる。政府収入が増える。
Q オークションでは、落札者=勝者が過大評価をすると、損をする。「勝者への呪い」!(65-66頁)

(7)既卒・転職労働市場育成が必要である
R 人々が出会いを求めてサーチする市場では、ミスマッチが避けられない。市場経済における最大のミスマッチは労働市場で起こる。Ex. 介護需要が増えているのに介護職が敬遠される。
R-2 新卒の労働市場はフォーカルポイントがあるが、既卒・転職労働市場ではそれがない。
R-3 日本にも東京を中心に、正社員の既卒・転職労働市場がある。それは、外資系企業の市場である。彼らは転職後も緩やかなつながりを保ち、情報交換をかかさない。大企業の人事異動に似る。しかも自分の意思で職場を移れる。
R-4 いつ会社がつぶれるか分からない時代には、転職市場は一種の保険である。
R-5 外国企業の参入は、健全な既卒・転職労働市場育成のチャンスである。
R-6 健全な既卒・転職労働市場があれば、労働者は、雇い主や職場での不当な扱いをから自らを守るチャンスを高める。

(8)(ア)市場では情報共有、開示が前提である、(イ)予測の前提は「大数の法則」である、(ウ)市場では合理的パニックが起きる
S リスクと向き合ううえで、何がリスクかの情報収集が欠かせない。
S-2 市場では情報共有、開示が前提である。
S-3 薬害では、情報開示の不十分性の問題がある。
T 予測の前提は「大数の法則」である。コインを何度も投げれば表と裏が出る頻度は等しくなる。
T-2 金融市場では、人々が独立に行動するという「大数の法則」の前提が成り立たない。人々は、他者の予想に影響され行動する。(Ex. 株価)
U 合理的パニック(Ex. 取り付け騒ぎ)。取り付け騒ぎは、預金保険で防げる。

(9)老舗の問題&インターネットの可能性
V 長寿企業は、自己資本比率が低く、固定比率が高い。老舗も最先端を走らないと市場から取り残される危険!
V-2 インターネットは、一人ひとりの自律的な動きが世の中を動かすという点で、市場の本質と重なる。インターネットは、人と人をつなげるという市場の本来の機能を強化し、閉塞感を打破する。

(10)市場は、見知らぬ人同士をつなげ、自由を生み、仲間内のなれ合いや既得権益を打破する
W イソップ物語を、うのみにしてはいけない。ファーブルによれば、セミが樹液を吸うため管を突き刺すと、そこにアリが群がり、蜜を奪っていく。
W-2 そのように、「市場は格差の原因だというレッテル」にとらわれてはならない。市場は見知らぬ人同士をつなげ、自由を生み、仲間内のなれ合いや既得権益を打破する。Ex. 女性の市場参加。Ex. 市場参加による障害者の自立。
X 市場は万能でない。だが市場を縛れば「不自由な経済」となる。例えば労働市場で、女性に危険と言い、障害者には無理と言って、市場参加を制限してはならない。
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