雨ニモマケズ 風ニモマケズ

かがんでみたり、背伸びしてみたり。

難民の義務

2008-10-28 14:55:50 | ミャンマー
彼は、私がミャンマーの日本語学校にいた時に教えた学生でした。

あまり文法や漢字などを理屈で覚えるタイプではなかったので、テストの点は良くなかったけど、会話の発音は校内でもピカイチでした。
日本人と話すことが大好きで、日本人旅行者が集まる日本食レストランに度々出入りしていたからです。
そこで日本人に声をかけては、教科書の整いすぎた文ではなく、生の日本語をどんどん吸収していきました。





そんな彼が三ヵ月間の観光ヴィザで来日。
三ヵ月間アルバイトをしながら遊び、そして帰国直前に入国管理局に難民ヴィザを申請しました。


「ずっと日本にいたいわけではないけど、今はまだミャンマーに帰りたくない。
帰っても別に仕事はないし、日本が好きだから。」
と、オロオロした私にそう言いました。


難民ヴィザは、名前の通り「一時的な避難」のためのヴィザです。
それを申請することは、国を批判することにあたり、もしミャンマーに帰国したら非国民扱いされ、軍政のあの国では刑務所行きです。

当初、彼は
「10年くらい日本にいて、お金を稼いでからミャンマーに帰る。避難なんだから、亡命とは違って、帰りたかったらいつでも帰れるんだ」
と、言っていました。
それは、彼が本当にそう思っていたのか、私を安心させるためだったのか、分かりません。


ミャンマー政府に分かってしまったら、あなたや国にいるあなたの家族はどうなるの?
「家族は大丈夫。私は…う~ん、うまくいけば大丈夫。」





難民ヴィザで日本に滞在することの不安定さや、彼の将来についても心配だったので、定期的には会い、日本の生活の話や、ミャンマーの政治について語り合いました。


つい先日、会った時には彼はこう言いました。

「民主化のための活動を日本でしたら、国に帰った時に政府に捕まる。
でも、難民ヴィザをもらっている以上は、日本で活動しなくてはいけない。
活動しなかったら、今度は日本の政府に捕まる。

活動しても、しなくても、捕まってしまう私の人生って、なんなんだろう」と。





ミャンマーの刑務所には、民主化運動をした「政治犯」が多く収容されていると言います。
いわゆる「スーチーさん賛成派」です。
その罪は重く、15~20年ほどの刑期だとか。
でも、それで出られればまだいい方で、環境の悪い刑務所での病死や、拷問死も少なくないそうです。
また、出所できても政府はその人物をその後ずっとチェックしますから、少しでも怪しい動きをすると、すぐにまた刑務所に戻されてしまうそうです。

入管が言っていることも理解はできます。
「難民ヴィザを取得しておいて、活動はせずにアルバイトばかり。そのような生活は難民ではない。国に帰れるようにするために、民主化運動しろ」と。
活動しない期間が長くなると、呼び出され拘置所に入れられるそうです。





彼の願いは、難民ヴィザを取って日本に滞在している間に、ミャンマーの状態がよくなり、帰国時に刑務所に入れられないような国になっていること。
もちろん、私もそれを切に願いますが、そう簡単なことではなく、まだまだ時間がかかることなのだと思います。


彼はそう悩みながら、三か月に一度 入管に出向き、面接を受け、活動していないことを責められます。
今は、責められながらも難民ヴィザをもらっている状態だそうですが、いつヴィザ更新時に拘置所に入れられるかも分かりません。


日本人にとっては、国を捨てるとか、国から避難するとかはあまり現実的なことではないと思います。
それは幸せなことですが、そうではない人がこの地球上にはたくさんいます。
でもその全部を知ることは難しいことで、私が知っていることはほんの一部であることは分かっています。


浅学である私が「知ってほしい」と言うのはおこがましいと感じていますが、それでも、こんな立場の人がいることを、少しでも人々に感じてほしいと思いました。
ミャンマーは、たくさんの経験と様々な価値観を与えてくれた、私の大好きな国なんです。


最新の画像もっと見る