おはようヘミングウェイ

インターネット時代の暗夜行路。一灯の前に道はない。足音の後に道ができる。

グランドキャニオン 三考

2016-09-19 | Weblog
山があれば登る。海があれば泳ぐ。実地体験をする。これが信条である。グランドキャニオンとくれば、どうするか。眺めて、デジカメで撮って終わり。てなことはない。そこに道があれば歩くのである。大渓谷を下っていく道、すなわちトレイルコースがあるではないか。グランドキャニオンで人跡未踏の地を歩けば、往きて還らずことがありえるだろう。実際、日本人で行方不明になった人が数年前にニュースで報じられたことがあった。山行で遭難する原因はいくつもあるが、代表的なのは道を外れて迷うことと、疲労困憊して体力が低下し歩けなくなることである。それは厳しい自然の掟によって落命の世界に入り込むことになる。道を外れないようにして、体力があるうちに戻ること。これを肝に銘じて大渓谷を下ろう。

ブライトエンジェル・トレイルコース。名前がいい。明るい天使が舞うコースか。いざとなれば、おどろおどろしい地の底ではなく、天使たちが清らかなあの世に導いてくれるのかな。渓谷の地層沿いに幅1・5mから3mほどの道が緩やかな下り坂となって続いている。進行方向の左側は岩肌、右側は崖となって渓谷の底に連なっている。足を踏み外せば滑落する。急傾斜なので千m以上、転がり落ちていくだろう。直後か途中で気絶し、五体ぼろぼろか、ばらばらとなり、心肺停止の体となって天使も見捨てる結末となる。

断っておくが、現地に着いて、ちょっと思いつきでトレイルコースを下ってみようかなと思ったわけではない。一応、下調べというか予備知識を持った上での歩行であることを述べておきたい。無謀なことをしないのが自然に親しむ鉄則である。出発地のトレイルヘッドの標高は2091m。ここから下り坂を歩いていく。

渓谷内には泊まることができる宿が一軒だけある。標高780m、トレイルヘッドからの距離は片道15・4Km。下りで4~6時間、上がりで6~10時間かかるという。宿の名はファントムランチ。80人収容でき、人気があるため1年中ほとんど満室で予約が取れない宿となっているみたいだ。天使のコースに妖怪の宿が待ち受けている。今回は宿泊の予定はなしだ。トレイルコースの初体験の意味合いでの歩行である。

行きはよいよい、帰りは怖いのが、午後からの渓谷トレイルである。帰りは急傾斜の道を歩き登ることになるので下りより時間がかかる。ここを頭に入れておかないと、日が暮れて夜のとばりが下りて真っ暗闇となりかねない。下り30分だと往復で1時間以上、下り1時間だと往復で2時間以上と計算していく。滑落すると誰かが見つけてくれるまで往復は無制限の時間となる。

歩きながら美しい景色が広がっているわけではない。ごつごつした岩肌、目もくらむ崖、むき出しの地層など荒々しい光景が続く。粒子の細かい赤土の道を下っていく。何人かとすれ違う。1時間に満たない時間が経過した。道は渓谷の底へ向かって延びているようだ。ようだと言うのは、谷底が遙か下にあるので見えないのである。帰りの上り坂にかかる時間を踏まえて引き返すことにする。短い時間ながら、わたしはグランドキャニオンに小さな足跡を残した。同時に、人生にとって忘れがたい大きな足跡ともなった。渓谷の天使たちに感謝である。

グランドキャニオンに足跡を残そう


赤土のトレイルコース


地層を眺めながら歩いて行く


左を見上げれば崖


右を見上げても崖


脇を見れば底が見えない谷間が広がる


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