平方録

身辺をつれずれに

旧暦のヘンジン

2017-02-09 06:08:28 | 随筆
西国の島に暮らす友人に、退職して隠居暮らしを始めた途端、旧暦で生活すると宣言して実践している男がいる。
曰く「日本人の風俗習慣に照らすと、生活のリズムを旧暦に添わせるのが理にかなっている」というのである。
必ずしも同意するわけではないのだが、カラスの勝手、いや個人の自由意志だから特段、文句はない。
「オペラ座の怪人」は有名だが、こちらは「旧暦のヘンジン」である。

言われてみれば、確かに現代人が元旦だと言って心を新たにして神社仏閣に初もうでに出かけたり、初日の出だと言っていつもと同じ太陽の上るのを見てありがたがっている新暦の元旦と比べて、光の春とも言い、太陽の日差しが一段と明るさを増す立春の頃の季節の方が、より清新な気分が味わえるのではないかという気もする。
なんとなく春めいてくる気候というものが、新しい年を迎える気分にふさわしいという主張は、それなりに理解できるのだ。

従って今年の年賀状もまた、立春の2月4日に届いたのである。
「いよいよ古希ですが」という書き出しの、平成29年酉年のお年玉付き年賀はがきである。
郵便配達夫という言い方はあまり聞かれなくなったが、その郵便配達夫もオヤッと思ったことでしょうな。
もしや配達されずにどこかに紛れ込んでしまっていたのが急にどこからか出てきて、これはひょっとすると郵便会社の責任問題になるかもしれないと、びくびくしてポストに入れたのかもしれない。
今、チラッと思ったのだが、もしや、お年玉はがきの番号抽選が済んだ後、当たりはがきをわざわざよけて、ハズレた番号のはがきだけを使っているんじゃあるまいね。

まぁ、この辺の話はみんな冗談だけれど、友人が旧暦で暮らしているのは間違いない。
幸い、本人がそう思って生活の目印に使って行く分には他人に迷惑をかけないのだから、ご自由にどうぞという気分である。
旧暦には立春をはじめとして二十四節気七十二侯があるのだから、それに沿って暮らしていくのも案外味わい深いのかもしれない。
ことに農作物とか魚や貝の類は自然のサイクルの中で実をつけたり産卵したりしているわけだから、まさに季節そのものをいただくようなものである。
そこに敏感になるということは、食生活を豊かにすることに通じていくはずである。
ドッサリ獲れて、おいしくて、しかも値段が安い。旬の食材とはそういうもので、温室栽培の、しかも遠く離れた地方からわざわざ輸送費をかけて運んだ珍しいだけの食材をありがたがって口にする何てぇのは、ちょっと考えると滑稽なことをしているということに気づくはずである。

ヒト自身だって自然の一部なのだから、自然のサイクルというのと無縁であるはずがない。それを、もとをただせば狩猟民族の作った暦に農耕民族だった日本人が合わせているのだから、いろいろとズレは生じるのである。
そのあたりのことを自覚して暮らしていこうと思えば可能なのが、日本人の置かれた立場、利点といってもよい。
そもそも必要がないのかもしれないが、このことは西洋人が真似ようったって絶対に真似のできないことだろうと思うのだ。

そういえば、この友人と江戸で一緒に仕事をしていた時、たまたま誘いがあってごみの島で知られる東京都の夢の島の上にある都営のゴルフ場でプレーしたことがあった。
都民の出す膨大なごみを使って埋め立てたゴルフ場の土は、やたら固かった記憶があるが、今からほぼ10年前の2月9日のことである。
その日の早朝、わが家を出るときにウグイスの鳴く声を聞き、ウグイスの声に送られて気分よく出かけたのである。
その話を友人にしたら「そうかぁ~、初音を聞いて出てきたんかぁ~」と妙に感心されたのを覚えているのだ。

この初音というのも、旧暦の「立春」のうちの七十二侯の二番目、次候に「黄鶯睍晥く」(うぐいすなく)として立派に一項目が立てられているのである。
今年の初音はまだだが、今日は雪模様の日のようだから無理だね。いつ聞けるだろうか。



近所の公園。「山笑う」は俳句の季語だが、新緑が芽吹くのはまだ当分先の話である。でも、なんとなく唇の端がわずかに上がったような、アルカイックな微笑みの一端のようなものが現れている、と言ったら気が早すぎるかしらん。ここにはウグイスの巣がいくつかあるはずで、そろそろ初音が聞こえてくるころである

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