B.T.T.B -Back To The Basic- 退職後,日常生活における知的生活とは?

50歳代,退職後の日常生活をいかに知的に過ごすか

杉本博司さんの「海景」(2)

2017-04-20 | 美術的

ごぶさたしておりました。この間,ずっと榎原均さんの著作に取り組んでおりまして,ノート取りは合計5冊に及びました。まだ『資本論の核心』のノート取りは控えておりまして,一旦それまでノートした内容から主要部分を抽出している段階です。

生活面ではかなり落ち着きました。やはりここでの春は格別で,自転車に乗ってツクシやタラの芽を摘みに行き,天麩羅にして頂いたり,金魚を買ってきて,祖父母が使っていた火鉢で飼い始めたり,漸く日常生活も多少彩りを添えることができるようになっています。

そんなことも報告をしたいと思いまして,従来からの懸案である,杉本博司さんとマルクスの関係について,続きを書きたいと思いました。なにより杉本さんの「海景」に対しては,まだ否定的な感想しか書いておりませんので,それが気になっています。もちろん私が懐いた第一印象は否定されるべきものです。

杉本さんとマルクスの関係に関して考え,杉本さんの著作を読み直していたのですが,その前に書いておきたいことがあります。それは杉本さんと小林秀雄さんとの相似です。

杉本さんは『苔のむすまで』の中の一章である「さらしな日記」の中で以下のようにお書きになっています。

「私にとって,本当に美しいと思えるものは,時間に耐えてあるものである。時間,その容赦なく押し寄せてくる腐食の力,すべてを土に返そうとする意思。それに耐えて生き残った形と色。」

そして小林さんは『近代の超克』という研究会の席で以下のように発言をしています。

「僕らは近代にいて近代の超克ということを言うのだけれど,どういう時代でも時代の一流の人物は皆その時代を超克しようとする処に,生き甲斐を発見しているという事は,確かな事と思える。その点に眼を据えようとすると,当然今迄の僕らが非常に影響されて来たところの歴史観をどうしても根本から変えてゆかなければならぬ事になって来るのです。近代の史観というものを,大ざっぱに言えば歴史の変化に関する理論と言えると思うのですが,これに対して歴史の不変化に関する理論というものも可能ではないかと考えるのです。」

小林さんがデビュー後,暫くして,『無常という事』に納められたような,いわゆる歴史的人物,実朝や西行などを扱いだし,晩年に本居宣長を扱ったということを考えると,私はこの発言は小林さんがまれにみる,今後の自身が行う知的活動の宣言を行っていると思えます。もちろんこの「宣言」は,当時流行の史的唯物論に対するアンチテーゼであります。しかし,マルクス自身は,今日『経済学批判 序説』と呼ばれているものの中で以下のように述べています。

「…,困難は,ギリシアの芸術と叙事詩とが一定の社会的発展形態にむすびついていることを理解する点にあるのではない。困難は,それらがわれわれにたいしても芸術的享楽をあたえ,またある点では規範としておよびがたい模範として通用することである。」

私にはこの文章は謎でした。いわゆる史的唯物論の観点からすると,「ギリシアの芸術と叙事詩とが一定の社会的発展形態にむすびついている」とマルクスなら言い切ったはずです。ところがそうではなく,ギリシアの芸術と叙事詩とが一定の社会的発展形態にむすびついていることは否定していないのですが,ある点ではそれらが規範としておよびがたい模範として通用するということを認め,それを理解するのが困難であるとしていることが,どうしても腑に落ちませんでした。

つまり,史的唯物論とは,決して歴史の波に全てが押し流されて,あるべき姿に向かっていくことを認めるわけではなく,その時点その時点で確固たるものが存在しており,それが現在に至るまで意味を持っていることを認めつつ,進展をしていくということを理解することなのでしょう。ところが日本で史的唯物論は,現状打破,現状はマイナスばかりであり,あり得べき世界はその先にあるのだとして,過去のものを否定することこそ意味があると考えられていたわけです。

このようにマルクスの言っていることを理解するなら,小林さんの言っていることも,杉本さんが言っていることも,マルクスの言っていることは矛盾しません。そしてこのブログで何度も書いていることですが,小林さんの思想はマルクスを読むことで培われた部分がかなりあります(上記のマルクスの言葉も小林さんは著作の中で引用されております)。

さて,小林さんを媒介として,杉本さんとマルクスの関係について触れてみましたが,ではその三者をつなぐ一番のものは何か。それは「モノ・物」です。次回になるかどうか分かりませんが,いつかまたこの話題に戻ります。
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