こころの文庫(かぞく人のめも帖)

家族を愛してやまぬ平凡な「かぞく人」の日々の幸せライフを綴ってみました。ちょっと覗いてみてくだしゃりませんか?

ミニノベル・雨の贈り物・その3

2017年05月16日 00時55分16秒 | Weblog
雨は午後になると上がった。厚い雲を押し広げて、青空が随分と広がった。それでも油断はならない。ここ数日、降ったり止んだりを繰り返している。
 幸吉の心は一向に晴れなかった。くそ面白くないと言った顔付きで、茶の間のざわめきに背を向けたままである。それでいて、ちゃんと耳は研ぎ澄まされている。
 和子は嬉しくてたまらない風で、人が変わったように生き生きと幸央の世話を焼いている。それがまた幸吉は癪に触ってたまらない。

「親不幸もんに気ぃー使う必要なんぞあらへんわ!なんもせんでええんじゃい」そう怒鳴りたくなる。
 八巻彩絵というらしい若い女は、幸央の同棲相手だった。籍はいれていないと。つまり夫婦ではない。それが子供を作って堂々のご帰還とは、わが子ながらふざけるのも程がある。そんないい加減さが、昔人間の幸吉には気に入らない。どうしたって受け入れられる話ではない。
「あんた、幸央はなあ、いま、大阪の設計事務所に勤めてるんやと。設計士の資格も、もうすぐ取れそうやと。ほんまに偉いやないの。よう頑張ってからに」
 和子はいちいち大声で報告する。
「ほらほら、あんたもこっちへ来いな。幸多が、こない笑うてくれて、まあ嬉しいがな」
 幸多は、幸吉の孫になる赤ん坊の名前だった。自分の名前の一字を取って名づけられた孫の存在が、おじいちゃんの幸吉にとって嬉しくないわけがない。ほぼ諦めかけていた初孫なのである。
 しかし、どうしても頑なさを崩せない幸吉だっだ。昔気質の不器用さが安易な妥協を許さなかった。
「こんな可愛い赤ちゃんも出来とんのやから、あんたら、ちゃんと結婚式も挙げにゃいかんのう」
 和子の言葉に、若い二人は戸惑い気味に顔を見合った。
「母さん。俺たち、結婚式はせえへんよ。結婚式上げる金ないし、あげる気もないんや。この子のために籍だけは入れとかなあかん思たから帰って来たんや」
「あれまあ!そないな不細工な真似できるかいな。世間体もあるやろが。わたしらがちゃんとしたるさかいに」
「いや、ほんまにええんや。彩絵と約束しとるんや。無駄なことはせんとこいうてなあ」
「無駄な事あるかいな……そんな、お前……」
 和子は額に皺を刻んで口ごもった。
「いいんです。わたしと幸央さんの間で話しおうて充分納得しているんです。元々籍も入れるつもりなかったんですよ。でも、赤ちゃんが出来ちゃったから、この子の将来考えて、やっぱり籍はいるかなって……」
 彩絵は、えらくアッサリした物言いをする。家に来てまだ一度も彼女は笑顔を見せていない。

(ええかげんにせんかい。勝手ばかりいいくさって。好きにしたらええがい)
のど元まで出かかった怒声を必死で飲み込んだ。
 幸吉は押し黙ったまま立ち上がると、玄関へ足を向けた。ここにいたら、やはり怒りをぶちまけてしまう。幸吉は口をへの字に曲げた。
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小説
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