こころの文庫(かぞく人のめも帖)

家族を愛してやまぬ平凡な「かぞく人」の日々の幸せライフを綴ってみました。ちょっと覗いてみてくだしゃりませんか?

ミニノベル・雨の贈り物・その4

2017年05月17日 00時38分47秒 | Weblog
「お父さん、どこ行くの?」
 気付いた和子がすかさず尋ねたが、幸吉は黙殺して居間を突っ切った。
「もうお父さんは、子どもみたいな真似してからに。いつまですねてんのやいな」
 和子は息子夫婦(?)へ弁解でもするように、夫を責める口調を慌てて作った。幸吉はちょっと荒っぽい仕草で玄関の戸を開け放つと、外へ飛び出した。
 家の裏手に増築した作業場に入ると、幸吉は、加工台を前にドカッと座った。樋受けの加工のひとつで飾りの型取り作業が、中途半端に放り出してある。
 別に急ぐ仕事ではないが、何かやっていれば気は紛れる。自分の思い通りに決してならぬモノに、ややこしく頭を使っているよりははるかに健康的だ。

 幸吉は型木に銅板をあてがうと金槌を振るった。小気味いい音を立てながら、金槌は幸吉が狙った箇所を確実に打った。妥協のない職人芸の技術が展開した。
「……あの…バカタレが……!」
 幸吉は思わず吐き捨てた。慌てて作業の手を止めた。どうも今日は集中出来そうにない。あの親不孝な幸央のせいだった。もう息子と思うまい。自分に言い聞かせて、無視を決め込んでいるつもりだが、どうも上手くいかない。息子だけではない。孫の存在が幸吉に動揺を誘った。
 遂に諦めて金槌を置いた。気が乗らないまま仕事を続けて納得いくものが作れるはずはない。職人のプライドが傷つくだけだと、容易に想像はつく。幸吉はフーッと大きく息をついた。
 胸ポケットの煙草に手を伸ばした。取り出した箱は空っぽだった。中味が切れたのをすっかり忘れていた。苛立っていたせいである。何もかもが裏目に出る。幸吉は舌打ちした。また買いに行くしかない。
「お父さん」
 和子がソワソワと顔を覗かせた。
「なんや?あいつら構ったらんでええんか?」
「あの子ら、いま出ていったがな」
「なに?帰ったんか?」
 幸吉はズボンの埃を払い落した。やっぱり気になっている。久し振りに顔を見せた息子と、まだ何も話していないのに気づいた。このまま帰られては、いつまた話ができるかどうか。
「役場やがな。籍を入れるんやと」
「幸多は……?連れていきよったんか……?」
「当たり前やろ。プリプリ怒ってばかりのおじいちゃんとこに置いとけるかいな」
 和子はあからさまに皮肉を口にした。
「また帰って来よるんか?」
「そのつもりやろ。二、三日泊まるー言いよったさかい」
 和子は幸吉の反応を窺っている。
「身勝手なやつや。昔からそういう奴や」
 幸吉は顔をしかめて、強い語調で吐き出した。
「まだ、若いんやから゙」
 和子が慌てて息子を弁解する。
 幸吉は取り合わず、プイと外に出た。
「お父さん。幸央らが帰って来るまでに、機嫌あんじょう直しといてや。せっかく顔見せてくれたんやから、今夜は気張ってご馳走作るでな」
 和子は、いつになく高ぶっている。
「煙草切らしとうから、ちょっと買うて来るわ」
 幸吉は無愛想になるばかりだった。
 雨上がりの道は心地好かった。田んぼと畑ののど真ん中を走る農道を歩いた。うるさい車も余り通らなくて気分がよくなる。
 家から三百メートル程いった先に、村で唯一の雑貨店がある。食料品も少し置いてあり村では重宝にされている。店先には数台の自動販売機が並んでいる。
 幸吉は煙草の販売機の前に立ったところで、ふと気が付いた。販売機の前に置かれた簡易ベンチで、煙草を喫いながら赤ん坊をあやす若い母親がいる。彩絵だった。
「あ?」
 彩絵も直ぐに気付き、軽く頭を下げた。少し前から気づいていたに違いない。別に慌てる様子もなく落ち着いている。やはり可愛げがなさ過ぎる。
ジャンル:
小説
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« ミニノベル・雨の贈り物・その3 | トップ | つれづれ »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。