実は未完だった『サボテン君』

 国書刊行会の手塚治虫オリジナル復刻シリーズ『サボテン君+快傑シラノ』を読了。
 この本は、全集未収録の『快傑シラノ』が目当てだったのだが、いざ読んでみると『サボテン君』の方も現行の講談社全集版とはかなり違う内容になっており、こちらの方が、より興味深い内容だった。
 一年以上前に出た本なので「今さら」と思われるかもしれないが、感想と内容紹介を書いておきたい。


 初めて読んだ初出版の『サボテン君』で一番驚いたのは、何と言っても第二部が未完のまま終わっていたことだ。講談社全集版ではきれいに終わっていたし、あとがきでも第二部が未完になったことは全く触れられていなかったので、今回のオリジナル復刻シリーズを読むまでは、全く知らなかった。
 全集版の最終話は、初出では第二部ではなく第一部の最終話だった話で、そうだとわかればサボテンが「またそのうちおめにかかりましょう」と言っているのも納得が行く。実際、『サボテン君』第一部連載終了後に始まった『快傑シラノ』が打ち切りに終わってしまったために、本当に「またそのうち」の機会が来てしまったのだから。
 そして、第二部の最終エピソードにあたる話は、全集ではカットされており、要するに今までは単行本未収録だった。最終話・最終ページの柱には「新年号をたのしみに待て!!」と書いてあり、これでいきなりの打ち切りなのだからひどいものだ。全集のあとがきで触れられていないのも、おそらくはこの打ち切りが手塚先生にとっていい思い出でなかったからなのだろう。

 また、初出版では登場人物の関係が大きく異なっていたことにも驚かされた。
 全集ではサボテンの実の兄だったヘック・ベンは、初出では赤ん坊のサボテンをさらった悪党として描かれており、第二部最終エピソードでも再度サボテンの敵として登場している。さらに、サボテンの実の両親は全集版では亡くなったことにされているが、初出版では近所の牧場主のコルク氏が実父で、その娘・アリスはサボテンの妹となっている。この関係が消されてしまった全集では最後までサボテンとアリスがいい仲なだけに、これも驚きの事実だった。「アリスは実は妹」と思って読むと、全集版でも妙な気分になってくる。ううむ、これが妹萌えと言うやつか。初期の手塚作品では兄妹の関係がクローズアップされることがしばしばあったが、『サボテン君』までそんな作品だったとは。

 もし、第二部が未完ではなくきちんと完結していたら、初出のとおりにヘック・ベンは最後まで悪党として登場し、サボテンはコルク氏の息子のままだったのかも知れない。もっとも、その場合は「コルク氏の死」という悲しい展開も待っているし、全集版のヘック・ベンの最期も印象的なので、どっちがいいと決めつけるのは難しい。


 ともかく、オリジナル復刻シリーズ『サボテン君+快傑シラノ』は「手塚治虫の編集ぐせ」を再確認できた一冊だった。単行本で大幅に内容が変わった作品と言えば、『ダスト18』(これも未完…)がその筆頭にあげられるだろうが、この『サボテン君』もかなり上位にランクインするのではないか。
 そして、ここまで触れていなかったが、初単行本化の『快傑シラノ』も未完ながら作者のノリ具合が伝わってくる快作だった。「未完」の手塚作品については色々と思うところもあるが、それについてはまた項をあらためて触れてみたい。
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