はづきちさんのはまりもの

まだあったので日記帳になりました

ぱあとなあ 6 Haruka's strategy (SS)

2009-11-30 03:08:38 | ぱあとなあ(SS)
結局、ダンスマスターってオーディションは
その名の通りダンスの上手い奴が勝つオーディション
それでいて、現段階ではダンスで春香では真にかなわない
ならばどうするのか
俺の考えた作戦は真を落とす方法
下剤とか、シューズに切込みとか、衣装を隠すとか
つまりはまあ卑怯な手段であって
実に少女漫画な反則技
もちろんこんなこと常識で考えればできるはずがない
そんな無駄な意見も合わせて
(要するに俺が無能と言うことなのかもしれないが)
春香と一緒に真の「攻略法」を話し合ったのだが…

「まさか春香発の作戦で戦うなんてなあ」
時というのは本当に偉大で
いや、俺が春香を見くびっていたのかもしれない
自分からそれ以上の策が出なかったと言うのもあるのだが


~数日前~


ホワイトボードにペンで色々書いて話し合う俺と春香
今の先生役は春香だ
なお、俺の「カエルを真のカバンに入れる」という作戦案には春香により大きく×が引かれている
「いいですかプロデューサーさん、どんなオーディションにも山があります」
「うん」
「そこでの印象付けが最終的な勝敗を決めるといっても過言じゃないんです」
「昔からそれは言われているけど…その山場がわかるものでもないだろう?」
「そうです、そのときの流行や参加する審査員、要素が多すぎてわかりません」
「ああ、それを探すぐらいなら、レッスンに精を出すべきだ」
そう、これは俺が先輩プロデューサーに教わった定説の一つ
確かに打ち筋と言うか、アピール指示にもテンプレートのようなものは存在する
だが勝負は水物
確実に勝てるようなものは探したって見つからない
そんなものを頼るなら自己を鍛えろという正論だ
「ですが今回はダンスマスターと言う超有名オーディションです」
「有名だからって勝てるポイントがはっきりしてるわけじゃないだろう?」
「でも重視されて見られる点、そしてそれを見る審査員さん達の代表、それはわかってます」
「ダンスと…軽口さんか」
ダンスマスターはもちろんダンスに重きが置かれているオーディション
そしてその審査委員長である軽口さんは
その世界では大変権威のあるダンスの大御所なのだ
「そうです、ダンスマスターと言う舞台で軽口さん、これで不確定要素が二つ減りました」
指を折る春香
その顔には自信が溢れている
「そして課題曲、過去のオーディションの情報、そして真!」
「真?」
「ええ、真が勝負を仕掛ける決め場所…ここがおそらく山場です!」
「なぜそんなことがわかるんだ?」
自信満々な顔の春香に尋ねる
「真がダンスでは一番だからです」
「え?」
「軽口さんはダンスを見に来てるんです、一番凄いダンスを」
「そりゃあダンス審査員だからな」
「そして今回の参加者には真以上にダンスが上手な人はいません!」
「ああ」
確かに今回は真を恐れてか、同レベルや近いレベルのアイドルは回避
残ったのは無謀と思われる春香
そして数合わせと思われる新人アイドル数人
真と春香の差はダンス以外では正直さほどではない
勝っている面もあるかもしれない
そして春香と真以外は実力に相当差がある
結果的には春香と真の一騎打ちなったのだ
「それなら真の決め所が山場なはずじゃないですか!」
指をビシッと立ててえっへんと力強い春香
その単純なんだか、複雑なんだかよくわからない意見に
俺は思わずこくりと頷いてしまった

「あれ?…合ってるのかな?」

オーディション会場にて
今更それはないだろう
俺よ


オーディションが始まった
アピールは上々
春香自体のレッスンの成果もあり
審査員の印象も上々だ
やはり軽口さんは真に注目しているようだが
春香もいいところにつけている
ボーカルやビジュアルでは審査員が春香を褒めるぐらいだ
中盤過ぎて誰の目にも春香と真の一騎打ち
真がダンスでは一歩抜き出ていて
その他はほぼ互角、と言ったところだろうか?
春香が重点を置いているボーカルはおそらく真より高得点なのだが
軽口さんの評価がダンスマスターの評価と言ってもいい
そしてその軽口さんは真を見ているのだ
それはこの後、曲の山場がくるから
そしてそこが真の決め場所(春香談)
確かにここで凄いアピールをなどされたら
軽口さんの注目は最後まで真に注がれ、審査終了まで独走されてしまうだろう
サビの一番盛り上がる部分
そこに向け真の動きが徐々にダイナミックになっていく
テンポが上がる、溜めを入れる
そして曲が絶頂を迎える一番いい所、山場、決め所
そこで


「きゃあ!」

春香がこけた


「転ぶ?」
「ええ、私が盛り上がりの最高点で転びます」
「確かに真から注目は外せるだろうが、春香も評価下がるだろう」
「それでも真から視線は私に行きます、そうさせるのが大事なんです」
指を立てしたり顔
よほどの自信があるのだろう
「もし真をそのままにしていたら、最高潮に高まったダンスから有終の美まで視線独り占めですよ」
「そうなるだろうな…」
「でも私が転んだら!そこからの私の盛り返しを審査員なら見なきゃいけない訳です!」
なるほど
2位につけていた春香がアクシデントを起こす
もしその時点で1位ならば2位に転落するだろうが
もう2択の様な状況での2位のアクシデントなら
審査員はそこから盛り返せるかを見なければならない
つまり春香を見なければならないはずだ
「時間的にもそこからは最後まで私に視線が集まりますよ!」
真から視線を外させ最高のアピールポイントをチャラにする
その上そこから審査員の視線を春香に釘付けにし続けることが出来る

「あれ?これって実は凄い事なんじゃないか?」

と思ったのはまさにオーディション会場が春香の予想通りに動いている
そんな状況になってから
審査員達、特に軽口さんは春香から視線を外せない
転んだ後のダンスがかなりいい事も手伝っているのだろう
こうなると失敗を取り返そうと言う必死さもいい感じに映る
そしてそのまま
春香は会場の視線をその一身に受けオーディションは終了した
作戦は大当たりだったのだ
そしてそれはそのまま…

「春香…凄いな」
「ええっ!やりましたねっ!」
感嘆しか出ない俺だが春香はいたっていつもの通り
この顔は無邪気な女の子の笑顔だ
必勝の策を考え付いた軍師の顔にはまず見えない
「いや、春香一人でもよさそうなぐらいな、いいオーディションだったぞ」
「ダメですよ!」
冗談で言った言葉に強く反発される
「プロデューサーさんはパートナーなんです!いなくちゃダメなんです!」
「…ああ、悪い」
その形相に思わず面食らった
「そうだ、ちょっとジュース買って来るな」
そのままうつむいてしまった春香から、半ば逃げ出す様にその場から離れた


「私が弱かったから、ダメな子だったから、
プロデューサーさんはプロデューサーさんじゃなくなっちゃったんだもの…」


その呟きに
俺はまだ気づいてなかった
春香の優しい無理に気づけなかったのだ





天海春香 現在のランク C