はづきちさんのはまりもの

まだあったので日記帳になりました

ぱあとなあ12 二人の距離 (SS) 

2010-09-15 21:12:51 | ぱあとなあ(SS)

結果的に敗退はいい方に転がったのだと思う
俺は慎重さを取り戻し
少しでも疑問を持った相手とのブッキングは極力避け
春香が確実に取れる仕事、その場で一番輝くもので成功を収める事にしたのだ
小規模な仕事でも連続して成功すれば、同じ規模の仕事でも評価は高くなる
次の仕事を見据えた、今の仕事
製作サイドに与える安心を武器にコツコツと動く
安定感が春香の武器
それがこの仕事のやり方でわかってきた
春香自身もそれを意識し始めたのか、ブレが無く結果を出してくれている

「じゃあ次は少し大きく」
「ああ、今なら雑誌で特集が組まれてるからいけるだろう」
「ですね、ああ、それと衣装なんですが」
もはや恒例となった仕事の打ち合わせ
以前では俺が独りで決めてきたような事も今は春香を交えて話す事にしている
「…それで、CM撮影の…どうした?」
「千早さん、あっという間に駆け上がりましたね…」
視線の先のTVにはあの如月千早が映っていた
彼女はあのオーディションで歌った「蒼い鳥」を引っ下げて
勢いに乗ったまま、瞬く間に大物アイドルの仲間入りを果たしたのだ
年末の国内最高峰の歌番組にも出演が既に決まったと言う噂も流れる程に
「ああ、凄いな」
「えっ!?それだけですか?」
目を丸める春香
その顔は不思議そうだ
「それだけって…凄いじゃん」
「いや、あんな大器が近くに転がってたのに惜しいことしたとか!」
「別に」
ケロッと答える俺に信じられないような顔をする
「な、なんで!千早さんとだったらもうSランクだなーとか!」
「Sにはこれからなるから、一緒だよ」
「いやなりたいし、なるつもりですけど!」
「俺はそれなら春香がいい」
「ええっ!」
急に顔が赤くなって、下を見つめてる春香
表情がコロコロ変わって見ていて飽きない子だ
「いいか、俺は春香を信頼している、それは春香もだろう?」
「…ええ、まあそうなんですけど、こう面と向かって言われると」
「俺たちはパートナーなんだ、なにを恥ずかしがる事がある!」
「…そうですね!私たちはパートナーでした!」
そう言って硬く握手をする
いつの間にか出来たお互いの合図
強く握った手には熱がこもっている
「さあ!仕事の続きだ!」
「はい!」

まだまだ書類は山積みだし、その内半分は春香も目を通す企画書だ
時間はどれだけあっても足りない
そう!これだって今日中に…
「…ってもうこんな時間か!春香、帰らないと」
「でもまだ目を通さなきゃいけないの残ってますよ」
「そうだけどこれ以上遅いとまずいだろう」
車で送り迎えしているとは言え、春香の実家は遠い
この仕事を終えてからとなると確実に付く頃には朝と言う事態になってしまう
「明日は午後からとは言えそれは辛いだろう」
「でもこの書類の束、明日の朝までですよね」
「そうなんだが…まあ先方に明日の朝、俺から謝っとくから」
「ダメです!」
「えっ?」
「折角付いた安心して仕事が出来るイメージが崩れます!」
「いやまあそれは」
「しかも来週はオーディションなのに!今が一番大事なんですよ!」
「ううむ…」
確かに避けたいことではあるが…
「じゃあどうするんだ?」
「私!今日は泊り込みます!」
「…はぁ!?」
「こういう事もあろうかと!事務所に布団を持ち込んでおきました!」
そう言ってロッカーから布団を取り出す春香
ロッカーってなんだっけとも思う収納力だ
「…新品だな」
「あろうかもと思って入れておいただけですから」
胸を張っている姿を見ると
なんとなくこのセリフが言いたかっただけなのではないかとも思える
「いや、しかし…」
「他に方法があるんですか!」
「無いんだが…ちょっとそれはまずい様な…」
「私は大丈夫です」
きっぱりと言い放つ俺の担当アイドル
その顔は「もう決めました!」と言う決意に溢れている
そしてこの顔の時の春香の意見を覆せた事は…俺は一度も無い

TVからは「蒼い鳥」が静かに流れていた
もちろん頭になんか入ってこなかったが



そのちょっと後のお話

「まあ、こうなる気はしてたんだけどね…」
私は精根尽き果ててソファーで寝ているプロデューサーさんの顔を見る
結局仕事の話に熱が入り全てが片付いたのが午前3時
顔を洗ってくる間にプロデューサーさんは突っ伏して寝ていた
体勢をずらしソファーに横たえさせてタオルケットをかける
「これじゃあどっちが年上かわかりませんね」
眠るプロデューサーさんの顔を見て自然に笑みが出た
毎日遅くまで働いてるのは私も知ってる
それでも「春香が頑張ってるんだ!俺も頑張るぞ!」って言ってくれる
そんな姿が私の頑張りになってることを
プロデューサーさんはきっと知らないんだろうな
「全くこんな無防備な顔して…私だけ意識してるのがバカみたい」
まあもう長い付き合いだし
今更意識する私の方がバカな話かもしれない

「そういえばこんな近くでおやすみなさいって言うの初めてだな…」
そんな事を思いながら布団にもぐる
直ぐに私の意識は落ちていく
その寸前に呟く様に

「おやすみなさい、プロデューサーさん」


明日は多分いい日だって思う
だって目覚めたら一番信頼してる人がいるんだから




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3 コメント

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Unknown (Unknown)
2010-09-19 17:18:41
続き待ってたよー。
思わずホロっときてしまった。
Unknown (はづきち)
2010-09-26 00:33:29
いやはやお待たせしてしまいました。

そして待っていてくれる方のいる事のなんと嬉しい事よ!

いや、本当にありがとうございます…
今度からもうちょっとこう頑張ります、はい
Unknown (サブスタンスP)
2010-09-27 03:12:51
はづきちPのSSをいつも楽しみにしてます!頑張って下さい!

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