瘋癲北欧日記

第二の人生 つれづれなるままに

妖精の罠

2012年06月20日 | 人々の暮らし


6月19日


「アルバが踊っている。若い男を求めてさまよっているのですよ」


夜の11時。夏至を数日後に控えた白夜のストックホルム。郊外を走行中、写真のような


光景が見えた。草原を覆うように白い靄がたなびいている。薄い雲海のようにも見える。


幻想的な風景に、急いで車窓からシャッターを切った。


そのとき、同乗の知人が「あれはアルバですよ。気をつけないといけません」と笑って、冒


頭のような話を切り出したのだった。


「アルバですか? とっくに若くはないけれど、気をつけろって、どういうことですか」


「アルバは妖精です。夏の夜、平原をこのように低く、白く覆う靄を妖精にたとえているん


ですよ。靄はゆっくり流れるでしょう。それをスウェーデンでは、アルバがダンスをしている


(Alvarna dansar =アルバナ ダンサル)と表現しているんです」


「ロマンティックな妖精ですね」


「いや、いや」と、知人は目もとをゆるませた。


「気をつけろと言ったでしょう。アルバは怖い妖精ですよ。魅力的な踊りで若い男を誘惑


する。誘惑して一緒に踊って、楽しませた後で殺す。ロマンティックな殺され方、とは言え


るかもしれませんが」と、笑った。


スウェーデンの夏は白夜の季節だ。北の方では、深夜でも太陽が地平線をかすめるよう


に動いて沈むことがない。スウェーデンの中部にあるストックホルムでは、そんな太陽は


見ることができない。しかし写真のように、夜の11時を迎えても仄明るく、暗闇に包まれる


ことはない。長くて暗い冬の反動も手伝って、この時期、若者は戸外に飛びだし、恋に遊び


大酒を飲む。この国の若者は、底なしに飲む。バイキングの末裔である。だが、遊びまくって、


たらふく飲んで、正体不明になったらアルバに誘惑されてしまうぞ、ということらしい。


 


しかし、幻想的な光景が、たとえおとぎ話の世界とはいえ、残酷な結末を秘めていると聞かされて、


わたしにはより魅力的に映るようになった。そんな妖精なら、この年でも誘ってくれるなら、などと


バカなことを考えて、もう一度、シャッターを切った。



 


 


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
アルバですか? (調布先生)
2012-06-20 19:58:06
そうですか、アルバですか。若い男しかあきまへんか。瘋癲老人も誘惑されてみたいものですなあ(笑い)。以上
Unknown (ぼちぼち)
2012-06-21 19:10:52
ブログの再開、お待ちしておりました!新鮮な目で見たスウエーデン描写で、長年住みこんでいる人間が忘れてしまっている感激があり、楽しいです!

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