BSE感染牛の牛乳は、本当に安全か? 1月6日

乳製品は、本当に安全なのか。
現在のところ、牛乳や乳製品にBSEのリスクはないとされている。BSE病原体の殆どが脳・脊髄に蓄積し、食肉する場合に定められている取り除くべき危険部位の中に、生乳に関る部位は含まれていない。BSE発生率が年間0.1%以下の低発生国では、脳・眼・脊髄・回腸遠位部(小腸の最後の部位)、高発生国では脳・眼・脊髄・扁桃・胸腺・脾臓・腸・後根神経節・三叉神経節・脊椎・頭蓋骨が、除去部位の対象だ。

WHOやOIEが、牛乳・乳製品は安全だとの見解を示していることを、広く世界中の国々が踏襲しているわけだが、100%の科学的根拠のもとに安全が証明されているわけではないことを両機関も認めている。WHOの「プリオン病臓器別感染性」の一覧表によると、初乳への感染性は、胎盤と同様に「実験によってばらつきはあるが感染が認められたもの」にランクされている。言わば、WHOは極めて低い確率をして重箱のすみをつつくようなことをしても意味がないとの立場なのだ。

イギリスやドイツでは、BSE感染と牛乳との因果関係を否定することはできず、既に市場に出回った狂牛病感染牛からとった牛乳の回収や、狂牛病に感染リスクのある牛の乳の使用を禁止する措置をとるなど、消費者の安心・安全を第一に考慮した対応策を講じている。2001年、このニュースを報じた週刊文春に対して、社団法人日本乳業協会は、リスクが証明されたわけではないとして国内での規制に消極的だった。日本生物科学研究所理事主任研究員・山内一也氏も、「牛乳の安全は不変」とし乳業協会を後押しする見解を表明している。蛇足だが、食品安全員会プリオン専門調査会の吉川座長も、あの悪名高き東大名誉教授唐木英明氏も、またプリオン専門調査会委員でもある山内一也氏も、全員が東大農学部獣医学科卒業だ。何かありそう!?

しかし、ここで忘れてはならないことは、イギリスやドイツの学者が提起した牛乳や乳製品が持つBSE感染リスクについて、科学的になんら安全性が証明されたわけではないということだ。吉川座長でさえ、米国産牛肉の安全性が、科学的に証明されたわけではないと明言していることを忘れてはならない。そもそも、BSEに感染した牛の生乳を、健康的な生乳と捉えることができるだろうか。口にする勇気、ある?

現実に、と畜場での全頭検査に、生乳の検査は入っていない。骨粉(乳製品のCaの原料として使用されることがある)や乳製品・ゼラチンなどについては、その原料部位をチェックし、脳や脊髄などの危険部位が混入しないよう業者が自主点検を行っているので、安全性は確認されていると(社)日本乳業協会は見解を示している。が、「業者の自主点検」のどこが安全といえるのだろうか。厚労省が業者の自己申告を認めていることが不思議でならない。

異常プリオン蛋白がリンパ球に付着して血液が汚染される可能性を危惧し、これまでにBSEが血液で感染した例はないにもかかわらず献血を規制する厚労省が、白血球を含む乳製品の論理的危険度を無視して、業者の自主点検に任せ一切の規制をしない。これらは大きく矛盾している。

例えばHIV感染の母親の母乳は、たとえ哺乳瓶を介して飲んでも赤ちゃんに感染する可能性が高いことがわかっている。血液や精液のHIV量よりもはるかに少量だが、母乳への規制は厳格だ。ウイルスとプリオンとは性質が異なるため単純に比較することはできないが、特に海外のBSE発生国からの輸入乳製品が、このまま野放しにされ続けても良いのだろうか。

これまでに報告されているBSE発生国は、カナダ・米国・日本を除いては、実はヨーロッパに偏っている。そしてその多くがチーズやヨーグルトなどの乳製品を大量に消費する国々だ。WHOが牛乳や乳製品を規制の対象にしてしまったら、たちまちそれらの国々の食文化はパニックに陥ってしまいかねない。リスクとベネフィットを天秤にかけ、リスクを無視することを選択したWHOの判断は、本当に正しいと言えるだろうか。

デパ地下には、チーズやヨーグルトなどBSE発生国から輸入された乳製品が、まったく堂々と山積みされている。そんな商品に、手を出す気持ちになる???業者は、リスクの可能性を隠すことなく積極的に情報を開示して、ある時はダメージを被るかもしれないが、企業としての社会的責任を十分に果たすべきだと思う。

経団連会長に就任予定のキャノンの御手洗冨士夫社長は、日本の競争力を引き上げるのに何が必要かとの問いに、「自己犠牲で公に尽くすという日本人の精神文化や価値観を、教育の場で取り戻すことだ」と明確に答えている。まさに外食産業や乳製品の輸入業者、勿論現政権にも今一度考えて欲しい課題だ。飼料のレンダリング規制が甘い米国産牛肉が、本当に安全なのか。BSE感染牛からとった牛乳を飲んでも、本当に大丈夫なのか。

同時に消費者には、体に優しい安心安全な食材を選ぶ見識が、今まで以上に求められる。BSEや鳥インフルエンザを、医食同源の原点に返る好機ととらえ、今年を悪循環を断ち切る「食の安全強化の年」と位置づけるべきだ。食べ物を気遣えば、生活習慣病の発症リスクも抑えられ、結果として医療費の抑制にもつながっていく。90歳を過ぎてもなお、遺伝子の研究という新たな目標に向かい果敢に挑戦し続ける日野原重明医師は、長生きするための生活習慣を実践することが重要なのだと、さらりと明言する。

食の安全こそ、すべての原点。質の高い食材を求める消費者が居てこそ、質の高い食材が生まれる。この好循環をつくる責任を、政治は担っているのだ。
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