南新宿に近い古びたビルの二階に酒場・海燕があった。
カウンターだけの小さな店
和服姿の凛とした老婦人がオーナー、いつも一人でカウンター内にいた。
酒はラガーの瓶ビールだけしか置いてなく、
栓は客が自分で抜き、手酌で飲むのが店の流儀。
料理は2~3品を盛り合わせた1皿のみ。
客はレントゲン技師長、外科医、私立探偵、芸能プロダクション社長、
等々が常連で普通のサラリーマンを見かけることはなかった。
カラオケなどあるわけなく、ギターが一つ壁にかけてあった。
いつもギターでつぶやくように"早春賦"を弾き語る男がいた。
夏でも秋でも早春賦を唄う、
春は名のみの風の寒さや・・・
時にあらずと声もたてず
いつの日か表舞台に出るのを夢見て、今はまだ時にあらずと
自身に言い聞かせているかの如く聞こえてならなかった。
今は老婦人もいなくなり、海燕もない。
(インカの猿??)
2月の格言:猿も木から落ちれば棒にあたる。
予備校の女浪人生どもが聞けば、
"意味わかんな~い"とか"ありえな~い"とか"ビミョー"とか
云いそうだが、
これは、人生の荒野を歩いてきた、酸いも甘いも併せ持った、
トマトのような男達にしか分からぬ奥の深い言葉なのだ。
まさに、これが「男達のトマト」なのだ。
それにしても、このご時世、むかっ腹の立つことばかり。
「男達のトマト」ならぬ「男達の大和」なら
至誠に悖る無かりしか!
言動に恥ずる無かりしか!
と一喝している事だろうに。
なにをウダウダ云ってるのか? あぁ、そうそう、
木から落ちて挫折しても、地上の別世界で”希望”という棒に当たる事がある。
ポジティブにやって行こうということ。
なになに、老不良のやせ我慢?
やせ我慢こそ男の美学ぞ! ご同輩。 ヤレヤレ