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同人作家・はさみのなかまが、これまで読んだ本のなかでも、とくに面白かった! とおもった本を随時ご紹介させていただきます。

「禍いの荷を負う男」亭の殺人 マーサ・グライムズ(文春文庫/文藝春秋)

2017-08-08 09:50:37 | ミステリー
1985年に日本ではじめて紹介された、アメリカ人女性ミステリー作家マーサ・グライムズによる、イギリスが舞台のコージーミステリーです。
1985年当時は、まだコージーミステリーということばは一般的ではなかったと記憶しています。

シリーズものの第一作でして、ブログ主が以前に住んでいた町の図書館には、なぜかこれの第六弾『「悶える者を救え」亭の復讐』しかありませんでした。
しかし、なんとも魅力的なタイトルにひかれ、そのすでに茶色に変色していた文庫本を読んでみたところ…
おもしろい!
いきなり第六弾から読んだので、ところどころ人間関係がわからないところがあったものの、それでも魅力的なキャラクターたちにすっかり魅了されてしまいました。
はじめて手に取ったのが中学生のとき(歯の矯正器具が取れていないころだった!)でしたが、そのときからすでに、書店ではほとんど見かけない幻のシリーズとなっておりまして……全シリーズを集めるため、本屋という本屋をのぞきまくりました。
当時はネットなんて影も形もありませんでしたからねえ。
とうぜん、アマゾンもhontoもありませんでした。
文字通り、足を棒にして、日本で訳出されている文庫本はぜんぶ揃えました。
ミステリーでありながら、抒情的で、ときにファンタスティックにも、コメディにもなる、ほんとうに大好きなシリーズです。
それの第一作が、復活して文春文庫から再出版されたのが2014年。
だいじょうぶ、まだネットで買えます。

ともかくキャラクターがいいんですよ。
イギリスの「あー、こんな村、こんな町があったら行きたいな」というところが舞台。
それだけでも魅力的なのに、ふしぎの国の住人かのような、変わった人たちが繰り広げる人間模様。
事件を探るのは、警視リチャード・ジュリーと、第一作で友人となる元貴族のメルローズ・プラント。
元貴族ってなんだ? というところですが、貴族の地位を返上して、高等遊民として暮らすインテリ、それがメルローズなのです。
イギリス人らしくユーモアあふれる紳士で、ハンサムで独身、しかもお金持ち、最強!
ジュリーとメルローズがそれぞれ協力して事件を解決していくさまも面白いですし、続々と出てくる奇天烈な登場人物との掛け合いもたのしい。
主人公のジュリーもつ優しさと(優しすぎるくらい優しい人なのです)物悲しさが、シリーズにさらに奥行きを与えています。

タイトルが「〇〇亭」となっているのは、パブの名前です。
ものがたりのなかでパブが重要な舞台になるのです。
じっさいにあるパブも出てきているのかもしれませんが、とくに作者が想像で生み出しただろうパブは、ほんとうに、旅券さえあればすぐに行ってみたい、とおもわせるほど素敵なところばかり。
そして、このシリーズに登場する子どもたちやどうぶつの描写が、とくに魅力的で、大人たちより、ぐっと印象に残ります。
このシリーズを読んだおかげで、自分が趣味で創作をはじめたとき、「キャラクターはおもいきり弾けさせていい」という感覚をつかめました。
ブログ主にとっては、恩人のような作品です。

ただ、残念なことに、日本での紹介は途中で終わっていて、キャラクターたちがどうなったのか、わからない……英語ができれば、ネットで調べられそうですが……現段階では、ブログ主にはムリ;
文春さん、ぜーんぶ翻訳してくれないかなあ。
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三國志群雄録 増補改訂版 坂口和澄(徳間文庫カレッジ/徳間書店)

2017-08-04 09:52:39 | 中国史
ちくま学芸文庫の正史三国志を読んでも、なんだかよくわからない記述にぶつかることが多々あります。
それがたくさんありすぎて、どこの伝がどう、ということすらすぐに思い出せないほど。
ブログ主の不勉強さがおもな「わからない」の原因ですが、翻訳そのものにも、つまづきがあるような……

しかし、本書「三國志群雄録」と記述を比較することで、頭が整理されました。
正史三国志のなかの人物の行動や言動がきちんと整理されて記述されています。
単にあたらしく翻訳し直した、という記述ではなく、きちんと坂口先生がかみ砕いて書いてくださっている。
ほんとうにありがたい本です。
なるほど、そういうことだったのね、と腑に落ちたことが何回あったか。

よくある、正史や演義の記述をなぞっただけの人物事典ではありません。
著者・坂口和澄先生の私見もおりおりに綴られた本です。
かといって、単なる人物エッセイでもありませんのでご安心。
正史の記述をわかりやすく紹介してくれているうえ、原書の誤謬も指摘して、整理してくれています。

正史三国志は、たとえば、ひとりの人物の軌跡を追いかけようと伝を読んでも、あいまあいまに挟まれる多くの注釈と長ーい上奏文を読んで、自分なりに頭を整理しながら、なおかつほかの人物伝の記述を連動させつつ読まないと、理解がむずかしいときがあります。
その手間こそが歴史書にあたる醍醐味かもしれませんが、そればかりではなく、ときどき、訳がこなれていないんじゃないか、と(生意気にも)おもうときもしばしばあるんです;

そこで登場するのが本書、全人物の伝があるわけじゃありませんが、有名どころはほぼ記述があります。
「ここ、よくわからんのですわ」
と正史を読んで、それから本書に当たると、
「ああ、そういうことだったのか」
とわかります。
しかも本書は、正史の原書どおりの人物名表記をしてあるという凝りっぷり。

メディアで展開されている三国志から入った方は、まず漫画や小説で三国志演義ベースの小説に入っていくとおもいます。
さらに三国志の世界にどっぷりはまった人は、つづいて正史三国志を読むと、より長く三国志の世界を楽しめます。
が、なにぶん正史三国志はぜんぶで8巻もあり、前述したとおり、ときどき「??」な部分が出てくるのです。
ぜんぶ解決するわけじゃありませんが、本書を読むと、謎が解けること請け合い。

本書の「三國志群雄録」、さらなるディープな三国志世界を楽しむために、ぜひ入手されたらよいのではとおもいます。
いやほんと、この本を編纂するのは、かなり大変だったとおもうのです。
坂口先生の着眼点のすばらしさ、三国志愛、人物たちへの愛情をひしひしと感じられます。
坂口先生の本はどれもこれも素晴らしいものばかりなので、また紹介させていただきますね。

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一八八八 切り裂きジャック 服部まゆみ(角川文庫/角川書店)

2017-08-01 10:13:27 | ミステリー
分厚い内容に見合った、重厚なミステリーです。
なにせ1147ページもあります。
正直に打ち明けますと、読むのが遅いうえ、むかしはマルチタスク人間だったブログ主。
ちびちび読んでいたがために、なんと、この本を読み終えるまで、1年かかったという…

いま振り返ると、一年ものあいだ、「切り裂きジャック」という実在の猟奇殺人鬼の毒を浴び続けていたわけですから、もっと早く読み進めたほうがよかったかなー。
いや、物語世界がわたしを離してくれなかった、というほうが正しいです。
読むのをやめようとは、最後までおもわなかった、抜群のおもしろさ。
絢爛豪華、という四文字がぴったりの本でもあります。

綿密に取材されたノンフィクションの部分、華麗なフィクション、これからみごとに混ざり合っています。
切り裂きジャックという不穏なテーマがあつかわれているにもかかわらず、その圧倒的な暴力をみごとに中和してくれる多彩な登場人物のつむぐ物語。
終盤になっていけばいくほど、この物語から抜け出すと、19世紀のかれらとはお別れなんだなあと惜しむ気持ちになりました。
たとえるなら、一方でおぞましい事件が起こりながらも、それらを日常として含み進んでいく、不思議な世界に迷い込んでいるような錯覚を覚える本なのです。

主人公の柏木薫は、医術を学ぶためにドイツに派遣されてきている日本人。
かれの友人である圧倒的美貌と才能とで外国人にも堂々と振る舞う鷹原惟光(たかはら・これみつ)。
「光」と外国人たちに親しみをこめて呼ばれるかれは、だからといって浮ついたところもなく堅実。
一方で好奇心がつよく、正義感にあふれ、行動力もある、完璧貴公子。
それを鼻にかけて、極端にごう慢に振る舞うということもありません。紳士です。
主人公とは東大医学部以来の友人。
ちなみに伯爵家の令息です。非の打ちどころなし。
(探偵役が光で、語り部の「僕」が柏木薫、ほんのり源氏物語を想起させますねー)

鷹原と主人公は、エレファントマンの治療にあたるトリーヴス医師を頼って、ドイツからイギリスへ渡ります。
そして、発生した一連の「切り裂きジャック事件」に巻き込まれていきます。

ものがたりのしょっぱなから、ヴァージニア・ウルフや、森林太郎が出てきて、ニヤリとすることまちがいなし。
そして、デビッド・リンチの映画で有名な「エレファントマン」が物語の重要なキーマンとして登場。
そのほか、ジャックの事件を担当するアバーライン警部(映画「フロムヘル」でジョニデが演じた実在の人物)や、イギリス王太子も登場。
かれらと鷹原の交流や、ジャック事件への鷹原ののめり込みよう、医術から文学へ興味がうつっていく自身への、柏木の戸惑いが活写されていきます。
カッシーニのビーナスなる、美しくも禍々しい人体標本まで登場。
さながら仮面舞踏会で幻惑されている気持ちを味わいつつ、物語はゆっくり確実に進んでいきます。

よほど綿密に取材されたとみえて、物語は土台がしっかりしています。
なので、多少のアクロバットを繰り広げても、物語が揺らぎません。
こういう物語を書いてみたいなあ…!

折に触れ、描写される鷹原の美しさにうっとり。
ジャックの凶行にぞっとして、つづいて、怪しい男たちに翻弄される柏木に同情しつつ。
ともかく一年かけても読む価値がたっぷりある本です。
読み終わった後は、「うおう! 終わっちゃったよー!」と叫びました。
ホッとしたのと同時に、あー、もう鷹原たちに会えないのかー、と残念な気持ちにもなりました。

もうほんとうに、1888年、柏木と鷹原というふたりが、イギリスにいて活躍していたんじゃないかと、歴史を勘違いしたくなるほど、読み応え十分の本書。
読むべし、です。
華麗なる芳醇な物語に酔いしれるのも、乙な体験ですよー。
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