ハーベスト・タイム『収穫の時』

毎月発行の月刊紙『収穫のとき』掲載の聖書のお話など。

日本人の忘れ物

2004-07-18 | 中川健一のおはなし
◆7月号◆日本人の忘れ物

 何ともショッキングな事件が発生しました。
 長崎県佐世保市で、小学6年女児がカッターナイフで切られ死亡するという事件のことです。誰もが、言葉にできない痛み、悲しみ、無力感を感じたのではないでしょうか。
 このままでは、日本はだめになります。この国は、幼い子どもたちの心から崩壊し始めているからです。もちろんこれは、大人の責任です。私たちは何かを忘れてきたのではないでしょうか。その忘れ物が何かを発見するヒントを、私は最近経験したある出会いを通して見つけました。


「幼児教育はロマン」
 その出会いとは、埼玉県狭山市にある狭山ひかり幼稚園の園長、東喜代雄先生との出会いです。東先生は、最近、いのちのことば社フォレストブックスより、『愛情、あと半分は土と水とガラクタ』というユニークなタイトルの本を出版されました。私もこの本を読み、非常に感動しました。東先生はその本の中で、幼稚園教育はロマンだと語り、今まで実践してきた幼児教育に対する理念を分かち合っておられます。

 取材のために狭山ひかり幼稚園を訪問し、東先生から直接お話を伺ってきました。狭山市はかつて養蚕で栄えた町です。今幼稚園の敷地となっている所も、かつては桑畑でした。そこで東先生は、幼児教育を養蚕にたとえて、次のような話をしてくださいました。

 「毎年、絹織物の値段は春の一番蚕が二齢になる時に決まる。二齢とは、二回目の脱皮をした時、大きさは四ミリか五ミリくらい。つまり、二齢の時に蚕の固体は決まるということ。三齢、四齢となると、蚕は指ほどの大きさとなる。それから繭を作るのであるが、その段階になってから、いくら桑の葉っぱをやっても、もう遅い。
 蚕の良否は小さい時に決まる。小さいうちにちゃんと育てておけば、後はそのままにしておいてもちゃんと育つ。
人間教育もそれと同じである。幼児期にどのような指導を受けたかが、その人の一生を大きく左右する」

 ひかり幼稚園は、教育目標として次の三点を挙げています。
(1)神を畏れること
(2)両親を敬うこと
(3)社会の調和と進歩のために尽くすこと

 教育の現場から、「神」や「宗教教育」が排除されてからどれくらいの年月が経つのでしょうか。今私たちは、その刈り取りをしているのではないでしょうか。


父なる神の愛
 幼児教育に必要なのは、愛情です。そのためには、親も教師も、どこかから愛情を受け取っていなければなりません。愛されたことのない者に、他者を愛することはできません。

 最近、こういう話を読みました。
 米国アリゾナ州のツーソンとフェニックスを結ぶ、短い航空路線があります。ある牧師が、その路線の飛行機に乗り込みました。彼の隣に、女の赤ん坊を抱いた若いお母さんが座ったそうです。母子ともに白の服を着て、幸せそうな様子でした。赤子は、「ダダ、ダダ」と言葉にならない言葉をしゃべっていました。話を聞くと、実家に一泊旅行に帰っていたとのこと。空港には、お父さんが待っているのだそうです。
 ところで、この日の飛行は、気流が悪くて大揺れに揺れました。赤子が泣くたびに、母親は哺乳瓶に入れたオレンジジュースと、細かく砕いた果物とをその子に与えました。飛行機の揺れは最悪の状態となり、乗客全員が、シートベルトを締めて座っているように命じられました。
 とその時、赤子が飲んだものを戻したのです。この牧師には、飲んだ以上のものが外に出てきたように感じました。座席も床も、そして牧師の服も、汚れてしまいました。母親はうろたえ、「ゴメンナサイ」を連発したようです。牧師もまた、「ダイジョウブ」を連発しました。
 ようやく、飛行機が着陸しました。赤子は機嫌を良くし、また、「ダダ、ダダ」としゃべり始めました。赤子以外の乗客は、最悪の気分で立ち上がりました。その牧師は、上着を焼いてしまおうか、あるいは袖だけを切り取ってしまおうかと考えていたそうです。
 窓から外を見ると、真っ白な上下の服を身に付け、白い花を手にした男性が目に入りました。赤子のお父さんです。牧師は、このお父さんが、吐いた物で汚くなった赤子を果たして抱きしめるだろうかと、興味津々で眺めていたそうです。「これじゃ僕の子じゃないよ」と叫んで、逃げていくのではないかとも考えたそうです。
 ところが、その若いお父さんは赤子を抱きしめ、「僕のかわいい赤ちゃんが、帰ってきた」と言いながら、何度もキスをしたそうです。牧師はそのお父さんの後について、手荷物受取所まで行ったそうですが、その間、お父さんは何度も赤子にキスをしていたそうです。

 その様子を見た牧師は、こう結論づけています。
 「私たちはどこかで、天の父なる神の愛を疑っているのではないか。天の父の愛が、その白服の父親の愛よりも劣っていることなど、断じてないのだ」

 天の父なる神の愛を体験してこそ、子どもたちに、また周りの人たちに、愛情を示すことができるようになります。あなたは、愛されています。

 東先生を迎えての番組は、7月4週と5週、2週にわたって放映されます。ぜひご覧ください(高校野球中継のため、一部放映時間が変更になります。ご注意ください)。