続平成太平記

アジアの中の日本

韓国大統領に文在寅氏 政経癒着の克服が課題 

2017-05-20 17:16:42 | 日記

韓国大統領に文在寅氏


毎日新聞2017年5月11日 東京朝刊

オピニオン


解説


紙面掲載記事

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 韓国の朴槿恵(パククネ)前大統領の弾劾・罷免を受けて9日に実施された大統領選。新大統領に選ばれたのは革新系最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)氏(64)だった。

保守から革新への約9年ぶりの政権交代で、傷ついた韓国政治は安定に向かうのか。日韓関係はどうなるか。緊迫する朝鮮半島情勢への大統領選の影響は。


政経癒着の克服が課題 

陳昌洙・世宗研究所所長


陳昌洙氏

 国政介入事件に関与したとして逮捕、起訴された朴槿恵前大統領の親友、崔順実(チェスンシル)被告ら既得権層を社会的に認めないという判断を国民が下した形となった。

与党だった保守系の自由韓国党は、朴前大統領の個人的な資質の問題として事件を片付けようとした。

だが、国民は既得権について、強い大統領権限の下、政経癒着によって形成される構造的な問題だと捉えた。

大統領の弾劾を求めるろうそく集会に参加した市民の圧倒的な支持を受けて当選した文在寅氏は、腐敗した社会構造の刷新や財閥企業への規制に乗り出すだろう。

 国民の怒りの背景には

「1987年の民主化以降、権威主義的な大統領による力の支配ではなく、努力すれば報われる学歴社会になったはずだ」という国民意識の変化がある。

公務員でも専門家でもない崔被告が国の政策を左右し、娘が有名大学に裏口入学したスキャンダルは学歴社会の信用を傷つけ、社会秩序を破壊した事件だった。


民主化後に生まれ、頑張って受験勉強した若者が最も敏感に反応したのはそのためだ。

ろうそく集会が国会、憲法裁判所まで動かし、無血の政権交代が実現したことには歴史的意義がある。

しかし、今回のようなプロセスが繰り返されることは国家の安定にとって望ましくはない。

文氏は国会や司法による制度的秩序の信頼回復に取り組む必要がある。

今回の経験で、国民にとって大統領を弾劾するハードルは下がった。文氏が国民統合を成し遂げ、融和を実現できるかがカギだ。

文氏の政権基盤は決して強くない。

朴前大統領は前回大統領選で51%以上の得票で当選した。

文氏の得票率は41・08%にすぎず、分裂した社会を統合する力は十分ではない。

国会で過半数に満たない少数与党「共に民主党」は連立を組まなければ安定せず、難しい政権運営を迫られる。

さらに政権基盤を脅かすのは、選挙戦での公約だ。

文氏は大統領制を現行の「任期5年で1期限り」から「任期4年で再任可能」にする憲法改正を主張したが、

自らの任期を延長することはできないため、公約を実現した途端にレームダック(死に体)化する。

大統領権限の縮小や分権化を推進するなら、民間の活力を利用する必要があるが、財閥規制に着手すれば経済が冷え込む可能性があり、ジレンマを抱えている。

外交政策は、側近として支えた盧武鉉政権時代の対北朝鮮融和策に回帰し、中国との関係を改善する一方、米国とは距離を保とうとするだろう。

対日関係の改善は優先課題ではないが、「日韓関係の断絶は対米関係を悪化させる」というのが朴政権で学んだ教訓だ。

2015年の慰安婦問題に関する日韓合意の再交渉を公約に掲げているが、米韓関係が不透明な中で、日韓歴史摩擦が再燃するのを避けるのではないか。

日韓合意は元慰安婦や支援団体の合意が不十分だったと文氏は問題視している。

慰安婦に会い、支援団体に耳を傾け、日本政府が10億円を拠出した「和解・癒やし財団」をどう処理するのか、韓国内での検討に時間をかけるだろう。【
聞き手・堀山明子】

「反日」のレッテル、正しくない 西野純也・慶応大教授

西野純也氏

文在寅氏について「左派」「反日」とレッテルを貼るのは正しくない。

朴槿恵前大統領の独善的な政治スタイルを否定し、前政権によって損なわれた社会的公正や社会正義を希求する社会的雰囲気の中で発足する新政権にとって、慰安婦問題を巡る日韓合意を前向きに評価するのはそもそも難しい。

多くの韓国民にとって、日韓合意は朴政権による「正義のない合意」だと見なされている。

安倍晋三首相との首脳会談すら拒んできた朴氏が、

元慰安婦の声を十分くみ取ることなく、急転直下で合意を結んだとして、そのプロセスを問題視してきた。

文政権もこうした世論を無視できない。

文政権は日韓合意を、外交よりは韓国の国内問題という文脈で捉え、合意を再検証して対応方針を決める可能性が高い。

文政権が発足してすぐに、日本が公館前にある少女像の撤去を求めても、文氏がいきなりこの問題に手を付けるのは困難だ。

また文政権にとって、まず取り組むべきは南北関係や対米、対中関係であり、対日関係の優先順位は必ずしも高くない。

北朝鮮の核開発問題をはじめ、日本にとって韓国と協力すべき課題は多い。文氏もその点は認めている。

首相には知日派の李洛淵(イナクヨン)全羅南道知事が指名された。日本の政界にも知己が多い李氏の首相就任は、日韓関係にはプラスになるだろう。

日本は安全保障面での協力を維持しながら、まずは文政権との関係構築に努めるべきだ。最初から慰安婦問題で急ぐ必要はない。

両首脳に直結する高いレベルでの対話チャンネルを早期に開き、首脳同士の対話を準備することが望ましい。

首脳間の対話を急いでボタンを掛け違えてはならないが、意思疎通がないままでは朴政権初期の冷え込んだ両国関係を繰り返すことになる。これは避けるべきだ。

当面心配なのは日韓関係より、むしろ米韓関係だ。韓国への配備が始まった迎撃システム「終末高高度防衛(THAAD)ミサイル」の費用負担を巡り、トランプ米大統領が配備費用10億ドルを韓国が支払うべきだと主張したことで、米韓関係は波乱含みのスタートとなる。

韓国内には、トランプ政権が朝鮮半島の危機をあおり、日本がそれに便乗しているように見えることにも反発が強い。

文氏は就任演説で「条件が整えば平壌にも行く」と述べた。

今後、盧武鉉政権で中心的な役割を果たした人々が青瓦台(大統領府)に多く入ることになれば、南北関係の改善を強く主張し、北朝鮮に対する認識は日米両国との間でかなり違いが出ることになる。

日米韓はこれまで「抑止」と「防衛」で協調してきたが、韓国は北朝鮮への「関与」に力点を置くだろう。

他方、北朝鮮への圧力を最大限にかけたトランプ政権がある段階で一転して「関与モード」に入り、日本が米韓に取り残される可能性も否定できない。

文政権は「朝鮮半島の緊張緩和に日本がどのように貢献してくれるのか」という点から日本との関係を考えるはずである。

日本はそれにどう応えるのかが、文政権から問われることになる。【聞き手・尾中香尚里】

危険な対北朝鮮融和政策 神谷万丈・防衛大学校教授

神谷万丈氏

韓国は大丈夫なのだろうか。

文在寅新大統領は北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長との対話に前向きだが、融和的な姿勢は、北朝鮮の核・ミサイル開発の黙認につながる。

日米は北朝鮮の核とミサイルに重大な脅威を感じていればこそ、中国も巻き込んでその暴走を抑えようとしている。

韓国がこの現実を無視すれば、これまでの取り組みを根底から覆しかねない。


終末高高度防衛(THAAD)ミサイルについて、文氏は就任演説で「米国、中国と真摯(しんし)に協議する」と述べたが、そもそも米韓両国間の取り決めとして韓国に配備された。

韓国が約束をたがえればトランプ米大統領は「同盟国でない」と突き放す可能性もあり、東アジアの安全保障に重大な影響を及ぼす。

抑止力とは、相手が好ましくない行動を取ることを思いとどまらせる力であり、中心は軍事的な報復力だ。

北朝鮮を抑止するには専守防衛の日本だけでは不十分で、米国の核による「拡大抑止」が必要だ。

北朝鮮の核能力が高まる中、冷戦期に欧州で論議された「万一の際には米国が本当に報復してくれるのか」というテーマが日本に突き付けられている。

日本が攻撃された時、自らも標的になるリスクを冒す覚悟が米国にあるかどうかということだ。

韓国も米国の拡大抑止に依存しているが、韓国が北朝鮮に対して融和的になれば、報復しようという米国の意思の低下を招きかねない。

視点を日本に移せば、

長らく日本の平和主義は「国際平和のために行動する意思」と「平和のために軍事力を『使う』意思」について考えることを避けてきた。

軍事力は人を殺傷するが、同時に平和を築く役割もある。

湾岸戦争(1991年)をきっかけに国際貢献は必要だという認識が定着し、北朝鮮による弾道ミサイル「テポドン」の発射(98年)を機に軍事力への極端な忌避感も薄れてきた。

だが、「平和のためには軍事力が必要だ」との認識はまだ広まっていない。

敵地攻撃能力を持てばいいという安直な話ではない。軍事力をうまく使わなければ平和は保てないということを理解した上での冷静な議論が求められる。

今日、軍事力の役割は戦争に勝つことではなく、抑止することにある。

北朝鮮もそれは理解していると信じたいが、心配なのは偶発的衝突だ。

3月6日に北朝鮮のミサイルが日本の排他的経済水域に落下した時、多数のイカ釣り漁船などが操業中だった。

万一被害が出ていたらどうなったのか。北朝鮮はその危険を認識していただろうか。

日本は日米同盟を基調に北朝鮮の暴走を抑えるしかない。

少し風向きが変わってきたとはいえ、中国には韓国主導の朝鮮半島統一は悪夢で、平壌を抑える役割には限界があるだろう。

そんな中、肝心の韓国には暗たんたる思いがする。

懸案だった慰安婦問題で政府間合意ができ、軍事情報包括保護協定も結ばれ、ようやく日韓関係改善かと期待したのに、合意の一方的破棄を唱える政権が誕生した。

「韓国との関係はどうにもならない」という空気が日本で広がることを心配している。【聞き手・隈元浩彦】


盧政権を中枢で支える

文氏は1982年、後に大統領となる盧武鉉(ノムヒョン)氏の法律事務所の経営に参加。人権派弁護士として活躍した。

盧政権では大統領秘書室長を務めるなど政権を中枢で支えた。

2012年の前回大統領選にも立候補したが、朴槿恵前大統領に敗れた。

朴前大統領の失脚に伴う今回の選挙で当選した文氏は10日の就任演説で「権威的な大統領文化を清算する」と訴えるとともに、北朝鮮問題では「条件が整えば平壌にも行く」と述べ、訪朝の意思も示した。
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