2014-10-14
韓国、「迷走サムスン」再び始まった日本企業「パクリ商法」
勝又壽良の経済時評
サムスン人員整理は不可避
パナソニック商法をパクリ
韓国を代表する企業のサムスンは、「一本柱」であるスマホの売上げ不振で経営が迷走状態に入っている。
「二番手商法」の哀しさゆえに、独自技術を持ち合わせていない悲劇だ。
日本の半導体技術をうまく掠め取って、果敢な設備投資による量産化効果を発揮、ライバルの日本企業を抜き去った。
この背景には、超円高相場によって日本企業の輸出が著しく困難になった事情もある。サムスンは、超円高の裏側で「超ウォン安」相場という恵まれた環境でぬくぬくと温床にしたってきたのだ。
サムスンは、技術が日本発。為替は超ウォン安。夢のような経営環境で急成長できたのである。
ところが、「好事魔多し」である。「棚ボタ」が何時までも続くはずがない。ついに勝利の女神から見放されたと言って間違いない。カリスマ経営者の李健熙(イ・ゴンヒ)会長が脳梗塞に倒れ病床にあることが一層、経営の舵取りを困難にさせている。
サムスン人員整理は不可避
『朝鮮日報』(10月1日付け)は、次のように伝えた。
① 「スマートフォン事業の不振で危機に陥っているサムスン電子が、近ごろ限界にぶち当たった事業を整理し、社員を配置転換するなど、再編を加速させている。
好況を謳歌していたここ数年間で肥大化しすぎた組織をスリム化し、新たな成長エンジンを見つけるための非常対策の一環だ。
無線事業部ではタイゼンを搭載したスマートフォンの発売がなかなか進まないが、ほかの事業部ではすでにタイゼン(注・サムスン独自開発のOS)を利用したテレビやスマートホームサービスなどの公開を控えているため、こちらにソフトウェア担当者を充員し、スマートホームの構築を急ぐ考えだ。
7月にはソウル市瑞草区の社屋に勤務していた財務・人事担当者の15%(約150人)を京畿道の水原市や竜仁市器興区などの事業所に配置転換した」。
サムスンの経営を「危機」に陥っていると表現していることに注意していただきたい。
昨年12月は、サムスンが空前の好景気で社員に「特別ボーナス」を支給したほどである。
それからわずか10ヶ月。新聞報道では、「危機」と言われるほどの事態急変である。
サムスンが、スマホの「一本足経営」であることの不安定さを如実に現している。
原因は、スマホが特殊技術でなくなり、いとも簡単に製造できる。そういう「汎用品」(コモディティ)となったことである。
人件費の安いところでは、それを武器にして低価格品の製造が可能になった。サムスンは、こうした汎用化への変化を見落としていたのだ。
急成長企業にありがちな組織の肥大化が進んでいる。
カリスマ経営者は、部下の統帥方式として、「信賞必罰」を行わざるをえない。能率の上がらない社員にはムチを振るって降格人事を行う。
業績の上がった社員は、昇格させなければならないのだ。給与のほかにしかるべきポストを与える。急成長に次ぐ急成長だから、「昇格人事」オンパレードであったに違いない。
後のパラグラフで取り上げられているが、「サムスン電子の無線事業部は、社長だけで5人もいるほど役員が多い」というのだ。
社長が5人とは驚きである。本当の社長と名目上の社長と区分けでもしているのか。ともかく、李健熙会長は「社長の大安売り」をしてしまった。これが、今後の経営において「ガン」となることは必至であろう。
② 「サムスン電子の社員の間では、構造調整はまだ始まったばかりだとの見方が強い。
限界の事業を整理すれば人員削減の必要性が出てくるためだ。同社の4~6月期の国内従業員数は9万5976人で、前期に比べ396人減少した。
従業員数の減少は、2012年1~3月期のサムスンディスプレーの分社化以来となる。
サムスン電子の次長は、業績の悪化が続いているため、同僚たちの間では『年末ごろに希望退職者を募集するのでは』とのうわさが飛び交っていると打ち明けた。
サムスン生命やサムスン証券などの系列会社は、業績の大幅な悪化を受け4月に希望退職者を募集し、計1300人余りが退職している」。
この7~9月期の営業利益は、前年比で約6割の減益になっている。
利益が半分以上も落ち込んでいるのだ。肥大化した組織にメスが入るのは致し方ない。
サムスングループでは、すでにサムスン生命やサムスン証券で1300人あまりの希望退職が募られた。
サムスン電子本体でも、大幅な人員削減に踏み出すであろう。企業の「栄枯盛衰」とはいうものの、余りにも変化が激しすぎる。
営業利益面では、3年前の2011年第2四半期とほぼ同じ状況に逆戻りした。人員整理の大ナタが振るわれる。十分に想像可能だ。
③ 「年末の役員人事でも波乱が予想される。
サムスン電子の無線事業部は社長だけで5人もいるほど役員が多い。
スマートフォンで世界1位を達成したことを評価し、大々的な昇進人事が行われたためだ。その結果、組織が肥大化しすぎ、スピーディーな意思決定ができなくなっているとの指摘も聞かれる。
今回の人事では昇進者を減らし、大々的な組織の再編を実施する可能性が高い。西江大のチョン・オクヒョン教授は、『危機に直面したサムスン電子は、組織をスリム化し、多様化した製品ラインを調整して効率を高めるべきだ』と指摘している」。
サムスンにとって悲劇なのは、スマホに代わる製品が育っていないことだ。
これを裏返せば、基盤技術が揃っていないことでもある。
例えば、サムスン急成長の推進翼は半導体である。
この半導体は、いわゆる「汎用品」とされる「メモリー半導体」であって付加価値率が低いのだ。
半導体の本命は、「システム半導体」と言われる複雑な製品であるゆえ、付加価値率が高い。
サムスンのみならず韓国の半導体産業は、ほとんど「メモリー半導体」メーカーである。これに比べ、日本は「システム半導体」技術を持っているから、容易に家電以外の分野へ進出できるのだ。
改めて、技術基盤の厚みが企業の運命を左右することを示している。
サムスンにしてやられたと言われるパナソニックは、すでにシステム半導体を活用した自動車部品と住宅関連産業への進出を決め方向転換した。
この経営戦略の大転換を見たサムスンが、なんと同じようなことを始めたと話題になっている。あくまでも日本の「パクリ商法」に徹する。商魂の逞しさを見せているのだ。
パナソニック商法をパクリ
『産経新聞』(10月2日付け)は、次のように伝えた。
④ 「ベルリンで9月に開かれた世界最大級の家電見本市『IFA2014』で、韓国サムスン電子のブースの異変が業界関係者の話題になった。
例年なら新型ディスプレーなどを前面に打ち出すのだが、今年は『白物家電』や『BtoBビジネス』(企業間取引)を強調し、まるでパナソニックの事業改革戦略の“パクリ”にもみえたからだ。
確かに主力のスマートフォンの不振で減益に苦しむが、デジタルAV家電で圧勝した相手のお株を奪う振る舞いに、関係者は『よく言えばしたたか、悪くいえばそこまでするかというのが本音』と話す」。
韓国企業には、一種の甘えがあると思う。
日本企業が韓国企業の真似をすることはプライドが許さない。
韓国企業にとって、日本企業は「先生役」である。真似をしても許される。そいう部分はあるに違いない。
そうだとすれば、韓国国民が「反日」で無節操な日本批判をする根底には、日本への劣等感が渦巻いているのであろう。
それにしても、サムスンが経営不振となって、瞬時に日本企業の真似をして同じ分野へ入ってくる。「二匹目のドジョウ」を狙うあたり、すばしっこいと言うほかに言葉を知らないのだ。
⑤ 「サムスンは、スマホ以外に手堅く利益を生み出せる事業を育てる必要がある。
そこで目をつけたのが『スマートホーム』と『BtoB』だった。『スマートホーム』は呼び方こそ違うものの、パナソニックや東芝などが数年前から力を入れている分野だ。
特にパナソニックは東京と大阪の旗艦ショールームで、東京五輪が開かれる2020年の暮らしを体験できるコーナーで紹介している。
あらゆる電化製品がつながり、暮らしが便利になるというコンセプトは共通だ。
パナソニックの高見和徳専務は、サムスンについて『デジタルAV製品の収益が苦しくなるなかで、白物家電(を組み合わせたサービス)に向かっている』と語り、『ブランドの立ち上げが速い。非常に上手だと思う。そういうプロモーション力はわれわれも学ぶべきところがある』と警戒する」。
パナソニックの「スマートホーム」は、自社の湘南工場(藤沢)跡地で約1000戸(3000人居住)の住宅開発をしながら、実験している分野である。
当然、試行錯誤を繰り返しながら商品性を検討して進めているものだ。それを横から、ひょいと手を出し利益だけいただくというやり方は、日本社会ではあり得ない「狡猾商法」に違いない。韓国人が、日本で批判される理由もこうした点にあるのだろう。
⑥ 「パナソニックの戦略や製品との酷似はそれだけにとどまらない。
サムスンはこの場で、防水や防塵などで耐久性を高め、物流や建設など屋外の現場で使える『BtoB』タブレット端末の『Galaxy Tab Active(ギャラクシー・タブ・アクティブ)』を売り出すと表明した。
画面は8インチ液晶。取り外し可能な電池は10時間持続し、1・2メートルの高さから落としても壊れないのが特徴という。サムスンは『BtoB』の強化にもギャラクシーブランドを活用するが、『BtoB』タブレットはパナソニックがすでに国内外で展開している」。
「BtoB」タブレット端末も、パナソニックがすでに内外で展開している製品である。
このアイデアを「頂戴」して、素早く商品化する。これまでのサムスンが、やってきた日本製品の「パクリ商法」の繰り返しである。
普通では、こうした「パクリ商法」は気恥ずかしくてできないものだ。ましてや、サムスンの売上高は、パナソニックをはるかに超えている。「王者」としてのプライドはないのだろうか。こうした点が、日本と韓国では根本的に異なっているのだ。
サムスンがいくら「パクリ商法」といえども、「システム半導体」をベースにした自動車部品への進出は無理である。
世界の半導体生産の潮流は、高付加価値のシステム半導体へ向かっている。
世界の半導体の製品別シェア(2011年、出典ガートナー)は、「システムLSI」が33%、「MPU」(マイクロプロセッサ:超小型演算装置)は15%、「DRAM」(半導体メモリー)が9%である。
韓国半導体は、日本に対して「量」で勝っているが「質」で負けている。
問題は、自動車産業が「自動運転車時代」へ入ろうとするなか、前述のように韓国国内でシステム半導体生産の準備がほとんどされていない。
韓国は、「自動運転車時代」においても、外国から主要部品の輸入で凌ごうということであろうか。その点で、日本半導体メーカーが先見の明を発揮している。パナソニックは、自らの技術を生かして新分野の自動車関連部品へ進出した。
『中央日報』(9月1日付け)は、次のように報じた。
⑦ 「2012年、パナソニックは緊迫した状況で津賀一宏最高経営責任者(CEO)が救援投手として登板した。
就任直後から彼は大々的な改革に出た。そのうちのひとつが、これ以上突破口がみつからなかった消費者対象(BtoC)家電事業部門を、果敢に放棄することだ。
そして、重心を企業対象(BtoB)製品にシフトした。特に自動車電子部品事業に目を向けた。だが、大多数は自動車電子部品市場への進出に否定的だった。
現代自動車の現代モービス、ゼネラルモーターズ(GM)のデルファイのように、主要な自動車メーカーにはすでに部品供給元がある。
メーカーを問わず部品を売るボッシュのような絶対強者もいる。自動車部品は、変動がほとんどない安定した市場だ。このような鉄壁の市場に新規参入するのは事実上不可能というのが常識だった」。
パナソニックの方向転換は、2012年から始まった。これまでの消費者対象(BtoC)製品から、企業対象(BtoB)製品へと切り替えた。
BtoCは、同業との販売競争が激しく、製品を真似られるリスクを抱えている。
現に、スマホがその好例である。技術移転が簡単な分野では、製造コストが競争力を左右するのだ。米国のGE(ジェネラル・エレクトリック)、それにドイツのシ-メンスが相次いで家電分野から撤退した理由はこれでる。
パナソニックが先鞭を切って「BtoC」から「BtoB」への移行を決断した。
日本の電子部品産業は高い収益率を上げている。典型的なBtoB製品であるから、技術基盤がしっかりしていれば盤石な競争力を維持できる。
TVなどの部品で磨いた高い技術水準に助けられて、スマホ・ブームでも日本製部品は引っ張りだこになっている。パナソニックは、自動車部品分野で確固とした収益基盤を築くという戦略に転換した。
⑧ 「それでもパナソニックは無謀な挑戦を敢行する。そうするだけの理由があった。
自動車電気部品市場を綿密に分析した結果、フォード、GM、アウディなど自動車メーカーのOEM(相手先ブランドによる生産)で成長した部品メーカーに弱点があることを発見した。
急速に変化していくIT技術と、これに伴う消費者ニーズに迅速に対応できていないことだった。これに対しパナソニックは、この分野に強かった。長い歳月にわたりITと家電消費者に対する理解が蓄積されており、これを基に顧客のニーズに速やかに対応することができた」。
⑨ 「パナソニックはナビゲーション、リチウムイオンバッテリー、カメラモジュール、後方感知センサーなど24種類の自動車電機電子部品装備を相次いで生産した。
フォード、GM、クライスラー、アウディ、メルセデスベンツ、現代、フォルクスワーゲンなどほとんどすべての世界的自動車メーカーから相次いで受注を獲得した。
結局、業界の常識を破りパナソニックは2013年に自動車電子部品で106億ドルの売り上げを記録した。
パナソニックはまだ完全に成功したのではない。しかし、果敢な挑戦を続け再跳躍の道に入った。沈滞から抜け出すことができないソニーとは完全に違う道を進んでいるのだ」。
自動車部品では後発のパナソニックが、フォード、GM、クライスラーなどへの売り込みに成功したのは、自動車自体が日々、進化しているからだ。
自動車部品は事実上、「電子部品」(コンピュータ)の塊とも言われている。
夢の自動車とされる「全自動運転車」(スマート・カー)は、まさに電子部品の集合世界である。
パナソニックが、この分野で安定的な収益基盤をつくる戦略は、GEやシーメンスの方向転換から見ても正しかった。
サムスンは基礎技術の脆弱性が災いして、パナソニックの「パクリ商法」で糊塗しているのだろうか。
(2014年10月14日)