サムスンにふりかかる“チャイナパニック” 日本製品に頼る韓国製造業の現実
産経新聞 7月24日(木)12時5分配信
弱り目に祟り目-。心臓麻痺で倒れて入院した李健煕(イ・ゴンヒ)会長が回復せず、カリスマ不在に陥っている韓国最大企業、サムスン電子が7月に入って次々とトラブルに見舞われている。
2014年4~6月期の連結決算(速報値)は9年ぶりの減収減益で、歯止めなき業績の低迷ぶりを露呈。
売れ筋に全力投球するサムスンのビジネスモデルの限界を指摘する声が強まってきた。
さらに、サムスン電子が「ない」と否定したはずの中国の取引生産会社での児童就労疑惑が再浮上。
ブラジルでは、現地工場が武装強盗に襲われ、約640万ドル(約6億5000万円)相当の製品がまんまと奪われる事件が起きた。巨大グローバル企業、サムスングループの兵站に軋みが生じているのか-。
■業績不振は一時的ではない
7月8日発表のサムスン電子の連結営業利益は、前年同期比24%減の7・2兆ウォン(7200億円)。営業利益が前年実績を割ったのは3四半期連続だ。
7~9月期は回復するとの強気の見通しを示すサムスン電子だが、市場は見方はそんなに甘くはない。
聯合ニュースは「証券各社が7~9月期の営業利益見通しを下方修正しそうだ」と報じた。
金融情報会社集計によると、証券26社が示すサムスン電子の7~9月期の営業利益見通しは、前年同期比15・4%減の平均8兆5972億円ウォンで、「サムスンの業績不振が一時的なものではなく、スマートフォンの構造的不振だ」とする分析が多かった。
■親密国・中国のメーカーの追い上げに苦悩
サムスン電子を崖っぷちに追いやる勢力は何なのか。
ライバルは高級価格帯の「iPhone」を主力とする米アップルではない。
華為技術(ファーウェイ)や小米科技(シャオミ)といった中低価格帯を得意とする中国メーカーだ。
「韓国の製造業界はチャイナパニック」と題した記事を配信した中央日報(電子版)は「成長の限界にぶつかった韓国の製造業は中国の追撃を空しく見守らなければならない境遇に追い込まれた」と危機感を強めた。
同紙が「韓国製造業の国家代表」と位置づけたスマホ。
先端製品とマーケティングを研究した中国メーカーは、価格競争で市場を攻略していた依然の手法から転換し、韓国の脅威になっている。
サムスン電子の典型的なビジネスモデルは、世界的に売れる商品に目を付けて、技術者のヘッドハンティングを含めて投資を集中。
個人消費が旺盛な市場に販路を広げ、企業を巨大化させるやり方だった。
日本メーカーを追うように1980年代に「産業の米」といわれた半導体分野で飛躍。低価格のパソコン、薄型テレビや録画機にシフトし、足もとは、携帯やスマホ分野が主軸になっていた。
パナソニックやソニーは、サムスン電子の脅威にさらされたが、サムスンもまた中国メーカーに脅かされる事態に陥っているわけだ。
韓国は、日本と違って高い技術力を持つ中堅・中小製造業の厚みがなく、中枢部品を日本の精密機械メーカーにも頼っているのが現実で、イノベーションの基盤が弱点。それだけに、中国の追い上げによる打撃はより深刻だ。
■子供が1時間に「700個」のスマホ組み立て
しかも、世界中に広がったビジネス拠点のあちこちで、トラブルが相次いでいる。
4~6月期の決算発表前日の7月7日には、ブラジル・サンパウロ州にあるサムスン電子の工場を約20人の武装強盗が強襲。スマホやパソコンなどの電化製品が約4万点が持ち去られた。
米紙ウォールストリート・ジャーナルは「サムスン電子はブラジルや中国、米テキサス州オースティンなどに主力工場を持つ。今回の事件では、世界規模で無秩序に拡大させた製造・物流拠点を運営することの難しさが浮き彫りになった」と指摘した。
現地報道によると、強盗はなんと、工場スタッフの身分証明バッジを持っていたうえ、高額製品がある場所を把握。3時間も工場に滞在し、トラック7台に分けて持ち去ったとの情報もある。現地従業員を装って侵入した可能性もあるという。
一方、中国では、サムスン電子と取引のある現地工場で、違法な児童就労疑惑が浮上した。
英紙フィナンシャル・タイムズは、7月初めに投資家らに「自社製品の生産に、未成年者は携わっていない」と説明したサムスン電子が1週間後に再び疑惑にさらされたと報道した。
米労働者保護団体「チャイナ・レイバー・ウオッチ」(CLW)は7月10日、サムスン電子の中国南部の取引先企業で14~15歳の労働者5人を見つけたことを裏付ける証拠があったと発表した。
CLWは、子供らは、偽の身分証明書で雇われていたうえ、サムスン電子が下請けに求めていたはずの身元確認も行っていなかった。
子供は11時間の夜間労働で、1時間に700個のスマホ部品を組み立て、時間外勤務の時給が7・5元(約122円)しかなかったという。
子供を劣悪な環境下に置いて作った製品を売るような状況になっていたとすれば、サムスン電子は国際的な批判を免れず、商品イメージを大きく傷つける。
サムスン電子が7月初めに公表したリポートでは、中国に約200社以上ある取引企業の多くで、法定制限を超える長期間労働などの違法行為は認められたものの、児童就労は見つからなかったと報告していただけに、不信感を抱かせる結果になった。
7月だけでも、これだけの問題に直面したサムスン電子。これまでも米アップルと繰り広げた特許訴訟合戦のほか、成果主義に基づく激烈な社内競争や過労問題などでもたびたび注目され、業績や商品以外での話題にも事欠かない。
身の丈にあった成長をサムスン電子は本当に遂げているのか。立ち止まって考える時期にあるのかもしれないが、韓国経済を背負う国家企業には、そんな余裕さえ許されないのだろう。