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         (K・撫子)

【ボレロ】 36-1 -理想の結婚-

2017-08-13 | ボレロ 第二部



遠堂右京さんから婚約の申し出があったのは昨日のこと。

この春、沙妃と右京さんはアメリカへ留学の予定で、その前に婚約したいとの申し出だった。



「大事な話を前に、右京さんも緊張していらしたのね」



新年の挨拶に訪れた右京さんは、両親と沙妃を前にいつになく緊張の面持ちで、落ち着かない様子だったそうだ。

仕事始めの宗を見送って間もなく、今日お邪魔してもいいかしらと母から電話があった。

早い時刻の電話に、実家でなにか問題が起こったのではないかと予感はあったが、沙妃の婚約の話とは思わなかった。



「いつも落ち着いていらっしゃる右京さんが、そわそわした感じだったわね。

渡米の準備は進んでいますかとお聞きしても、はい、と言ったきりで、お話が続かないのよ。

今日はどうしたのかしら、お加減でも悪いのかしらと思っていたら、突然婚約のお話ですもの。

私もお父様も驚きましたよ」



昼前にやってきた母は、結姫を膝に抱きながら昨日の出来事を一気に語った。

「ひめちゃんに会いたくなったの」 というのが急な訪問の理由だったが、一昨日も会ったばかりである。

よほど話を聞いてほしかったのだろう。



「右京さんがお父様に婚約のお話をすること、沙妃ちゃんも知っていたの?」


「いいえ、知らなかったそうよ。右京さんと婚約の話をしたこともなかったそうなの」


「えっ、沙妃ちゃんに相談もなくお父様に話したの? 沙妃ちゃん、驚いたでしょう」


「右京さんがお帰りになってから、沙妃の機嫌が悪いのよ」


「そうでしょうね」


「今朝もまだ不機嫌な顔で黙ったまま、お父様はなにもおっしゃらないし、私も気が重くて」



だれよりも先に沙妃に話すべきなのに何の相談もなかったのだ、沙妃が怒るのも無理はない。



「右京さんへお父様のお返事は? まさか、沙妃ちゃんの気持ちも聞かずに承知したなんてことはないでしょうね」


「いくらなんでも、そんなことはしませんよ」



少し時間を頂きたいと返事をしたが、次々に持ち込まれる沙妃の縁談に閉口していた父は、右京さんの申し出に前向きな姿勢を見せているそうだ。



「あちらのご両親は、婚約に大賛成ですって。すぐにでもお話を進めたいとおっしゃっているそうよ」



あとは沙妃の気持ち次第ということである。



「右京さんから相談がなかったことにこだわって、意地になっているのね。

沙妃の気持ちもわかるけれど、いつまでもこのままではねぇ……あなたから話してもらえないかしら」


「それはいいけれど、お母様は婚約に賛成なの? それとも反対?」


「あの子の気持ちを一番に考えてあげたいと思っているわ。

あなたの結婚で、私たちもいろいろ学びましたから。無理強いはしたくないの」



私の結婚では、体調を崩すほど思い悩んだ母である。

同じ過ちは繰り返したくないとの思いは強いのだろう。



「わかりました。沙妃ちゃんの気持ちを聞いてみます」


「おねがいね。あぁ、思い切って出かけてきてよかった。胸のつかえがとれたわ。

ひめちゃん、何をして遊びましょうか」



結姫を抱き上げた顔から悩みの色は消え、結姫を呼ぶ声も軽くなっていた。

母が私を頼りにしてくれたことが嬉しかった。





それから数日後、思いもかけない知らせが舞い込んできた。

その日、沙妃と食事の約束をしていた。

妊娠後期に入り、思うように動けなくなる前に美味しい食事を楽しみながら、沙妃の話し相手になるつもりだった。

沙妃からの着信を知らせる電話の表示をみながら、出かける服が決まらないから少し遅れるけれど……と、そんな連絡だろうと思っていた。

それにしては沙妃の声は沈んでいた。



『珠貴ちゃん、おはよう』


『あら、おはよう。お洋服は決まった? 予約の時間までにはいらっしゃい。待ってるわ』


『あのね……反対されちゃった……』


『沙妃ちゃん? 何を反対されたの。わかるように話してちょうだい』


『うん……右京先生のお父様、婚約には反対だっておっしゃったそうなの』


『お父様が反対って、そんなはずないでしょう。賛成してくださったはずよ、お母様は確かにそういって」


『反対しているのは右京先生の実のお父様……わたしじゃだめなのかな……』



涙をにじませた声の沙妃へ、とにかくこちらへいらっしゃいと伝えて電話を置いた。

私を送るために出かける準備をしていた宗も、ただならぬ電話の会話に心配顔である。



「沙妃ちゃん、どうしたって?」


「あちらのお父様が、ふたりの婚約に反対なんですって」


「遠堂家の?」


「そうではないみたい」


「ということは、土屋さんか。あの人は、なんだって口を挟んで話を複雑にするんだ。

賛成しておきながら、ここにきて反対するか。まったく……」



右京さんの実のお父様は、宗の大学の先輩である。

弁論部の大先輩の土屋さんを、宗は昔から苦手としていた。

右京さんと沙妃の恋愛は応援しているが、土屋さんのこととなると苦々しい顔を見せる。



「右京君はいいが、あの人との付き合いは遠慮したいね。親戚付き合いなど、まっぴらごめんだ」


「とにかく母に聞いてみます」



宗の愚痴には取り合わず、私は再び電話を手にした。











ジャンル:
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