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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

東アジア安全保障,フィリピンISIL騒乱が及ぼす米中の南シナ海/南沙諸島情勢への影響

2017-06-15 23:26:14 | 国際・政治
■ISILと南沙諸島問題の連環
 中東から展開したISILのフィリピンでの攻勢、この問題は間接的に我が国を南シナ海問題とシーレーン防衛という意外な形で影響を及ぼすかもしれません。

 フィリピンでのイスラム過激派ISILの勢力顕在化は東アジア地域へのISIL勢力浸透拠点構築という直接的な脅威の展開と共に間接的に大きな問題の可能性を示しています、それはフィリピンのミンダナオ島が南シナ海地域に隣接し、この海域での中国と沿岸諸国との南沙諸島問題と西沙諸島問題という領有権問題に影響を及ぼす可能性があるということ。

 南シナ海での海洋法執行秩序の空隙に乗じてISILは中東のイスラム戦闘員を展開させた、現在までに報道されている中東系ISIL戦闘員のミンダナオ島騒乱関与から見出す事が出来ます。すると、陸上での治安作戦に併せ、対テロ海上阻止行動、過去にアラビア海において同時多発テロ以降に実施され、我が国も給油支援した任務と同様の対処が必要でしょう。

 日中と米中の懸念すべき海洋法秩序問題、この第一線となり中国軍がこの海域と東南アジアを結ぶ海域の他国の環礁を占領し人工島を造成し軍事基地化を進めている、この海域はアメリカ海軍が航行の自由作戦を展開し中国の海洋閉塞化を強く牽制していますが、ここにテロ対策として海洋法執行を強化させる措置を各国が執れば、別の摩擦を呼ぶでしょう。

 バタリカン演習、アメリカも無策であった訳ではなく、バタリカン演習として2002年から実施されている対テロ任務はイスラム武装勢力アルカイダのフィリピン浸透を警戒したもので、これは在比米軍が1992年にフィリピンのピナトゥボ火山噴火により米軍スービック海軍基地とクラーク空軍基地が火山灰被害により閉鎖され、その後のフィリピン政府の在比米軍撤収要請後、活性化したゲリラ対処が主眼です。

 しかし状況が一転したのは親中政策を掲げるフィリピンのドゥテルテ政権発足と共にフィリピン国内での米軍駐留を認めないとして治安作戦の終了を発表した事です。ドゥテルテ大統領の親中気運の反面、ISILはインドネシア国内やマレーシア国内への拠点構築に失敗し、海路を警戒が甘いフィリピンのイスラム社会へ浸透し新たな拠点構築に成功しました。

 影響が南シナ海問題へ飛び火する前に鎮静化が望ましいのですが、この点について。フィリピン陸軍の人員規模は陸上自衛隊と同程度です。しかし、戦車は一両も無く装甲車もヴェトナム戦争後の米軍中古が中心、火砲は第二次世界大戦中のアメリカ製火砲が主流です。島嶼部が多くヴェトナム戦争中の中古水陸両用装甲車をアメリカから供与されていましたが老朽化で稼働不能となり、近年韓国海兵隊中古水陸両用強襲車供与を受けました。

 ISIL対処作戦、問題はフィリピン軍の空中機動能力不足です。フィリピンは陸海空軍共に輸送ヘリを一機も保有せず、多用途ヘリコプターとしてUH-1H多用途ヘリコプター42機が主力、近年ドイツより中古のUH-1Dを11機取得、対地攻撃用にOH-6観測ヘリコプター25機、AW-109観測ヘリコプター6機を装備、国内に製造工場が皆無で整備は専門業者を受け入れ細々と運用しています。

 海軍力の不足も大きく、ISILの浸透や対戦車火器や迫撃砲などの重火器入手経路がはっきりしません。この中でフィリピン海軍には保有艦艇に第二次世界大戦中の護衛駆逐艦や戦車揚陸艦が未だに残る有様で、近年アメリカ沿岸警備隊中古の大型巡視船2隻が導入されましたが、ISILの移動に海上輸送が含まれていた場合、これを遮断する能力がありません。

 赤十字国際委員会によれば、二週間以上にわたる一連の戦闘によりフィリピン国内では既に24万もの国内難民が発生しており、マラウィ市内でのISILとのフィリピン軍の戦闘はさらに長期化する可能性が高く、危機的ではないものの、このまま雨期に入れば避難民には呼吸系疾患などにより衛生面での生命の危険に曝される可能性があると警告しています。

 事態沈静化のため同島を含む周辺地域に戒厳令を布告していますが、フィリピン国内にISILの策源地が構築される事は日本本土へのISILテロリスクが高まる問題と共に、フィリピン国内には多くの邦人が日経企業の進出と共に居住しており、状況がミンダナオ島から無差別テロ攻撃の形でフィリピン全土へ拡大したならば、在外邦人保護の問題も生じます。

 問題は別の視点で。それは日本からの武器供与問題です。現在フィリピン軍では海上自衛隊より貸与されたTC-90練習機を運用中ですが、元々は海洋監視任務、具体的には中国に不法占拠されるミスチーフ環礁問題を受け、海洋哨戒能力構築へ貸与されたものです。しかし、COIN機として転用や観測機として戦闘支援に用いられる可能性は否定できない。

 自衛隊貸与のフィリピン軍機が直接もしくは間接的に今回の戦闘へ使用された場合、勿論全ての軍用装備品は戦闘を抑止し、戦闘に際しては其の拡大を阻止する事が任務故に当然と云えば当然ですが、これからの自衛隊装備品の第三国貸与の在り方への国会論議での野党による、少々安全保障の国際感覚から外れた議論の的となる可能性も否定できません。

北大路機関:はるな くらま
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