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アメリカのリスク 大統領選にみる変容と国際公序再構築【13】 アメリカ第一主義の不明確な方向性

2016-10-19 21:52:57 | 国際・政治
■アメリカ第一主義とポピュリズム
 アメリカのリスク、その最たるものはアメリカの今後展開する国際政治への関与の度合いが全く分からないことに起因するものがあります。アメリカ第一主義は孤高大国志すか引き籠りか。

 民主党共和党候補討論会では醜聞記事の応酬が続き政策討論が遅滞している状況なのですが、例えば一方の候補者の主張にたいし疑義をはさむ要素が多いにもかかわらず、一定の支持者がいるという実情こそ、問題といえるでしょう。北朝鮮の核兵器開発問題では、その核兵器が主たる標的としているのがアメリカ本土であるのに対し、その事実を容認せず日本と韓国の核武装を促し、北朝鮮との軍事的対立という命題を無視しようとしました。

 仮にアメリカ世論が韓国の核兵器による恫喝を受け軍事併合される状況を容認し、日本の核武装へも容認する、という新しい視点を示すならば整合性をとることができるのですが、そこまで考えていない、という実状が追認されつつ、この政策を提示した候補者への支持が減らない、という状況が現出しています、故に候補者の問題領域というよりは、まともな政策論争を行わない事を気にしない支持層の交代こそが問題といえるでしょう。

 同盟国としては防衛政策の方向性に振り回される危惧が高くなる。これは単純に朝鮮半島問題だけに関わらず、例えば中東地域において猛威を振るい、その触手を着々とアフリカや欧州へ延ばすISILにたいしても、強硬姿勢で臨むとしながら、その具体策として示されているのはISILの支配地域からのイスラム教徒入国を禁止するという、非常に不可解なものでした。

 第三国戦闘員のテロ要員としての拡散、母国を攻撃するホームグロウンドテロ、そしてアルカイダ時代から懸念されていました破綻国家を基点とした大量破壊兵器製造と第三国でのテロ用途での転出事案、こうした危険性を全く無視しています。ISIL対策では、二転三転といいますか、地上軍派遣を提示したりロシアとの協力関係を示唆したり、やはり国境警備を重視する消極路線を提示したり、一貫性がありません。

 その上で新しい問題領域としまして、アメリカ第一主義を掲げる候補者を支持する世論は、果たしてパクスアメリカーナを放棄し、アメリカが世界唯一の超大国としての地位を捨て、その上で、北米地域に限定された地域大国へ甘んじる覚悟はあるのか、ということです。単にアメリカ第一主義という言葉だけを認識し、その内容が実態と離れるものであっても、検証する余力がないのか、それともそこまで社会の閉塞感が起きくなっているという事なのか。

 これは、アメリカが第二次世界大戦後において、国際公序の理念としての自由主義を提示し、その具現化手段として資本主義自由経済を提唱、これを実現するべく自由貿易実現を目指すWTO創設、ドルを中心としたIMF通過公序、などなどを実施してきましたが、この規範構築の役割を放棄し、当然の次にくる帰結としての、展開をどこまで認識しているのか、という部分に繋がります。

 基軸通貨の転換一つとってもスターリングブロックからドル基軸体制へ過去一回転換していますので再度の転換が無いとも言い切れません、アメリカ国内の貿易収支ドル赤字が指摘されますが、これは基軸通貨国が貿易収支赤字でなければドルが世界に流通しません、この実情を理解し、貿易収支赤字を問題視しているのか、という支持者の理解の問題がありますし、アメリカドル以外の世界通貨の可能性、アメリカを排除する保護貿易の可能性、なども受け入れる覚悟はあるのか、とも。

 自国の政府が行うことによる自分たちへの反動の大きさを、例えばイギリスのEUブレクジットを支持した有権者たちが見落としたような、こうした考えずのリスクへの備えが十分あるか、ということです。単純に、モンロードクトリンの時代へ回帰を示し、アメリカはアジア地域での中国の影響力拡大を容認するということ。我が国がシーレーンへの圧力を経て1968年に自由主義圏第二位の経済大国としての地位を得て以来継続しているドル通貨政策維持などパクスアメリカーナの理解者としての地位を軍事的圧力により離反することとなっても一国でアメリカは繁栄を維持できるのか。

 問題は更に大きくなり、中東地域でのロシアによる影響力拡大に伴う石油供給基盤の掌握を介した世界への影響力拡大を容認できるのか、NATOから距離を置くことでロシアの欧州地域への影響拡大を容認できるのか、この部分についても確たる施策や方向性が示されていない現状でも、その候補者を支持する、こうした世論が、大きなアメリカのリスク、さらには民主政治と衆愚政治の境界線という古典的、しかし新しい問題を突きつけているように、思えてなりません。

北大路機関:はるな くらま
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3 コメント

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Unknown (人民の目)
2016-10-21 22:41:03
フィリピン政府は間違った対米従属を正し、アジアの中の一員である道を選択しました。アメリカ帝国主義によるアジア太平洋支配は終焉を迎えつつあります。東風が西風を圧倒する時代が来ているのでしょう。
これらの動きは日本にとって示唆的です。
アメリカのアジア支配の走狗となるのか?アジアの中の一員としての道を選択するのか?
アメリカと中比首脳会談 (はるな)
2016-10-21 23:17:21
市民の目 様

アメリカ帝国主義によるアジア太平洋支配なんてものは存在するのでしょうか、単にアメリカが提示しているのは、機会の公正と民主主義に基づく政治、なのですが・・・?

中国とフィリピンの接近は、フィリピンの行き過ぎた麻薬戦争での暴力主義に世界で唯一理解を示しているのが中国だけ、米比関係の悪化も大統領維新が主張する通り、麻薬戦争での人権問題への疑義に端を発するものです

本ブログにて貴殿は何度も独特の主張を示されていますが、逆に中国が示す正義とはなんでしょうか?一党独裁と思想支配に基づく政治安定、軍事力に見合った領土拡張主義、これらを中国の友好国が踏襲すれば、単純に世界に戦争の種をばら撒くだけではないでしょうか
アジアや太平洋ではなく世界 (はるな)
2016-10-21 23:34:21
市民の目 様

本論ではアジアや太平洋ではなく世界の国際公序について、論じています。国際公序の理念としての自由主義を提示し、その具現化手段として資本主義自由経済を提唱、これを実現するべく自由貿易実現を目指すWTO創設、ドルを中心とした国際通貨とIMF公序に代わるものを、現在、アメリカ以外の国が提要出来る見通しはありません

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