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アメリカのリスク 大統領選にみる変容と国際公序再構築【12】 不明確な対ロシア政策の指針

2016-10-13 21:41:00 | 国際・政治
■米ロ関係将来展望と北方防衛
 アメリカのリスク、大統領選にみる変容と国際公序再構築、第12回はロシアとの関係です。大統領選まで一ヶ月を切り、二度のテレビ討論を経てアメリカ大統領選はポピュリズムの限界を露呈しているところではありますが、問題の深層はもう少し深い。

 アメリカは将来、対ロシア外交と防衛政策をどのように展開させる可能性があるのか、クリントン候補はクリミア半島武力併合とウクライナ内戦介入を契機とした経済制裁継続の方針を示していますが、トランプ候補はロシア制裁について具体的な施策を示しておらず親ロシア路線を過去に示しただけが唯一の方向性となっています、同盟国がどうロシアとの関係を展開させるのか、北海道に冷戦時代日本は非常に大きな圧力を受けました。

 今後の大統領選の結果次第では多くの米ロ関係への不確定要素が顕在化します。ウクライナ内戦介入をアメリカは容認するのか、この背景となった東欧への弾道ミサイル防衛システム配備を撤回する可能性はあるのか、バルト三国とポーランドへ隣接したロシア飛び地カリーニングラードへのロシア軍増強が周辺地域への軍事行動へ展開した場合にはどのような施策を執るのか、アメリカがロシアに対してどこまで譲歩する事がアメリカ第一主義と両立するのか、この点が明確ではありません。

 この欧州におけるロシアとアメリカの関係ですが、関係が複雑化した場合、忘れてはならないのがアメリカとロシアの接点は欧州とはユーラシア大陸の反対側、日本との国境でも摩擦が生じるということです。この対立は決定的ン刃物となっており、ロシアは全欧安全保障協力会議枠組からの信頼醸成措置一方的注視、オープンスカイ条約の停止等激化しているところです。ここで、急にアメリカ新大統領がロシアへの宥和政策とも受け取れる政策を呈示すれば、地域不安定が依拠に進みますし、その上で在日米軍などのプレゼンスへ影響が及べば、我が国防衛政策へも影響は非常に大きなものとなる。

 東欧へのミサイル防衛システムは、元々、イランの弾道ミサイル脅威から欧州の同盟国、その領内にある在欧米軍基地を防護すると共に北朝鮮から技術提供を受けているイランの弾道ミサイル技術、将来的にアメリカ本土を狙うミサイル脅威への対処が主眼でした。イランとアメリカの関係はオバマ大統領が経済制裁の解除を明示しましたが、依然として平和利用という形での兵器用プルトニウム抽出の疑いが残り、更に弾道ミサイル技術開発が進んでいるイラン、を想定したもの。

 アメリカ第一主義はアメリカ本土を狙う弾道ミサイル脅威もアメリカ本土へ直接攻撃が実行されない限り無視できるという、核ミサイルを突き付けられた場合でも動じない胆力をもつとの考えなのか、不明確と云わざるを得ません。ただ、東欧ミサイル防衛システムは、ロシアとの摩擦が本格化した2007年以来の懸案事項です、ロシアはこの点で、ロシアの弾道ミサイルが東欧のミサイル防衛システムにより無力化されかねないとの摩擦が払拭できる可能性は無いのですから、妥協の余地はありません、どう対応するのか。

 2014年以前であれば、非常に非現実的なのですが米ロが共通弾道ミサイル迎撃能力基盤を構築し、例えばイランを俯瞰するボルゴグラードなどロシア領内に米ロ共同のミサイル防衛拠点を建設するという施策は有り得たかもしれません、が、費用負担やミサイル脅威への認識の相違から、又さすがに共通化出来ない防衛情報分野があり実行の模索は為されませんでした。ロシアとアメリカは冷戦後に一時的な蜜月期、価値観の共有の可能性が現実的に考えられただけに、この後の展開は急展開そのもの。

 そして2014年以降は、ロシアのクリミア併合とウクライナ内戦介入により米ロ間の対立は決定的なものとなりました、かつて1979年にソ連軍がアフガニスタンへ進攻し緊張が再燃した転換点を彷彿させる展開、さすがにこの対立を無かった事にできないか、との合意には難しいものがありますし、カリーニングラードへの兵力増強も妥協し感化すれば次の段階へ進む準備を容認した事となり、兵力増強は認めるがその兵力が増強されて実施される次の段階は容認しない、という事は成り立ちません。

 アメリカはロシアとの関係、アメリカが本土へ引くという現在の、米軍再編を受けての施策がロシアの行動をアメリカの撤収した空隙を縫う形で顕在化し、このことが返って対立を表面化する事となっていますが、既に深刻な対立となっている米ロ関係、ウクライナ介入とクリミア併合、カリーニングラード兵力増強、信頼醸成措置停止など深刻化している現状に大きく妥協しロシアとの関係を修復するのか、ロシアに妥協を迫るのか、この行方はユーラシア大陸を越えて日ロ関係の防衛問題にも直結します。

北大路機関:はるな くらま
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