北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

巨大地震“南海トラフ地震”への備えを考える① 高機動車水陸両用型開発の必要性

2012-04-22 21:28:25 | 防災・災害派遣
◆広く薄く配備し、津波被害へ備える
南海トラフ地震の津波被害、想定が中央防災会議によりより大規模なものが生じると見直されました。
Img_0879 新しい巨大地震被害想定。想定が為された以上想定外という文言は今後禁句であり、津波被害に際し自衛隊は航空機と艦船、架橋装備を持って東日本大震災へ臨みましたが、離島防衛をも包含し、本格的な水陸両用車両を装備し、津波被害へ迅速に対応する必要性は切迫しています。この点で、高機動車の水陸両用型、というべき車両の必要性が、高まっているといえるでしょう。 震災一か月前に78式雪上車後継に通年運用可能なBV206J-02が最適という記事を掲載しましたが、あれも水陸両用、しかし両用戦に使えるかとなれば別問題になります。
Img_4136 アメリカ海軍対地戦センターがhigh speed
amphibian:HSAとしてイギリスのギブステクノロジー社が2007年に水陸両用スポーツカーを試作し、この車両を原型に人員輸送能力を付与した車両開発を要求したことがありましたが、高機動車を原型とした水陸両用車両があれば、災害派遣に際して大きな能力を発揮するかもしれません。
Img_0408 HSAは、高機動両用車と訳すべき車両で、人員三名程度か乗員と重量500ポンド貨物を搭載する小型車両とともに、その大型車両として16名輸送用の車両を構想していました。非常に特徴的な車体構造を有しており船型車体を有しており車輪により陸上を機動するのですが、車輪はこれまで水陸両用車両の大きな抵抗として高速航行を不可能とする要因となっていました。
Img_1430 この問題に対して、HSAでは車輪部分を地上走行から水上に進入した時点で水平として、水面から車輪を離す構造を採用しています。この特殊な方式により陸上最高速度160km/h、水上最高速度は48km/hと非常に高い機動性を有していることが特筆するべきで、この速度であれば日本でも道路交通法に基づき高速道路での走行が可能となります。
Img_33_68 特筆すべきもう一つの点は海上での運用が可能、というところです。陸上自衛隊では水陸両用車両として浮航能力を有する73式装甲車が配備されていますが、73式装甲車は基本として浮くことが出来る装甲車で、障害突破能力に超堤能力や超壕能力に加え地形障害としての河川を突破できる、というもので、波浪が大きい海上での運用は不可能です。湖沼地帯や河川で観光用に用いられている水陸両用車についても同様の欠点があることは忘れてはなりません。
Img_482_1 94式水際地雷敷設車は、海岸線付近に水際地雷、実質的には小型の機雷ですが敷設するという関係上会場に進出する必要性があるので、車体形状が完全に凌波特性を考慮した形状となっています。このように海上に進出するためには相応の形状が必要となるのですが、HSAについては、この会場での運用を前提とした形状となっているのが大きく評価されるべきところ。
Img_1732 しかし、この機構からご理解いただけるように高機動車とは根本的に車体構造が異なり、運用コンセプト以外は完全に設計する必要があり、高機動車を生産するトヨタ自動車にて生産が可能であるのかも未知数です。国産開発が難しければ、HSAの試作車両、3名乗車型と車体規模が共通する73式小型トラック、1t半のような連絡や斥候任務に用いる車両として取得する方法が考えられるでしょう。
Img_0777水陸両用部隊として多数を専門部隊に集中配備するのではなく、積雪地に後半に配備されている78式雪上車のように、全国の部隊に、部隊の本部管理中隊や本部などに、2両から4両程度を駐屯地に広く配備し、災害時には特に津波災害と水害に際し、情報収集と迅速な軽輸送任務、救難救助任務に充てることが期待されます。軽装甲機動車のように装甲は欲しいところです、BV206J-02のように装軌式でなければ上陸できる海岸が不整地突破能力の観点から制限されるところですが、頑張りすぎるとヘリコプターと同等の費用を要することで開発中止となったアメリカの海兵遠征戦闘車EFVと同じ轍を踏んでしまうので要注意です。
Img_6245 勿論、問題点はあります。特にウォータージェット推進、スクリュー推進方式共に、今回の東日本大震災では漂流物が大きな障害となっていました。小型のホバークラフトか観測ヘリコプターの多用が望ましいのですが、ホバークラフトは完全に専用装備となってしまいますし、陸上での長距離移動は不可能、ヘリコプターについては多数を後半に配備するということ現実的ではありません。
Img_0936i 技術的に津波障害物を超えての運用が可能な推進能力を付与しなければ、実用性には問題が出てしまうのですが、その反面、94式水際地雷敷設車は東日本大震災において任務に当たっています。津波漂流物の凝集などをさらに研究し、水陸両用車の運用と津波障害物の影響については、このあたり、もう少し研究を進めるべきともいえるところ。
Img_2529 他方、実のところ最大の問題は日本において水陸両用車両が普及しない最大の理由として、船舶と陸上車両の法律上の区分です。近年、大阪でも水陸両用バスなど観光用に陸上と水上を往復する車両の運用が行われていますが、自衛隊車両として運用する以上は、法律上の区分が欲しいところで、こうした視点を踏まえたうえで、次の地震による津波災害が現実となる前に、装備化を望みたいところです。
北大路機関:はるな

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コメント (4)
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