熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

D・ヨッフィー&M・クスマノ著「ストラテジー・ルールズ」 (1)

2016年10月10日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   この本は、ハーバードとMITの経営学者による、マイクロソフトのビル・ゲイツ、インテルのアンディ・グローブ、アップルのスティーブ・ジョブズと言う現代最高峰のイノベーターであり偉大な経営者である3人から学ぶ戦略的思考のガイドラインと銘打ったイノベーションへの戦略論である。
   タイトルも、そのものずばりの「Strategy Rules: Five Timeless Lessons from Bill Gates, Andy Grove, and Steve Jobs」
   この3人については、これまで、関係本などを読んでおり、このブログでも論じてきたので、それ程、新鮮な情報なり知識があるようには思えなかったが、非常にコンパクトに集約された経営戦略論としては貴重な本だと思う。

   非常に内容の密度が高いので、第1章から考えてみたいと思う。
   企業リーダーとして3人に共通するフレームワークとして、著者たちは、5項目の時代を超越したレッスンを見出したとして、個々について詳細に論じている。
   
   まず、最初は、「未来のビジョンを描き、逆算して今何をすべきかを導く」。
   これは、ゲームの理論とチェスに共通する根本的な考え方だと言う。
   ここで、「ムーアの法則」に基づいて、グローブやゲイツは、ビジョンを描いた。
   グローブは、この法則を実現し続ければ、巨大な「規模の経済」が手に入り、将来、水平型の業界構造が到来するであろうから、集積回路の垂直統合型の巨大競合企業を倒せる可能性が生まれると考えて、インテルの戦略を、マイクロプロセッサー市場に集中することを決断し、その為に、エンジニアリングと製造技術に革新を推進することにした。
   ゲイツは、これを、コンピュータの計算能力が一定期間で倍増するなら、コンピュータの計算能力は殆どタダになると考えて、無限のコンピューティング・パワーから価値を引き出すうえでの制約になっているのは、ソフトだと断じて、OSビジネスに軸足を置いた。
   ジョブズも同じ考え方をして、ホーム・コンピュータなど馬鹿げたアイデアだと思われていた時に、アップルコンピュータを創設した。

   未来を予測するに当たって、IT業界では、「顧客のニーズを先取りする」と言う戦略で、ジョブズは、マーケットリサーチなど信用せず、消費者は何が欲しいか分かっていないので、自分が欲しいもので、厳しい基準を満たした製品なら、広く受け入れられるとと考えて、自分自身で次のヒット商品のビジョンを描き、情熱をもって実現しようとしたと言うのは、有名な話である。
   ウォークマンを生み出したソニーの盛田昭夫を彷彿とさせる。
   マネシタ電器として有名であったパナソニックの経営戦略が、如何に時代錯誤であったか、その後の崩壊瀬戸際まで行った経営危機を考えれば、その落差の激しさが良く分かって興味深い。

   興味深いのは、3人とも、競合他社の動向には、パラノイア的なほど、極めて慎重に対処した。
   特に、情報漏出に関しては、ジョブズなどは、マイクロソフトなどの競合に、アップル製品の情報を盗まれないように、「極限の秘密主義」の元で設計した。
   3人とも、頂点に君臨し、最大の巨人と見做されているにも拘らず、自らを常に弱者だと見做して、少しでも怠慢になれば、一夜にして成功が台なしになると恐れて、常に競合の動向に目を光らせていた。

   「今すべき行動を導き出す」では、まず、参入障壁の構築戦略で、重要なことは、自分たちが重点的に推進しようとしている製品や市場、サービスに競合が投資しないようにすることだと言う。
   このために、グローブは、これまで10億ドルを投資した486チップの後継製品であるペンティアムの製造工場に50億ドルを投資して、一気に入場料を引き上げた。
   ゲイツは、IBMへのDOS提供契約で、自社が独占的に他社にOSをライセンス供与できる権利を死守するために、OSのライセンス料を低くし、継続的なロイヤリティを請求しないなど好条件を提供した。

   指数関数的な激変の経営環境下であるから、「10倍の変化」が生じ、何度も重要な変曲点に直面するのだが、彼らは、適切にその変曲点を見つけ出して、脅威をチャンスに変える能力に優れていたので、必ずしも成功ばかりではなかったが、迅速に対応し、信じた道を不屈な精神で突き進んで苦境を乗り越えて来たと言う。

   この本を読み始めて、少し奇異に感じたのは、ICT関連企業である所為か、あるいは、3人があまりにも偉大な特異なイノベーターであったためか、或いは、他の要因によるものなのか分からなかったが、他のMNCで、現在のエクセレントカンパニーの多くでは、これら3社とは違って、オープンビジネス・システムをフル活用して、オープンイノベーションで成功しているケースが結構あって、それが、常態である企業もあると言うことである。

   マイクロソフトでは、ある程度、市場や技術の推移などを見てから戦略を打ったケースもあるようだが、3社とも、プラットフォーム戦略を打ちながらも、特に、新製品やサービスの企画設計段階では、殆ど秘密主義で、他の組織の参画を排除していたようである。
   日本のメーカーの場合、大分、他社を巻き込んだオープンシステム経営が導入されてきているようだが、やはり、ブラックボックス戦略が、業種なり企業なり、ある領域においては、健在だと言うことであろうか。

   
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