熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ジョン・ミクルスウェイト & エイドリアン・ウールドリッジ著「 増税よりも先に「国と政府」をスリムにすれば?」

2016年10月16日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   英「エコノミスト」編集長の直言と銘打ったこの本(原著は、The Fourth Revolution: The Global Race to Reinvent the State )は、欧米では、かなり、評価が高い良書であるにも拘らず、日本では、昨年初発行の本なのだが、殆ど売れていないのであろう。
   横浜のブックオフで、新古書を、200円(定価1700円)で買って読んだのだが、アマゾンの新古書でも、195円らしく、日本にとっては時宜を得た本でありながら、日本の読者は、何を読んでいるのか、不思議である。
   尤も、私も面白半分にブックオフの廉価コーナーを回っていて見つけた本なので、偉そうなことは言えないのだが。
   翻訳本のタイトルも、安直過ぎており、原題通りに、「第4の革命 国家再生へのグローバル競争」とした方が、はるかに、良い。

   この本の論点は、
   世界の歴史を見ると、人間は、時代の変遷とともに、国の形を作り変えてきたとして、そのエポックメイキングな曲折を、ホッブスの「国民国家」、J・S・ミルの「自由国家」、ウェッブの「福祉国家」を軸として、その推移を詳述して、
   政治経済社会は勿論、民主主義さえも暗礁に乗り上げてしまった今日、国が肥大化して大きくなりすぎてしまっており、現代の福祉国家は自重に耐えられず瓦解してしまうのは必定であるので、スリム化して、第四の革命を起こさない限り、人類の未来はない。と言う、所謂、小さな政府への方向転換論だが、しかし、ICT革命をフル活用するなど民主主義改革を伴った革新的な再生を志向すべきだと、意欲的な警告と提言の書となっている。

   この本の前半は、第一革命のホッブスの「王による支配が終わり、国民が議会を通じて国を治める「国民国家」の誕生」、第二革命のミルの「実力次第で成功できる新しい制度や、効率的な小さな政府を志向した「自由主義国家」」、第三革命のウェッブの資本主義の矛盾が剝き出しになって、万人の幸福を国家が担う枠組みが生まれた「福祉国家」、それに、半革命に終わったミルトン・フリードマンの行き過ぎた福祉国家の反動で、政府のスリム化の機運が高まった時代など、今日のオバマ政権まで、思想哲学をバックボーンにした政治経済社会の歴史を克明に説いていて、政治経済史のテキストを読んでいるようで、非常に興味深い。
   更に、現在の政治経済動向についても、カリフォルニア、中国などのアジア、北欧などについても詳細に論じており、流石にジャーナリストであるから、現代の最先端の経営や企業情報についても論及するなど、豊かな情報と知見を駆使して持論を展開しており、大変教えられることが多い。

   本題に戻るが、
   第四革命への第一歩として、行政改革について、1:不必要な国有資産の売却 2:富裕層や特定の利益団体への補助金の廃止 3:給付金制度の改革・スリム化――本当に必要な層へ回り、長期的に維持できる制度 を実現することを提唱している。
   テクノロジーの発展が齎した情報革命と競争を上手く活用して、民主主義を、再考して、本来の適切な機能を取り戻すように修正・修復して、第四革命を実現しなければならない。と説く。

   この本のタイトル「The Fourth Revolution」については、色々なベスト・プラクティスなり例を示してはいるが、やや具体性に欠け、明確に示し得ていないきらいはあるが、
   ターゲットだけは明確であって、先の3つの時代を画した思想的な大革命の様な突出した思想なり哲学が見えて来ない以上、第四革命への問題提起だけでも貴重だと言うことであろうか。
   サブタイトルの「The Global Race to Reinvent the State」は、この第四革命を成功させた国家こそが次代のリーダーになり、歴史を動かす主役となる言う含意である。

   小さな政府か、大きな政府か、と言う象徴的な議論は、政治経済学の永遠のテーマであるような感じで、歴史上、波を打って展開されているような気がする。
   私が、子供の頃に社会科で、イギリスは、揺り籠から墓場まで生活が保障された福祉国家であると言うことを習ったのを覚えているのだが、その行き過ぎと経済の悪化によって、1980年代初頭にイギリスを訪れた時には、経済が窮地に陥ってスト続きで、ごみがロンドンの街を風に吹き飛ばされて舞っていたり、ヒースロー空港では、必ず盗難に遭うと言う悲惨な情景に接して、今昔の感を感じた。が、正に、偉大な英国も、時代の波に翻弄されたながら、市場原理主義のサッチャー時代に突入したと言うことであろう。

   今日の世界、特に、日米欧の先進国は、経済成長に見放された感じで、財政難が深刻となっており、これ以上、福祉国家政策を継続できるのかどうか、岐路に立っていることは事実で、著者が説くような第四の革命の実現は、必須であると考えても間違いないと言えよう。

   しかし、政治や行政は、極めて保守的で、いくら、窮地に立っても、おいそれとは改革不可能である。
   日米欧の有権者は、低い税金と大きな政府の両方を求め、政治家は、バランスシートを操作して実態を隠したり、次世代に負担を押し付けたりして、ポピュリズムに迎合して民意に応えようとする。有権者は、税金の引き下げや役所の撤廃が進むと聞けば、小さな政府を支持し、公共サービスが縮小し、食品の安全性が落ちると聞けば、一転して小さな政府を批判する。確固たる信念を持った政治家がいないのは、民衆がそういった政治家を求めていないからだ。と著者は言う。

   さて、現在の政治経済社会の最も深刻な病巣の一つは、経済格差の拡大。
   この格差拡大を阻止して、セイフティネットを拡充して、政治経済社会を健全化するためには、たとえば、富裕層から貧困層への所得の移転のためのドラスチックな税制刷新などによる所得分配政策の実施などが必要なのであろうが、どうしても、まずは、財政の出動となり、大きな政府へと軸足を移さねばならない。
   それに、先進国の大半は、経済の悪化と不況に苦しんでおり、深刻な財政問題を抱えながら、需要の拡大を必要としている。
   シュンペーター待望なのだが、イノベーションが枯渇したとまで説く経済学者が出てきた今日、フリードマンより、ケインズの登場を求める声の方が高い。

   著者たちが説く様に、ドラスチックかつ革新的な第四の革命を実現しない限り、現代社会は、先へは進めない状態にまで至っている。
   しかし、著者たちが提示した3つの行政改革は、その為にも必須だが、実現するためには、あまりにもハードルが高い。
   さて、どうするのか。
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