熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

アラン・B・クルーガー著「テロの経済学」・・・テロリストは貧しく教育なしはウソ

2008年08月21日 | 政治・経済・社会
   2005年7月ロンドン市内で勃発した地下鉄とバスでのテロの当日ヒースローに着いたり(本ブログの「欧州紀行」収載)、在英中にシティを恐怖に巻き込んだ過激なIRAテロを経験するなど、私自身、つぶさに直接テロの脅威を経験しているのだが、昨年の7月にも、イスラム系テロリストがガス・ボンベ車をグラスゴー空港に突っ込ませるなど、イギリスはテロの種が尽きないようである。
   ところが、昨年のテロの実行者8人の内、5人が医者で、1人がエンジニアだと言うし、ニューヨークのワールド・トレード・センターでの9.11事件を含めて、過激テロの首謀者や実行者の学歴水準は非常に高い。

   ところで、ブッシュ大統領やブレア元首相を筆頭に世界中の指導者や識者は、口々に、経済的貧困と教育の欠如がテロリストの発生と結びついていると説き、この考え方が常識かつ通説のようなになっているのだが、
   今や豊富な証拠や実証研究の結果、実際はその逆で、教育や貧困がテロリズムに与える効果は極めて間接的であり非常に弱く、その関連を支持するものは殆どないことが分っている。
   テロリストは、貧困層の出身ではなく、十分教育を受けた中産階級または高所得家庭の出身である傾向が見出されるとして、労働経済学や教育経済学を専門とする経済学者プリンストン大学のアラン・B・クルーガー教授が、政治学や心理学など学際的な研究を駆使してテロリズムを分析して、
   「テロの経済学 人はなぜテロリストになるのか What Makes a Terrorism  Economics and the Roots of Trrorism」を著した。

   クルーガー教授の研究による結論は、ほぼ、次のとおりである。
   政治的暴力やテロリズムに対する支持が、教育水準が高く世帯収入も高い人々の間で多くなっている。
   テロリストは、出身母体の人口全体に比べ、教育水準が高く富裕階層で、貧困家庭の出身である傾向はない。
   国際テロ活動では、市民的自由が抑圧され、かつ政治的権利もあまり与えられていない国の出身者である傾向が強い。
   テロリストは、全体主義体制で抑圧的な貧しい国を攻撃するよりも、市民的自由や政治的権利が多く与えられている富裕な国を攻撃する可能性が高い。
   距離が重要で、国際テロリストや外国人反乱者は近隣諸国出身者が多い。
   テロリストは、テロ活動に対する恐怖感を広げ、彼らの望む効果を得るためには、メディアを必要としている。
   しかし、ある国の一人当たり所得や非識字率は、その国出身者の国際テロリストの人数とは無関係である。
                      
   それでは、何故、貧困と不十分な教育がテロリズムを引き起こす原因だと指導者は唱え続けるのか。
   世界の多くの指導者達は、自分自身の利益を追求する為、あるいは彼らの国や組織に対する国際的援助を増加させるため、また不満や過激主義を引き起こす政策から注意を逸らす為に、貧困がテロを引き起こしていると言う単純すぎる理論を利用している、とクルーガー教授は指摘する。
   オサマ・ビン・ラディンなどの国際テロリズムの脅威を煽り立てて、極めて極端な恐怖政策対応を推進してきたのがブッシュ政権で、政府関係者は、国民のテロに対する恐怖感を利用し続けてきたと言うのである。

   アメリカ政府の重大な過ちは、9.11事件以降の政策上のミスで、政府は、財政責任を無視して、減税や歳出増加と言う形で財布の紐を緩めて野放図な財政政策をとり、財政赤字を急激に拡大して、テロ攻撃による直接的影響よりも大きな損害を経済に与え、また、大統領の権限を強化して、自分達の政策を追求する為に、この悲劇を利用したと糾弾している。
                 
   さて、日本での国際テロの可能性を考える場合に、クルーガー教授の指摘で参考になるのは、テロリストの故国との距離である。
   何故、距離がテロリズムに対して大きな障害になるのかについて、恐らく旅費や異文化に溶け込むことの困難さによって、テロリストは遠く離れた国で攻撃を行おうと言う意欲を失うのであろうと言っている。
   洞爺湖サミットの時に、心配されたテロが起こらなかったのは、現在活躍中のテロリスト集団を想定する場合には、この距離的な要因が幸いしたのかも知れない。
   尤も、今後、アジア人のテロリストが胎動し始めると、日本は、クルーガー論から言っても、格好のテロ・ターゲット国となることは必定で、日本人としては格段の注意が必要となる。

   クルーガー教授が、テロ行為は、路上犯罪と言うよりも投票行為の方に似ていると指摘しているのが面白い。
   投票に行くのは、貧しい人ではなく、高賃金の職に就きかつ良い教育を受けた人で、
   自分自身の意見をはっきり持っていてそれを発言したい、選挙結果に影響を及ぼしたいと思っており、時には、強固な政治的目的を持ち、かつ、十分確信を持って過激な幻想を実現する為に暴力的手段に訴えようと考える。
   また、彼等は、その目的達成の為なら自ら死んでも良いと考えるほどの理想を持っており、それに対して、深くかつ強烈な関心を持っており、
   こんな行動に出るのは、生きて行く為の目的さえ持てない程ひどく貧しい人達では絶対に有り得ない、と言うのである。
               
   余談だが、最近、私のパソコンが偽セキュリティ・ソフトにやられてダメッジを受けたのだが、今後は、フィールドのみならず、サイバー・テロなど、見えない世界でも、知識と技術の最先端を行く人間間のテロ戦争になってくるような気がしている。
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