熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

映画「ダンケルク」

2017年09月16日 | 映画
   第二次世界大戦のヨーロッパ戦線初戦の頃、ポーランド占領後破竹の勢いでフランスに攻め込んできたドイツ軍に、40万人の英仏兵士たちがベルギー国境に近いフランスのダンケルク港に追い詰められた。
   直近のカレーからイギリス対岸のドーバーまで34キロメートルの距離だが、波高く、風雲急を告げている。  
   この事態に危機感を抱いたイギリスのチャーチル首相は、ダンケルクに取り残された英国兵士3万5000人の救出命令を出すのだが、軍艦や軍船、ドーバー近隣の民間の漁船や遊覧船など可能な限りの船舶を総動員したダイナモ作戦が発動されて救出劇が展開されて35万人を救出する。
   凄い映画である

   救出にダンケルクにやってくる軍船に、長い隊列を組んだ兵士たちが、次々に乗船するのだが、敵機の爆撃によって、片っ端から襲撃を受け、運よく出帆しても敵機の奇襲で爆破されて、兵士たちは大海原に投げ出されて、必死に、生き抜こうと足掻く。
   ドイツ軍の猛攻にさらされる中、トミー(フィオン・ホワイトヘッド)ら若い兵士たちが、必死に生き延びようとする脱出劇を軸にして、民間船の船長ミスター・ドーソン(マーク・ライランス)が、船を徴用されて、兵士救出のために、息子らとダンケルクへ向かい、イギリス空軍パイロットのファリア(トム・ハーディ)が、ドイツ軍に制空権を殆ど握らている中を、名機スーパーマリン スピットファイア(Supermarine Spitfire)を必死に操縦して敵機を撃墜し、ダンケルクの波止場では、救出作戦を指揮するボルトン海軍中佐(ケネス・ブラナー)の雄姿を、
   3者の活動を並行描写しながら、陸海空それぞれ異なる時間軸の出来事を、一つの物語として紡ぎ出すスピーディで迫力満点の劇的な展開は爽快である。
   

   英国人としてのクリストファー・ノーラン監督であるから、英国人魂の燃えるような発露は、随所に描かれていて、船長ミスター・ドーソンのマーク・ライランス、イギリス空軍パイロットのファリアのトム・ハーディ、ボルトン海軍中佐のケネス・ブラナーの演技に、典型的に表現されている。
   ノーランは、「バットマン」の監督とかで、見るのは初めてだが、IMAXの素晴らしい映画の特質を最大限に発揮した所為もあろうが、とにかく、描写と劇的シーン展開の魅力迫力は圧倒的で、エグゼクティブ・シートでの鑑賞であったので、釘づけであった。

   私は、ケネス・ブラナーが好きで、30年くらいも前になるが、当時も、英国では最高峰のシェイクスピア役者であったのだが、ロンドンでのRSC公演のハムレットのタイトルロールを観て聴いて、いたく感激したのを思い出す。
   今回の映画でも、最高の感激シーンだが、英国のドーバーからの民間の救出作戦に応じた船舶がダンケルクに列をなして近づいてくるのを双眼鏡で見て、自分の指令が功を奏したのに感激して「故郷だ(home)」とつぶやく。
   そして、英国兵士をすべて送り出した後で、ウィナント陸軍大佐に乗船を促された時に、まだ、フランス人が残っている、と言って、波止場の突端で一人だけ残って僚友を見送る。
   いずれも、素晴らしく感動的なシーンで、成熟して益々貫禄と重厚さが増したブラナーの凄さを感じて嬉しかった。
   

   この「home!」と言うセリフだが、制止も聞かずに船倉にいた兵士が外が見たいと言って甲板に上ってきて、ドーバーの真っ白な断崖絶壁を見て、感極まって「home!」と叫ぶのだが、イギリス人にとっては、homeと言う言葉は、特別に重要な意味を持つ言葉なのであろう。
   このドーバーの崖っぷちの横穴に戦時中英軍の前線本部があって、その跡を見に行ったのだが、この崖っぷちシーンを見て、あの白い絶壁を思い出して、無性に懐かしくなってしまった。
      

   ノーラン作品常連だと言う胸のすくような敵機撃墜のトム・ハーディの雄姿、僚友が消えて行くも、燃料が尽きるまで、敵機を追い詰めて撃墜し、砂浜に不時着して燃え盛るラスト。
   「ブリッジ・オブ・スパイ」でアカデミー助演男優賞を受賞したマーク・ライランスの老船長として気骨のある偉丈夫、救った兵士にダメッジを与えられ強硬に拒否されるも、自分たちの世代が戦争に追い込んで若者を窮地に立たせていると言う自責の念を吐露して、敢然として、ダンケルクに舵を取り続ける。

   さて、ダンケルクは、私の世界史上の記憶はあいまいなのだが、どうしても、ノルマンディ上陸の戦場跡を観たくて、シェルブールからサンマロを経て、パリへ帰る途中に、海岸線に近い道路を走って、近寄ってみた。
   途中だったので、よく分からずに通過してしまったのだが、しかし、ワーテルローもそうだし、ゲティスバーグもそうだが、意識して古戦場を見て来たが、戦争と言うものは、悲しいものだと思う。
   モスクワを見てナポレオンが、ザンクトペテルブルグ(レニングラード)を見てヒトラーが、ここまで攻めて来たのかと思って戦慄を覚えたのも、記憶に新しい。

   今回、この映画を見ていて、如何に、ドイツの初期の電撃作戦が凄かったか、そして、フランスは、ナポレオンの国とは思えない程戦争には向かない弱い国だったか、ということが何となく分かった。
   それに、イギリスは、本当にドイツが破竹の勢いで進撃してきて、本土決戦になると考えていて、軍用機などを、そのために温存していたと言うことも。
   兵器が超近代化した今日と違って、あの当時は、制空権を抑えることが如何に重要だったか。
   しかし、このダンケルクは、戦争映画と言うのではなく、若者を主人公として、一生懸命に生き残ろう、生を全うしようと言う人間の命への希いを、鮮烈にアピールした映画であって、その意味では、暗さも抹香臭さも少なくて、非常に、説得力のある感動的な映画であったと思う。

(追記)掲載写真は、ウィキペディアと映画記事から借用。
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