熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

英エコノミスト編「通貨の未来 円・ドル・元」

2016年07月20日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   基軸通貨が、ポンドからドルに代わってから、まだ、100年も経たないのだが、軋み始めたドルに代わって、中国の元の台頭が話題になり始めている。
   この本は、エコノミストの論文を編集したものだが、「ドルの未来 責任を放棄した王者」で、ドルの現状と行く末を論じ、「元の未来 両刃の剣」で、中国の経済を俯瞰しつつ、元が基軸通貨になり得るのかを検討し、更に、「仮想通貨の未来 究極の基軸通貨か?」で、ビットコイン・ブロックチェーンを俎上に載せて通貨を語っていて、非常に興味深い。
   
   基本的には、基軸通貨としてのドルの地位は、まだ、安泰だが、米国が、世銀やIMFなどの国際機関に対する責任を放棄しており、その一方では、あまりにも膨らみ過ぎたオフショアドルの市場が巨大化しているにも拘わらず、危機に陥った時に、国家や金融機関を救済する「最後の貸し手」が不在なので、現在のグローバルな通貨システムは、安定性を欠いており、改革しなければ、いずれ崩壊する可能性がある。

   それでは、中国の人民元が、ドルに代わり得るのか。
   現実には、購買力平価を基準にしたGDPは、アメリカが16%、中国が17%と拮抗しているが、アメリカの経済は、ポンドがドルに移行した頃のイギリスよりははるかに強く、今の中国経済は、当時上昇気流に乗り始めたアメリカよりも、ずっと弱い。
   また、イギリスとアメリカと言う政治経済社会システムを共有する同盟国の間での平穏な交代であったが、アメリカと中国は同盟国ではない。
   更に、今日の世界の貿易・金融システムは、昔より、ずっと規模が拡大しており、継続性が強く求められており、当時は、ポンドもドルも一定のレートで金と交換可能であったのだが、今日はそうではなく、基軸通貨の交代が起きれば、需要と供給のバランスによっては、通貨が暴落する可能性がある。
   また、人民元を基軸通貨にするためには、市場を全面的に開放したり、法の支配を確立させるなど、中国自身の国家体制やその仕組みなどを根本的に改めなければならないなど、問題山積なので、基軸通貨の交代は、起き難い。
   そんなところが、エコノミストの見解である。

   市場を全面開放すれば、それは共産党にとって多くの権限を手放すと言うトレードオフとなり、
   高度成長を謳歌していた中国経済が、年初の元安と株価暴落によって、市場経済と国家統制経済の間の危険な中間領域に嵌まり込み、
   民主化を達成せずに高所得国へ移行した国はないと言うドグマに、公然と挑戦して、ナショナリズム一辺倒の経済改革を推し進める習近平のジレンマ、等々、
   結構、中国に対する辛口評論が展開されていて面白い。
   私自身は、何度も書いているが、中国が、中進国の罠をクリアできるかどうか疑問だと思っているし、どこかで暗礁に乗り上げると思っているので、それ程、中国の経済的覇権の確立の可能性は信じていない。

   ところで、興味深いのは、文春国際局が依頼した「2020年までの日本と円の未来」に対して、「円の未来 黄昏の安定通貨」と言う部分が追加されて、「マイナス金利と言う実験」「アベノミクスを採点する」で、アベノミクスを中心に、日本経済を分析していることである。

   アベノミクスの第1の矢:金融政策について、マイナス金利などいくらやっても効果は薄い。そもそも、日本で融資が増えていないのは、融資資金の供給不足ではなく、需要不足が問題だからだ。
   第2の矢の:財政政策も、景気刺激のための財政出動をしながら、同時に財政の再建もしなければならない。これ以上消費税増税に踏み切れなければ、日本の公的債務残高の対GDP比率は、先進国最悪の水準となり、2020年には、246.5%に達する。
   アベノミクスの成否は、第3の矢の成長戦略・構造改革にかかっているが、労働市場の規制緩和や農業の活性化、企業統治の改革など、利益団体や与党議員からの抵抗が強くて、日本経済に一大改革を齎すほどの効果は得られないであろう。
   自民党政権はしばらくは盤石ではあろうから、アベノミクスは、今後も日本政府の経済政策の大方針であり続けるであろうが、全面的な成功を収めることはないであろう。
   要するに、エコノミストのアベノミクスの評価は、総じて失敗。と言うことである。

   これまで、アベノミクスについても、私論を述べてきたのだが、
   成熟経済に達して、成長余力を殆ど失ってしまった(?)日本経済には、最早、金融政策も財政政策も、殆どストレートに働かなくなり機能しなくなっている。
   いくら努力しても経済成長が1%程度だと仮定すれば、益々、プライマリーバランスが悪化して、国家債務の増幅は必定で、財政再建などは夢の夢。
   日銀と政府が画策する日銀の国債の多量購入は、国債を返さなくても良い債務に化けさせる財政ファイナンスとなれば、行く行くは、貨幣化となるので、インフレへの道へ一直線。

   最後の望みは、第3の矢の成長戦略だが、エコノミストの指摘のように、既得利権者や圧力団体の抵抗を打ち破り、岩盤規制の撤廃など制度や法体系の不備を改正するなどは勿論のこと、学問芸術や科学技術の振興、起業やイノベーションへのインキュベーションやインセンティブの付与強化等々、日本産業が生き生きと活動できるように、日本の政治経済社会を根底から変革しなければ、日本経済の活性化など不可能だと思っている。
   益々、金太郎飴のようになって行く安倍内閣が、続けば続くほど、日本の再生は遠のくばかりだと言う気もし始めている。
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