熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ソニーが何故iPodを作れなかったのか・・・E・J・スライウォツキー

2012年10月28日 | イノベーションと経営
   先の著作「大逆転の経営」において、スライウォツキーは、ソニーがウォークマンの技術を持ちながら、なぜ、アップルに負けたのかについて、ダブルベッティングをミスったためだと説明していたのだが、新著「ザ・ディマンド」では、別な視点から掘り下げて、非常に分かりやすく、ソニーの戦略のみならず、ソニーの経営姿勢にまで踏み込んで、アップルと対比させながら、その失敗を説いていて面白い。

   製品には、時間やお金の無駄、不親切な取扱説明書、不必要なリスク、イライラするようなバグや不具合など様々なハッスルが多々発生する。使いやすさと多様な選択肢、高度な自動化ときめ細かい個人対応のサービス、品質向上と低価格と言った利便を満足させてくれる思い通りのものが手に入ることは殆どない。
   日々の暮らしの大きな部分を占めるこのようなハッスルを分析し、改善方法を見出すことによって潜在する爆発的なディマンドへの道が開ければ、これこそが、ディマンド・クリエーターにとっては、巨大なチャンスとなる。

   コンシューマー・エレクトロニクスの世界では、PCや携帯電話やプレイヤーと言った個々のテクノロジーの垣根を越えて機器やインフラを作り直し、顧客のニーズにより応えようとする傾向が強まり、成功を齎す新しい鍵は機器の能力ではなく「顧客の問題」を中心に据える変革を如何に実現するかであって、顧客が、どこからでもデジタル製品とサービスにアクセスできるワンクリック・ワールドへ急速に移行して来ている。
   ソニーは、このワンクリック・ワールドに早い時期から進出し、現在統合されるすべての分野の専門知識と経験を持つダントツの企業であった。

   しかし、ソニーは、AV機器業界でも、コンピュータ業界でも、通信業界でも、メディア業界でも、確固たる地位を築いていたのだが、いずれの分野もサイロ状態で、顧客経験の向上に役立つはずの横の繋がりが一切なかった。
   ソニーは、4つの分野で地位を確立しながら、顧客のためにすべてを統合することもなく、ハッスル・マップに向けたツールを作ることもなかった。
   ハードには強いのだが、ソフトに弱かったのがソニーの敗北要因だと言われているのだが、そう言うことよりも、もっと根本的な問題は、折角持てる高度なテクノロジーを統合する社内体制なり経営戦略が完全に欠如していたのが、問題だと言う。
   それに、機器のデザインのみならず、企業と顧客の経験とを結びつける経験デザイン、グローバル・ベースで通用するビジネス・デザインの3つの次元の有効なデザインを構築して、画期的な新製品の開発に匹敵する創造力が求められる特注品を生み出さなければならないのだが、ソニーはそれができなかったと言うのである。

   一方、アップルは、4つの業界に単に参入するのではなくて、統合を目論み、消費者のハッスル・マップを作り直し、シームレスで独創的かつ強力なマグネチックな体験を提供するために、デジタル・テクノロジーと魅力的なコンテンツを結合し、完全にソニーのお株を奪った。
   アップルと言えば、ファンは、お洒落で優雅でパワフルかつ直感的に分かりやすい楽しい商品やサービスを連想すし、ワクワクしながら新しい製品やサービスの登場を心待ちにしている。これこそ、正に、かってのソニーのトレード・マークとも言うべき魅力であったはずである。

   先日、ソニーが、最初に電子ブック・リブリエを制作しながら、紙媒体が電子に移ることを嫌気した日本の大手出版社の叩き潰そうとの抵抗と嫌がらせに屈して、アマゾンのキンドルに敗北をきっしたと言うスライウォツキーの論点を紹介したが、これこそ、スティーブ・ジョブズが、音楽会社を説得してiTuneを立ち上げて、iPodを成功させた経営手腕と革新性の対極にあるといえよう。
   エジソンが、ガス灯を駆逐して電燈を流布させたのも、電球だけを作っただけではなく、発電変電送電一切のシステムを構築したし、イーストマン・コダックが、写真で成功したのも、フィルムのみならず、写真機からDPEなど一切のシステムを完成したからであって、昔から、成功するイノベーターは、須らく、システム・アプローチを肝に銘じて、ワンセット・システムを確立してきた。

   ソニーは、恐らく、コンシューマー・エレクトロニクスの世界では、世界の最先端を行く技術の発明発見、開発では、数多くの製品を生み出しており、ダントツの実績を誇る会社であることは間違いないと思うのだが、惜しむらくは、スライウォツキーが説くごとく、統合力、総合力、シナジー効果実現等々に大きな組織的、経営的欠陥があって、死の谷、ダーウィンの海を越えて、破壊的イノベーションを生み出せない重大な問題があるのであろう。
   昨夜、NHKの番組で、出井伸之元CEOが触れていたが、トップでも思うように動かせない制度疲労を極めた巨大な組織に限界があるのであろうと思う。

   NHKの番組で、ソニーが、インドで、テレビの画質を、ローカル好みに、青と赤をビビッドにしたことで成功して売り上げを伸ばしいると報道していたが、この程度のことを大きく取り上げられるような会社では、先が思いやられる。
   これまでにも書いたが、今や、新興国、途上国市場は、リバース・イノベーションなど新興市場発のイノベーションの時代であって、日本のR&D技術生産部門が権力を握っているグローカリゼーションの時代ではない。
   新興市場を開拓したければ、プラハラードのBOPビジネス論や、GEのイメルトの危機意識とゴビンダラジャンのリバース・イノベーション論をもっともっと肝に銘じるべきだと思っている。
   
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« パソコンのない生活なんて! | トップ | 国立能楽堂・・・能「三輪」... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

イノベーションと経営」カテゴリの最新記事