熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ヨーロッパのテロ事件はヨーロッパ発・・・エマニュエル・トッド

2017年08月19日 | 政治・経済・社会
   エマニュエル・トッドの本を読んでいて思うのは、今回のバルセロナのテロ事件はスペイン在住のモロッコ人によるようだが、先のロンドンやパリなど、ヨーロッパで起こっているテロ事件の殆どは、ISイスラム国やイスラム教徒の仕業と言うよりも、抑圧されたイスラム系のヨーロッパ人、自国人によるものだと言う彼の見解に注目すべきだと言うことである。

   この口絵写真に借用した、アメリカ同時多発テロは、サウジアラビア人のオサマ・ビンラディンをリーダーとするテロ組織「アルカーイダ」によって計画・実行されたとされ、国際的なテロ集団による大事件であったが、最近のヨーロッパ各地で頻発しているテロは、明らかに様相が激変している。

   トッドは、今、新石器時代の到来以降、産業革命よりももっと重要な二番目の移行期に入っていると言う。
   3千年紀に入るところで始まったこの大きな転換期は、人は高齢化し、高い教育を受け、女性が男性以上に教育を受けることになる。そして、人は最早何も信じなくなる。
   この背景を分かった上で、何故、米国に時々おかしな人物が登場して無差別に発砲するのか、何故、フランスで同じようにだれにでも銃を向けるマグレブ系の若者が登場するのか等々を、理解すべきだと言うのである。

   オランドのイスラム系テロリストの国籍を剥奪すると言う政策に対して、彼らは、既に、後ろ指を指されていると感じており、他の人とは違い、抑圧されて犠牲にされていると感じているので、二重国籍が社会的立場を特殊にしているものの、国籍剥奪などを恐れる筈がなく、むしろ、テロをもっと促すとして反対した。
   ユーロの失敗、ゼロ成長、貿易赤字・・・経済政策の失敗やグローバル化、自由貿易の進展によって、失業の不安や賃金の削減圧力が高まるなど生活環境が悪化して行き、益々、抑圧され阻害されていくイスラム系若者たちを、どんどん、窮地に追い込んで行き、政治的支配層に対する不満が極に達する。
   経済問題にも社会問題にも取り組めない政府、フランスの指導者は心の底からテロが起きたことを、自分たちの失敗だと認められない愚かさ。
   問題は、フランスが若者をその経済や社会に、最早、包摂できなくなってしまっていると言う深刻な状況にあること。フランスのテロの問題を解決するのは、空母シャルル・ドゴールを派遣してISの本拠などを空爆することによってではなく、テロの発生は、すべて、国内問題に起因しているので、国内の政治経済社会を改革せよと言うのである。

   トッドは、フランスのテロリストは、ISが送り込んだ若者ではなく、ISと何らかの関りがあったり、思想的影響などは受けているかもしれないが、二重国籍と雖も、フランス人なのだと強調している。
   アラブ世界の基本的な弱点は、国家を建設する能力の弱さで、ひどいとは言えども国家を形成しつつあったサダムフセインのイラクを、国家秩序に敵対的な新自由主義思想を掲げた米国が破壊してしまい、アラブの春の混乱も加わって、中近東の政治的均衡を壊して、空白化空洞化して行ったアラブ世界に、ISを擡頭させてしまった。
   迷走するシリアに対して、欧米列強が寄って集って介入して混乱の坩堝と化すなど、膨大な中近東やアフリカからの移民を輩出してヨーロッパに押し寄せているが、結局は、欧米の勝手気ままな中東アラブ政策によるブーメラン効果ではないのか、と言うことであろう。

   注目すべきは、トッドのアルジェリアの知人が、「なんでまた、君たち欧米人は、こんな困った連中を我々のところに送り込んでくるのか」と言ったと言うことで、ジハードに行く若者たちは、欧米人だと見做していると言うことである。
   イスラム教徒の家の出身で、中東にイスラム聖戦に向かう若者たちの出現と言う、奇妙な現象に直面しているのは、欧米社会の大部分を占める欧州であり、あの若者たちは欧州の産物であると言うことである。

   こう言った認識は、欧米人、特に、欧米の為政者や指導者には、殆どないようで、ISを叩くことが、テロ撲滅対策の根幹だと思っているところに、深刻な問題がある。
   トッドの言う第二次移行期をどう解釈するかが重要だが、とどのつまりは、ある意味では、暗礁に乗り上げてしまった欧米文明社会、危機に立つ先進国の政治経済社会を、どのように改革して行くかと言うことであろう。
   健全なヨーロッパ社会を再構築しない限り、ヨーロッパでのテロの根絶はあり得ないと言うことである。
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