熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

トランプの自動車業界への介入

2017年01月11日 | 政治・経済・社会
   トランプのツイッターでの自動車業界のメキシコ投資に対する糾弾などで、アメリカの自動車会社が、パニック状態で、対応が迫れている。
   結論から言えば、トランプの姿勢は、邪道と言うべきか、違法とも言うべき色彩の強い介入だが、結果的には、天に唾する行為で、ICT革命とグローバライゼーションの今日において、決して、アメリカの国民にも経済にも、プラスにはなり得ない。

   トランプは、既に、大統領選でも、NAFTA解消を唱えていたので、アメリカの製造業の雇用を奪っているのは、アメリカ企業のメキシコ進出であり、メキシコの製造業の台頭だと考えており、同列の議論で、中国へも不満の矛先を向けている。
   しかし、この現象は、要素価格平準化定理が、グローバライゼーション経済において作用している厳然たる事実で、同じ作業をしている労働者の賃金は、世界的に平準化して、
   アメリカの自動車会社の賃金が高いので、メキシコの労働者と同じ賃金に下がらざるを得ず、下がらなければ、自動車会社は、工場をメキシコに移すので、アメリカの労働者は失業する。

   このNAFTAの自由貿易によって、プロダクション・シェアリングによる安い自動車と言うアメリカの消費者が享受する利点を反故にすることであって、結果的にも、アメリカ経済の力を削ぐことになる。
   GMがメキシコで製造する車の90%は、アメリカへ輸出されていると言うし、自動車部品の多くがメキシコ産だと言うことで、トランプ政策の進展で、これまで、NAFTAで培われてきた自動車産業のサプライチェーンが齟齬をきたし後ろ向きの再構築が迫られる。

   アメリカの雇用を奪っているのは、何も、自動車など製造業だけではなく、ICTエンジニアや弁護士や会計士と言ったサービス産業や高度な専門職などにおいても、要素価格平準化定理のグローバル展開で、どんどん、窮地に立ち始めていると言う。
   自動車産業並みに、すべてに、トランプ主義を適用して対処して行けば、大変なことになり、アメリカ経済の屋台骨さえ揺さぶりかねなくなる。

   根本的には、今懸念されているアメリカ資本主義の衰退によるアメリカ経済の弱体化によって引き起こされたアメリカ産業の退潮であって、アメリカ経済が強く健全であれば、これほど、ラストベルトにおける製造業の衰退や白人労働者の大量失業なども起らなかったであろうし、トランプ現象も起らなかったはずである。
   すなわち、アメリカ経済を再構築して、健全で活力ある国際競争力を強化した経済体制に脱皮させたい限り、トランプの内向きの保護主義敵的な貿易経済政策の推進では、アメリカの経済を、どんどん、弱体化させるだけである。

   これを査証するのは、EU,特に、ユーロ圏において、健全経済を維持して唯一快進撃するドイツの一人勝ち経済の強さである。
   シチュエーションは多少異なるが、アメリカとメキシコの関係は、ドイツと南欧諸国と近似しており、アメリカ経済が強ければ、事情が変わっていた筈である。

   再説するが、ICT革命とグローバライゼーションによって、フラット化して瞬時にすべてが平準化作用で連結された国際経済においては、最早、保護主義的な貿易経済政策では、国内経済は守り切れず、その政策を強化すれば擦るほど、国内経済の国際競争力を削ぎ、弱体化させるだけだと言うことである。

   もう一つ、詳細は省略するが、リカードの説いた貿易の大原則である比較優位論を無視した保護貿易政策の追求は、根本的に、アメリカ経済を弱体化させて、アメリカ国民の生活をないがしろにすることになると言うことを、付記しておきたい。
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