熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

エマニュエル・トッド:人口学から見た2030年の世界

2017年06月19日 | 政治・経済・社会
   先にレビューしたトッドの「問題は英国ではない、EUなのだ」の1章である「人口学から見た2030年の世界」と言う記事が、非常に示唆に富んでいて面白い。
   「安定する米・露と不安定化する欧・中」と言うのである。

   アメリカについては、オバマ時代を想定しての理論展開で、今のトランプ時代のアメリカを見れば、アメリカ社会が、トッドが言うように安定期に入っているとは、到底思えないので、ここでは、議論を端折ることとする。

   ロシアだが、かっては、人口減が進行して危機説が展開されていたが、現在の出生率は1.8で、人口を再生産し、社会を維持して行くのに必要な水準に極めて近いパフォーマンスを示していて、乳幼児死亡率や平均余命も大幅に改善されている。
   ロシアは、集団主義的な伝統があり、世界的な現在の危機を前にしても、他の先進国が過剰な個人主義の所為で集団として一体となって対処できていないのに対して、このロシア特有の集団主義が強みを発揮している。
   ソ連崩壊後の危機を乗り越え、再び均衡を取り戻したロシア国民は、自分たちの社会の未来に不安を抱いておらず、軍事領域を含めて、自分たちのネーションを信頼している。
   しかし、人口が1億4000万人で日本と同様の規模であり、(経済力も弱く)、ロシアは、中級の安定的な保守的なパワーとして再台頭しているのであって、西側のロシア脅威論は幻想である。と言うのである。

   この最後のコメントは、、我々は、どうしても、米ソが対峙していた冷戦時代のソ連を想定するので、ロシアのパワーを過大評価しがちなので、非常に興味深い。
   前に、北方4島での共同開発をチャンスに、東部ロシアを、日本経済圏に取り込むべきだと、このブログで書いたことがあるのだが、トッドも、ロシアとの関係構築は、地政学的に理に適っていると言っており、中国への対応との関係を考慮しても正論だと思う。
   尤も、北方4島を日本に変換すれば、米軍基地を置くとロシアが牽制しているので、日米関係の在り方も変えざるを得ないかも知れないが。

   ヨーロッパについては、不安定なドイツが支配する地域となり下がり、最早、「ヨーロッパ」など存在しないと言って、EUの崩壊さえ示唆するトッドであるから、論じるまでもないであろう。

   中国については、次の章「中国の未来を「予言」する 幻想の大国を恐れるな」でもかなり、厳しい中国論を展開しており、中国超大国論は神話に過ぎない。と言うのである。
   まず、高等教育の進学率が5%未満で、他国と比べて極端に低い水準であり、他の先進国より半世紀ないしは一世紀遅れている。
   中国の出生率は急速に低下しており、女子100人に対して男117人で、男女差が異常であり、また、特に急速な少子高齢化は深刻で、10億人の人口ピラミッドの逆三角形は移民導入によっても解決しない。
   経済もアブノーマルで、GDPに占める「総固定資本形成」が、40~50%と異様に突出していて、(消費の占める比重が非常に低い。)
   中国の経済政策は、中国自らによって選択されたものではなく、むしろ、西洋の資本主義、多国籍企業の道具に成り下がっている。結局のところ、この領域においても、中国は自ら決定し、自ら実行する国家として機能し得ていない。と言うのである。

   この中国論については、多少異存があり、中国経済は勿論のこと、人口においても、国力においても、超巨大なマスとしての中国パワーの底力を、全く無視していて、そのまま、納得はできない。
   まず、冒頭の高等教育だが、10数億と言う巨大な人口での突出したトップエリートの質にしても量にしても、トッドの国フランスをはるかに凌駕している筈であり、中国のこれからの学問芸術、科学テクノロジーの発展を考えれば、そら恐ろしいほどのパワーが発揮されるであろう。
   中国の経済構造や経済システムには、トッドの指摘するように欧米日あってのこれまでの経済成長だとは思うが、とにかく、遅れていても、先進国と後進国が同居した中国のトータルパワーは無視するわけにはいかない。
   ここでは、これ以上踏み込まないが、中国の政治経済社会のトレンドは、進歩か退歩か、あるいは、良いことか悪いことかはわからないが、新しい時代を画する新時代のシステムの構築に向かっている可能性さえ感じており、西洋的な価値基準で判断すべきではないとさえ思っている。
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