熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

EUの民主主義の赤字と国民投票

2016年10月18日 | 政治・経済・社会
   ステイグリッツの本を読んでいて、面白いと思った指摘の一つは、「民主主義の赤字」である。
   この意味を、ウィキペディアで、適格に説明されているので、参考のために、引用させてもらう。
   ”民主主義の赤字(英:democratic deficit)とは、欧州統合が進む中で、欧州連合(EU)の決定機関に対する批判概念として生まれた言葉である。加盟国は立法権の一部を欧州議会に委譲しているが、欧州議会の立法権限は限定的で、欧州連合(EU)の政策は、加盟国代表が1名ずつ集まる欧州委員会を中心に決められたため、加盟国の国民の意思から離れているのではないかという意味で使われた。議会での民主的な統制を欠いていたため、民主主義の赤字と言われた。グローバル化による傾向も表す用語となっている。”

   国民の選挙によって選ばれた人々ではない議員によって決議されたEUの法令や規則は、民意を正しく反映しておらず、国民を苦しめており耐えられないと言う英国人の思いが、今回のブレグジット(Brexit)の最大のドライブ要因の一つであって、正に、民主主義の赤字そのものである。

   欧州プロジェクトは、開始時点から、「民主主義の赤字」に悩まされてきた。とスティグリッツは言う。
   欧州プロジェクトの様々な細目が、加盟各国で国民投票にかけられると、時として反EU感情が優勢となる。
   ユーロ導入では、デンマークとスェーデン、欧州憲法承認では、フランスとオランダ、EU加盟ではノルウェーの拒否の例があり、親EU勢力が勝った場合でも、反対投票は、多数にのぼる。
   原因の一つは、前述したように、EUの法令や規則は、直接選挙で選ばれていない欧州委員会によって発布され、委員長でさえ、選挙の洗礼を受けていないことで、多様な地域全般に奉仕しようとするルールや規則は、必然的に複雑とならざるを得なくなり、民意と乖離する。

   ロンドンに居た時、友人のフィリップ・ダウソン卿は、キエフからダブリンまで、ヨーロッパは一つだと言っていたが、知人の英国下院議員は、こんなに歴史も伝統も違うヨーロッパが一つである筈がない。と言っていたのを思い出す。
   私は、後者の意見で、まず第一に、言葉が違うし、各民族や国民のバックボーンとなっている歴史伝統、文化文明の違いを考えれば、ヨーロッパは一つと言える筈がなく、政治統合を後回しにした経済統合が、成功する見込みは、特に、危機的な状態になれば、特になく、暗礁に乗り上げるのは当然である。

    言葉については、モーツアルトは、馬車でヨーロッパ中を移動し、ロンドンにまで行っているのだが、当時は、言葉の違いは、馬車で移動する程度に理解できるくらいの変化で、言葉には不自由しなかったと言う。
   しかし、オランダのトップ建設会社のCEOが、車を走らせれば、1時間もかからずに国境を越えられるオランダでも、8つの支店を出さないと仕事にならず、場合によっては、言葉さえ違って通じないのだと、信じられない様な事を、私に語った。
   それに、私が住んで居た頃、オランダとベルギーの国境には、入り組み地があって、オランダ領の中にベルギー領があり、そのまた中にオランダ領があり、一棟のアパートの途中に国境が走っていて、左右、ガス水道電気の供給が、夫々の国からだと聞いたことがあるが、人種、民族、宗教などを異にする人々が混在するヨーロッパの複雑性は、日本人の知り得るところではない。

   余談だが、この建設会社は、何回も下請けに使っていたのだが、新しい工事になると、一から切った張ったの交渉で苦労したが、一度契約すると一切条件を付けずに完遂してくれた。
   ところが、英国の建設会社になると、契約時点では、100年前からの付き合いのように愛そうよく商談が進むのだが、一旦契約すると、契約の不備などを突いて、クレイム・クレイムの連続で、正に、英米法の世界で、アミーゴ関係などで話がつくラテンヨーロッパの方が、楽なくらいであった。
   これだから、言うのではないが、長くイギリス人と付き合っていて、イギリス人が、大陸ヨーロッパに、それ程、帰属意識がなく、自分たちが、ヨーロッパ人だと思っていないことは、良く知っているので、経済的な不利を承知の上(?)で、ブレグジット(Brexit)を可決した気持ちが、分からないわけではない。

   さて、このようなEUの民主主義の赤字と同列に議論できるのかどうかは、分からないが、国連、特に、安全保障理事会の欠陥などは、民主主義の破綻の最たるものであろう。
   国連以外にも、世銀やIMF等々国際機関によって振り回されているケースも結構あって、民意から離れたところで、グローバル世界が動いている。

   ところで、それでは、民主主義の象徴とも言うべき国民投票が、本当に民意を正しく反映した結果を生み出せるのかどうか。
   むしろ、ポピュリズムに煽られて、予想もしない不幸な結果を招くことが多いのではなかろうか。
   おそらく、今回の英国のブレグジット(Brexit)も、国会議員の決議では、拒否されていた筈である。
   ロビー活動が激しすぎて国会議員を翻弄していると言われるアメリカの国政も問題だが、まだ、例えば、税金の扱いなど、良識ある代議員による決議の方が、良い結果が出ると言われていて、間接的民主主義の価値が認められている。

   完全な直接選挙ではないが、国民の半数以上が不適格と言う候補者同士の、今回のアメリカ大統領選挙のお粗末さを、どう考えるのか。
   あのアテネの直接民主主義も、暗礁に乗り上げたが、
   チャーチルは、It has been said that democracy is the worst form of government except all the others that have been tried.。「過去に試みられたそれ以外の政治体系を除けば、民主主義は最悪の政治体制であると言われている」と言っている。
   民主主義以外には、適切な体制はないと言うことであるから、先日論じたミクルスウェイトの説く様に、この民主主義を修復することが大切だと言うことであろう。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 経済や経営の本は翻訳本ばか... | トップ | 中村光夫著「ドナウ紀行」 »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。
  • 30日以上前の記事に対するトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。