共謀罪を廃案に! 「法務省釈明」への反論 2/海渡雄一弁護士

2006-10-14 10:20:58 | 社会
4 第二セッションにおける5条に関する審議経過

 外務省公電によると、この修正案をめぐる審議経過は次の通りである。UAE
を除く全ての国がオプション2を支持した。

 この日本政府案について、韓国とタイが公式に支持すると発言し、中国も興味
深い提案であるとサポートした。このタイの発言の一部が開示制限となっている。
内容はわからない。また、ウクライナ、チュニジア、UAE、サウジアラビア、カ
タール、オマーンなどは「国内法の基本原則」を入れることに賛成した。しかし、
これに対して、イギリス、ドイツは、このような「国内法の基本原則」条項は条
約1条にあるので不要とした(当時の草案1条には現34条1項に相当する規定があっ
た)。イタリア、アメリカ、カナダ、オーストリアなどは「国内法制度の基本原
則との調整の規定を個別の条項におくことになると、ループホールを作ることと
なる。[下線開始]選択肢の(iii)は、実質的には(i)(ii)によってカバーさ
れている。」[下線終り]などと主張した。

 エクアドル政府などはオプション2と日本政府案の間で、日米間の妥協案に期
待するなどと発言した。

 これらの討論をもとに、議長の総括として、オプション1は早々に削除される
こととなった。

 日本政府の提案については、日本、韓国、タイとアメリカ、カナダ間で関心国
が受け入れ可能な妥協案を提出するようにと、議論がまとめられ、草案の中に日
本案もブラケットにはいる形で残された。[注 ブラケットに入れて残すという
ことは、各国の提案の中で、有力な選択肢として、今後の審議において検討する
という議長の公式の意思表明である。]

 なお、日本政府は、このセッションにおいて、20万ドルの会議経費の負担を
意思表明しており、ここにもこの提案に賭けた日本政府代表団の意気込みを見る
ことができる。

5 隠されているアメリカ政府などの日本提案に対する評価

 日本案が提案された第2回アドホック委員会の議事録は、阿部大使から外務大
臣に宛てた平成11年3月31日発信の第465号の公電に記載されているが、最も肝心
な部分が開示されていない。それは、日本の提案について、米国政府代表団らが
評価を下している部分である。同公電本文13頁~15頁にかけて日本提案に対する
各国の反応が記載されている。このうち最も肝心なのは、13頁に記載された米国
代表団の反応であるが、「(伊、米) これは、サブパラ(a)及びサブパラ
(b)(ii)=参加罪=とどこが異なるのか明らかにされる必要がある」と記載
された後、8行にわたって、マスキングされており、公開されていない。

 日弁連は代表団を同会合に送っており、その代表団は、米国らは、「選択肢の
(iii)は、実質的には(i)(ii)によってカバーされている。」と述べていた
ことを報告している(同会合に参加した峯本耕治弁護士の日弁連宛の報告書によ
る)。日本提案の参加罪については、イギリス提案のオプション2の共謀罪と参
加罪によってカバーされている、すなわち、日本提案の参加罪の処罰範囲とイギ
リス提案のオプション2の参加罪の処罰範囲は重なるという指摘をした旨報告し
ているのである。

 そうであれば、起草後の条約においても、日本が提案したように、特定の犯罪
行為の成就に貢献する形での参加を処罰する犯罪が存在すれば、国内法を変える
ことなく批准することができるはずであり、日本の国内法で幇助犯、共謀共同正
犯を処罰する規定があることによって批准できることとなる。
 日本政府は、このオプションを捨てて、国内で共謀罪を新設するために、あえ
て、このことを隠蔽しようとしているのではないか。

6 第三読会における3条に関する審議

(1) 第三読会開始時のドラフト・テキストには日本政府提案がカッコつきで採
  用されていた

 条約3条の第三読会は第7回セッション(2000年1月17-21日)であった。
 このセッションの開始時点の条約草案3条は次のような内容となっていた。
 条約本文中に日本政府の提案はブラケットに入れられて、残されており、前記
した討議経過が注にまとめられている。下線で示したように、日本政府の提案は
すべてブラケットに入れられて、この段階の草案に取り入れられている。

▽-----------------------------
A/AC.254/4/Rev.6
Article 327
  略
注 略
△-----------------------------

(2) 日本とアメリカなどとの非公式協議の内容は完全に隠されている

 この条項についての、日本政府とアメリカ、カナダなどとの非公式協議の内容
を記したと思われる外務省公電がある。しかし、その内容は全面黒塗りとなって
おり、全くわからない。したがって、日本が参加して行為するオプションを撤回
した交渉の経過が公開されておらず、法務省の説明はまったく信用できない。日
本政府が米国政府代表団らと非公式会合を持っている。この非公式会合の結果
は、阿部大使から外務大臣に宛てた平成12年2月16日発信の233号(FAX送信番号
WD22796-11)の公電に[下線開始]11頁にわたって詳細に記載されているが、11頁
にわたる同公電は、肝心な内容について書かれた部分(11頁分)全てが非開示と
されている。

 この公電の内容は極めて重要である。この中で、日本政府とアメリカ・カナダ
政府間の非公式協議の内容、現在の条約5条がまとめられた経緯、その意味内
容、そして可能性としては、日本政府がどのような国内法かを行うかという点に
関しても、討議がなされている可能性がある。ずっと、国内法を制定しないで参
加罪オプションで条約を批准するとしてきた日本政府の姿勢が、この時点でアメ
リカ、カナダ政府との協議を通じて共謀罪オプションへと変化したのかもしれな
い。共謀罪法案が何故提案されたのかを探る第一級の資料であるといえ、今国会
で必ず公開させる必要がある。[下線終り]

 これらについて一切明らかにならないまま、一方的に「処罰の範囲が不当に狭
くなるとして受け入れられなかった」と説明をされても信用することはできない。
 
(3) 公式会合においての議論状況の重要な経過が伏せられている。

 第7回会合の3条に関係する審議経過を記した公電は二つ存在する。一つは公
開され、一つは非公開とされている。
 公式会合においての議論状況は外務省の公開されている方の公電には次のよう
にまとめられている。

 同会議の議事録は、阿部大使から外務大臣に宛てた平成12年2月17日発信の第
254号の公電に記載されているが、日本の提案については、本文4枚目から5枚目
にかけて、わずか13行しか記載されていない。

 妥協案の内容を公式会合において日本政府から提案した。これに対して、アメ
リカ政府から、「この案は関係国の調整の結果であり、法制の異なる国の間の真
剣な協議により得られた結論であり、大変有益なものである。3条(b)の義務履
行にループホールを作らないため非常に重要である。」との意見が述べられ、こ
の提案のとおり、合意された。

 最後にフランスとコロンビアがこの案について理解できないので留保すると発
言したが、フランス代表団についてはアメリカと日本が議場外で説得し、留保は
撤回された。

 第8回セッションの冒頭の草案を記した文書には、現在の条約5条と同一内容の
条約成案が掲載されており、この内容が日本政府の提案した妥協案である。

 他方で、非公開とされている公電は平成12年2月16日17日WD22824-02(FAX送信
番号WD22824-02)である。[下線開始]この文書には、2ページに渡って、この公
式協議の内容がまとめられているが、二ページ分の文書が丸々マスキングされて
いる。公式会合の経緯を記した文書まで不開示にすることには何の根拠もなく、
政府の姿勢は情報隠蔽と言われても致し方ないものである。[下線終り]

 なぜ、日本政府が第3のオプションを撤回した案を提案したのか、その提案理
由は一切記載されていないうえ、フランス及びコロンビアから、「同案について
十分に理解ができていない」として態度を留保する発言がなされ、日本と米国が
議場外で説得し、留保を撤回したと記載されているが、フランスがいかなる疑義
を抱いていたのか、いかなる説得をしたのかまったく明らかにされていないので
ある。


■────────────────
第3 日本政府が参加して行為する第3オプションを放棄して共謀罪の立法化に
    突き進んだ経過は明らかにされていない

1 この条約起草経過の物語ること

 日本政府は、共謀罪ではなく、結社参加罪を変形した「参加して行為する」と
いう第三オプションを起草委員会で提案し、案文まで示した。この案が認められ
れば、国内法は不要という立場でこの提案はなされていることは提案理由を読め
ば明らかであろう。

 この結果、日本政府の提案した

 ・国内法の基本原則の尊重は5条には取り入れられなかったが、34条1項に
  取り入れられた。
 ・組織犯罪集団の関与は条約5条の共謀罪オプションの中に「国内法が求める
  ときは」という限定付きではあるが、取り入れられた。
 ・[下線開始]参加罪の条項については、純粋な結社参加罪を意味するオプショ
  ン1は否定されたが、イギリス提案によって決着が図られた。日本政府の提
  案した「参加して行為する」第三オプションと最終草案との違いは、日本案
  の「犯罪の成就に貢献することを知って」という部分が、「当該犯罪集団の
  目的の達成に貢献することを知って」と変えられている点である。

 結局、条約の結社参加罪条項は、条約審議の際の日本政府提案などによって、
「参加して行為する」ものに変えられており、「当該犯罪集団の目的の達成に貢
献する」とある部分を「当該犯罪の成就に貢献することを知って」と同義に理解
すると解釈できれば、日本における共謀共同正犯、教唆・幇助犯、予備の教唆・
幇助犯などの共犯規定により、可罰的となっている範囲とほとんど合致している
といえる。

 なによりも、日本政府は条約が特定の犯罪行為に関連して、参加して行為する
ことを処罰するオプションが条約案に取り入れられれば、我が国は国内法を変更
しないで批准可能であると考えていたことは明らかである。このように理解でき
るオプションが認められたにもかかわらず、国内法の創設なしに参加罪オプショ
ンで批准するのではなく、共謀罪オプションが選択されたのは、極めて不可解で
ある。[下線終り]

2 第3のオプションの提案こそ、日本政府提案の根幹である

 法務省は、共謀罪について組織犯罪集団の関与を求める提案と、参加して行為
する第3のオプションが選択的な提案であったかのような主張をしている。しか
し、この二つの提案は選択的なものではない。

 日本政府は、共謀罪について組織犯罪集団の関与を求める提案については、
「この条約の範囲が組織犯罪行為に関連する要素を含まなければならない以上、
そのような要素に関連させるためにこの規定は、さらなる限定がなされなければ
ならない。現在のところ、このような要素は、条約草案2条1項すなわち、3条の1
項(a)におけるのと同様に、「2条bisに定義された組織犯罪集団の関与する重
大犯罪」という表現に見いだされる。」と提案理由を説明している。すなわち、
[下線開始]共謀罪の広範すぎる要件を条約の趣旨に基づき、限定するべきだと主
張しているのであって、日本のように英米法あるいは大陸法系とは異なる法体系
を持つ国のために、このような修正が必要だと主張しているのではない。[下線
終り]

 日本政府は、参加して行為する第3のオプションの提案については、「3条1項
(b)の(i)と(ii)は、英米法系あるいは大陸法系の法体系のいずれかに合致
するものとして導入されるように考案されている。条約をさらに多くの国が受け
入れられるようにするためには、世界各国の法体系が英米法、大陸法という2つ
のシステムに限定されていないことから、第3のオプション、すなわち、『参加
して行為する』ことを犯罪化するオプションを考慮に入れなければならない」と
いう提案理由を述べており、[下線開始]日本政府の修正案の根幹がこの提案にあっ
たことは明らかである。[下線終り]日本政府は、自ら行った提案の趣旨をゆがめ
ようとしている。

3 日本政府は国民の前に事実を明らかにする責務を果たせ

 [下線開始]以上のとおり、法務省の説明は、自らの提案の趣旨をゆがめたうえ
で、公式、非公式での協議の経過を明らかにしていない非常に不十分なものであ
る。国会での審議は、以上で指摘した未開示部分について内容を明らかにしたう
えでなされなければならない。[下線終り]政府(法務省・外務省)は直ちに、未
開示部分を明らかにしなければならない。この部分を開示することなく、法案の
審議を進めるようなことは断じて許されない。


■────────────────
<付録 確定された条約5条(略)とその外務省訳>


外務省訳
第五条 組織的な犯罪集団への参加の犯罪化
1 締約国は、故意に行われた次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の
措置をとる。
(a)次の一方又は双方の行為(犯罪行為の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の
犯罪とする。
(i)金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的の
ため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって、国内法
上求められるときは、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進する
ための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの
(ii)組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は特定の犯罪を行う意図を
認識しながら、次の活動に積極的に参加する個人の行為
a 組織的な犯罪集団の犯罪活動
b 組織的な犯罪集団のその他の活動(当該個人が、自己の参加が当該犯罪集団
の目的の達成に寄与することを知っているときに限る。)
(b)組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を組織し、指示し、ほう助
し、教唆し若しくは援助し又はこれについて相談すること。
2 1に規定する認識、故意、目的又は合意は、客観的な事実の状況により推認
することができる。
3 1(a)(i)の規定に従って定められる犯罪に関し自国の国内法上組織的な
犯罪集団の関与が求められる締約国は、その国内法が組織的な犯罪集団の関与す
るすべての重大な犯罪を適用の対象とすることを確保する。当該締約国及び1
(a)(i)の規定に従って定められる犯罪に関し自国の国内法上合意の内容を推
進す行為が求められる締約国は、この条約の署名又は批准書、受諾書、承認書若
しくは加入書の寄託国際連合事務総長にその旨を通報する。
--------------------------------
全文は
http://blog.mag2.com/m/log/0000207996/
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1 コメント

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なるほどね! (やっぱり米国ですか。)
2006-10-14 15:04:42
しかも、9・11が起きる前の話!

当然、情報公開すべきですね。

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