地元政界、しがらみ〈電力支配:上〉
札幌市から南西に約50キロ。羊蹄山のふもと、北海道京極町でダム建設が進んでいる。秋雨のなか、一般車立ち入り禁止の深い山奥を、土砂運搬用の大型ダンプカーが何台も行き交う。
北海道電力の「京極発電所」。夜間電力を使ってダムの水を人工池にくみ上げ、電力使用が多い昼間に落として電気を起こす。夜間に余る泊原発の電気を「有効利用」するための揚水式発電所だ。
着工から約10年になる。2014年度から発電をはじめる予定で、総工費は約1570億円を見込む。
工事には、大手ゼネコンとともに地元の「伊藤組土建」(札幌市)が加わる。その不動産子会社の会長は元副知事。高橋はるみ道知事の後援組織「北海道を愛するみんなの会」の会長を務めている。経産官僚だった高橋氏を知事選に担ぐため、地元の政財界が03年に結成した会だ。
9月7日夕、札幌市内のホテル。みんなの会主催のセミナーに、企業経営者や国会議員、地方議員ら約950人が集った。参加費は1万円。4月に3選を果たした高橋知事にとっては、事実上の祝勝会になる。
会長が声を張り上げる。「みなさまの温かいご支援により、みごと3選を果たさせていただいた」。高橋知事は「全道179市町村で、ご支持いただいた」と頭を下げた。
セミナーは、高橋知事の資金管理団体「萌春(ほうしゅん)会」が協賛した。その会長は、元北海道電力会長の南山英雄氏だ。
萌春会の政治資金収支報告書によると、04年から6年間で、27人の北海道電力の役員や元役員が、少なくとも計297万円を献金。電力会社との深いしがらみの中で、原発をめぐる地元同意の判断は下されている。(小森敦司)
■知事も頼る原発マネー
北海道電力の泊原発3号機が8月、高橋はるみ道知事の了解を得て、営業運転を再開した。定期検査の最終段階で東日本大震災が発生。営業運転に入れず、調整運転を5カ月以上も続ける異常事態が続いていた。
2009年に稼働した泊3号機の総工費は約2930億円。地場ゼネコンも工事に加わり、地域を潤す。
原発再稼働を認める判断に、北海道電力の影はなかったのか。高橋知事は、広報広聴課を通して1枚のファクスで回答してきた。
「道政の執行にあたっては、道民本位の立場で公平公正な運営に努めている。原発再稼働などに関しても、道民の安全・安心の確保が重要との考えのもと、今後とも道民の視点に立った道政を進めたい」
九州電力の玄海原発(佐賀県玄海町)は、玄界灘の青い海に突き出るように立つ。その東側で、新しい公園の造成工事が進む。玄海町の「次世代エネルギーパーク」だ。太陽光や風力などの新エネルギーを体験学習できる施設で、来年度の完成を予定している。
造成工事を請け負うのは、岸本英雄町長の実弟が社長を務める岸本組。町議の親族企業も工事に加わる。岸本町長は言う。「町の経済のため、地元企業を優先的に考えている」
総事業費は約14億7千万円。このうち約9億5千万円は、国の核燃料サイクル交付金を充てる。県と町は06年、ウランにプルトニウムを混ぜた核燃料を使う「プルサーマル」の玄海原発導入に同意した。交付金はその見返りだ。
■隣接自治体も潤う
原発の恩恵は、隣接する唐津市にも及ぶ。
佐賀県は早稲田大の創設者、大隈重信の故郷。早大の系属校、早稲田佐賀中学・高校が唐津市で開校したのは、昨春のことだ。
玄関に寄付者の名を書いた銅板が飾られている。最上段の右端の名が、ひときわ目を引く。
「校賓(こうひん) 九州電力株式会社取締役社長 真部利応」
開校に必要な寄付金は約40億円。九電は20億円を寄付し、開校に道をつけた。
坂井俊之市長らは08年9月、福岡市内での会合で、九電の松尾新吾会長に寄付を求めた。そのころ九電は、日本初のプルサーマルを玄海原発に導入する準備を進めていた。地元では「唐津をなだめるための寄付」という声が漏れる。
九電の配慮は近年、九州の中でも佐賀県に手厚い。原発から約70キロ離れた鳥栖市でも、13年開業予定の「九州国際重粒子線がん治療センター」に、約40億円を寄付する計画だ。
古川康知事は、再選をめざした07年の選挙で、「国際的に活躍する人材を育成する学校や大学の誘致」と「がん治療の先端的施設の誘致」を公約に掲げた。その実現を九電が支える。
古川知事は、県の危機管理・広報課を通し、電子メールでこう説明した。
「地域振興のため、企業に対して寄付などの支援を求めることは一般的に行われていること。九電としても、事業趣旨に賛同され、ご協力いただいた」
東京電力福島第一原発の事故後、定期検査で停止した原発が再稼働できずにいる。海江田万里経済産業相(当時)は6月29日、佐賀県入りして古川知事に運転再開への理解を求めた。
経産省が最初に接近したのは、しがらみの深い佐賀県知事だった。ただ、九電による国の説明番組での「やらせメール」問題が発覚。再稼働は遠のき、九電との関係が知事を窮地に立たせている。(小森敦司)
◇
■電力供給の地域独占
日本の電力会社は明治時代の黎明(れいめい)期、数百社が乱立。寡占が進んで5大電力体制になった。5社は激しく競争したが、戦時経済体制のもと解散。発電と送電は国策会社「日本発送電」が一手に担い、家庭や工場に供給する配電会社は、全国9地域に分けて再編された。いまの沖縄を除く電力9社は、戦後の1951年、九つの地域ごとに発送配電一体の形で発足した。
地域独占を認められた電力会社は、大きな資金力や設備投資を背景に、地域経済の中核を担う。電力自由化が一定程度進んだ現在も、関東を除く北海道から九州までの各地の経済連合会の会長職を電力会社が占め、経済界を束ねる。
◇
東京電力福島第一原発の事故を受け、電力供給のあり方を見直す機運が高まっている。ただ、改革を阻む電力会社の力は、津々浦々に及ぶ。「電力支配」の実態を追う。
*2011.10.13朝刊
-------------------
暮らし支え 脱原発に壁〈電力支配:中〉
福井県敦賀市の子育て総合支援センター。2歳になる長男のおむつを替えていた主婦(33)は、教えてくれた。「このおむつ、市がくれたんですよ」
敦賀市は第1子が生まれると1万円分、第2子以降は3万円分の育児用品を支給する。今年初めには次男が生まれ、おむつ22袋とお尻ふき19袋をもらった。
昨年、大阪から越してきたという主婦(30)は、抱っこひもを受け取った。「立派な施設もたくさん。大阪とは全然違います」
潤沢な育児資金の出どころは、原発だ。
敦賀市内には、日本原子力発電の敦賀原発2基に加え、日本原子力研究開発機構の「もんじゅ」と「ふげん」(解体中)がある。福井県の若狭湾沿岸は、ほかに関西電力の原発11基が立つ「原発銀座」。東京電力の福島第一、第二原発の計10基をしのぐ。
原発の立地自治体には、国から「電源三法交付金」が支払われる。敦賀市は毎年、この交付金のうち500万〜600万円を育児用品の支給にあてる。
「ハコモノ」限定だった交付金は、2003年の制度改定で福祉サービスなどにも使えるようになった。乳幼児の医療費助成、病院の人件費、消防署の運営費、お年寄りらの足となるバスの事業費……。「ゆりかごから墓場まで」を原発が支える。
■棚ぼた式開発
福井県と県内市町村は、74年に交付金制度が始まって以来、3463億円を受け取った。敦賀市の一般会計の歳入のうち、交付金や固定資産税など原発関連が24%を占める。美浜、おおい、高浜の各町にいたっては4〜6割に達する。
前敦賀市長は83年、原発誘致で揺れていた石川県志賀町で講演し、こう言った。「短大は建つわ高校は建つわ、50億円の運動公園はできるわ。棚ぼた式の町づくりができる」
もっとも、交付金が手厚いのは原発が動くまで。固定資産税も建設から15年もすると大きく減る。そこで声があがる。「もっと原発を」。敦賀市は敦賀3、4号機の増設を求めている。
■脱却探る市も
若狭湾を囲む2市4町には、約15万人が暮らす。関電の原発で関連業務を担う元請け業者は40社。定期検査になると、2千〜3500人の作業員が働き、地元の宿泊施設や食堂、タクシーを使う。
原発は地域経済に組み込まれている。ある旅館経営者は「不景気もあって観光客が毎年減っている。原発関連の宿泊客が頼みだ」と打ち明ける。
高浜町内の飲食店は、原発に弁当を納めている。高浜原発1号機は14年、営業運転開始から40年になる。店主は古い原発の建て替え時期が近いとみて、今年初めに数千万円かけて弁当工場を新築。ところが、福島第一原発の事故で目算が狂う。原発の建て替えが難しい情勢になったからだ。
東電の原発事故後、若狭地域でも「次の世代のため、原発に頼らない地域づくりが必要」(50歳代の商店主)といった思いが広がる。原発のない小浜市では6月、市議会が期限を定めて原発から脱却するように求める意見書を採択した。
一方、脱原発の動きを牽制(けんせい)し、高浜町議会は9月下旬、原発を一定程度は残すよう国に求める意見書を採択した。「高浜と原発とは切っても切れない仲だ」。粟野明雄副議長は本会議で賛同を求めた。
同じころ、敦賀市の河瀬一治市長は、全国原子力発電所所在市町村協議会の会長として、政府の原子力委員会の新大綱策定会議で訴えた。「原発は四十数年にわたる地場産業。地域経済のことも考えるべきだ」(清井聡、稲田清英)
◇
〈電源三法交付金〉 電源開発促進税法などの「電源三法」に基づき、計画段階を含め、発電所の立地自治体や周辺に国が支払う交付金。原発の立地促進を目的に、1974年に創設された。一般的な家庭で月約110円が電気料金に上乗せされている。
資源エネルギー庁の試算では、出力135万キロワットの原発を新設する場合、環境影響評価から運転開始までの10年間で約480億円、その後の40年間で約900億円が支払われる。今年度予算額で全国の自治体に配られる交付金は1318億円(一部補助金も含む)となっている。
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参入に壁 乏しい選択肢〈電力支配:下〉
企業の電気代節約をたすけるのが、海老(えび)進一郎さん(46)の仕事。新潟市でコンサルタント会社を営んでいるが、東北電力の厚い壁に悩まされている。
新規の電気事業者(PPS)に切りかえれば、電気代が安くなる。そうすすめるが、いつも「電力会社がタダで料理教室を開いてくれた」(スーパー)、「地元の名士会で社長が電力とつき合いがある」(パチンコ店)などと断られる。
海老さんは悔しがる。「有形無形の圧力を受けている。理不尽だ」
PPSは自らの火力発電所で発電したり、工場の余剰電力を買ったりした電気を売る。全国に四十数社あるが、経営がなり立っているのは半分ほど。販売電力に占めるPPSの割合は約3%にとどまる。住友商事系のPPS「サミットエナジー」の国岡秀規・企画管理部長は言う。
「アリとゾウの戦いだ」
電力10社の2009年度の設備投資は約2兆円。電気工事、通信、不動産など、多くのグループ企業をかかえ、持ちつ持たれつの関係を隅々まで築き、PPSの前に立ちはだかる。
■電気代3割減
東京電力の原発事故をうけ、変化の兆しもある。
東京都立川市にこの夏、視察や問い合わせが相次いだ。市営の立川競輪場。空調や大型スクリーンなどにたくさんの電気をつかう。昨年度、電気の調達先を入札によって東京電力からPPSにかえた。電気代は前年度より3割少ない4600万円になった。
市公営競技事業部の高橋博さんは驚く。「契約変更だけで、ここまで違うのか」。市は今年度、電力入札を小中学校など市内53施設に広げた。もっとも、多くの自治体は、しがらみから離れられないでいる。
全国市民オンブズマン連絡会議(名古屋市)は9月、全国の自治体の電力調達について調べた。電気代のうち、入札なしで電力会社と随意契約した金額の割合は、政令指定都市で平均71%、都道府県で86%、中核市で96%にのぼった。
中国地方5県の本庁舎は、入札のすえ、すべて中国電力との3年契約になった。各県の担当者は「長期契約だと割引になる」。原子力や水力をもつ電力会社にくらべ、火力中心のPPSは、原油や天然ガスの市況に経営を左右されやすい。PPS関係者は「長期契約になると、大手が優位。経営体力の弱いPPSには厳しい」とこぼす。
■風力なぜ上限
発電から送電、配電まで一貫した独占的な供給が、電力会社の力の源だ。一方で国から競争を求められてもいる。電力会社幹部はいう。「PPSは生かさず、殺さずがいい」
自然エネルギーも独占を脅かす。
太陽光や風力で起こしたすべての電気を買い取るよう電力会社に義務づけた「再生可能エネルギー特別措置法」。8月に成立したが、業界はうしろ向きだ。
岩手県葛巻町。標高1千メートルを超える高原を強風が吹きぬける。ジャンボジェットの翼とほぼ同じ長さの風車の羽根が、勢いよく回る。町内の風車は15台。計約2万2千キロワットを発電でき、町の電気をまかなって余りある。まだ470台ほどの風車を町にもうけられ、再生エネ法は商機のはずだった。
ところが、北海道、東北、東京の電力3社は9月末、風力発電の実証試験をするとして、風力発電の募集枠を発表した。
東北電力が11〜12年度にかけて40万キロワット、北海道電力が11年度に20万キロワット。町の自然エネルギー担当、日向(ひなた)信二さんは「新法は全量買い取りを求めているのに、なぜ上限を決めるのか」と首をかしげる。
政治からくらしまで深く入り込んだしがらみをはらい、電力改革にふみ出せるのか。市民オンブズ事務局長の新海(しんかい)聡弁護士は思う。
「まず身近な自治体でエネルギー政策を議論してほしい。そうすれば、政策や電力の支配構造も理解しやすくなる。問題は一直線には解決しないが、少しずつあぶり出されるはずだ」(中川透、小森敦司)
◇
〈電力自由化〉 国際的に割高な電気代を競争によって下げようと、「不磨の大典」といわれた電気事業法が、1990年代後半から改正された。卸発電は95年、大口需要家向けの電力小売りは00年に解禁。独占禁止法の地域独占を認める適用除外規定も廃止された。ただ、販売電力量の約6割が自由化対象だが、新規参入が広がらず、利用者の選択肢はふえていない。家庭までの自由化範囲の拡大は先送りされたまま、いまにいたる。
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札幌市から南西に約50キロ。羊蹄山のふもと、北海道京極町でダム建設が進んでいる。秋雨のなか、一般車立ち入り禁止の深い山奥を、土砂運搬用の大型ダンプカーが何台も行き交う。
北海道電力の「京極発電所」。夜間電力を使ってダムの水を人工池にくみ上げ、電力使用が多い昼間に落として電気を起こす。夜間に余る泊原発の電気を「有効利用」するための揚水式発電所だ。
着工から約10年になる。2014年度から発電をはじめる予定で、総工費は約1570億円を見込む。
工事には、大手ゼネコンとともに地元の「伊藤組土建」(札幌市)が加わる。その不動産子会社の会長は元副知事。高橋はるみ道知事の後援組織「北海道を愛するみんなの会」の会長を務めている。経産官僚だった高橋氏を知事選に担ぐため、地元の政財界が03年に結成した会だ。
9月7日夕、札幌市内のホテル。みんなの会主催のセミナーに、企業経営者や国会議員、地方議員ら約950人が集った。参加費は1万円。4月に3選を果たした高橋知事にとっては、事実上の祝勝会になる。
会長が声を張り上げる。「みなさまの温かいご支援により、みごと3選を果たさせていただいた」。高橋知事は「全道179市町村で、ご支持いただいた」と頭を下げた。
セミナーは、高橋知事の資金管理団体「萌春(ほうしゅん)会」が協賛した。その会長は、元北海道電力会長の南山英雄氏だ。
萌春会の政治資金収支報告書によると、04年から6年間で、27人の北海道電力の役員や元役員が、少なくとも計297万円を献金。電力会社との深いしがらみの中で、原発をめぐる地元同意の判断は下されている。(小森敦司)
■知事も頼る原発マネー
北海道電力の泊原発3号機が8月、高橋はるみ道知事の了解を得て、営業運転を再開した。定期検査の最終段階で東日本大震災が発生。営業運転に入れず、調整運転を5カ月以上も続ける異常事態が続いていた。
2009年に稼働した泊3号機の総工費は約2930億円。地場ゼネコンも工事に加わり、地域を潤す。
原発再稼働を認める判断に、北海道電力の影はなかったのか。高橋知事は、広報広聴課を通して1枚のファクスで回答してきた。
「道政の執行にあたっては、道民本位の立場で公平公正な運営に努めている。原発再稼働などに関しても、道民の安全・安心の確保が重要との考えのもと、今後とも道民の視点に立った道政を進めたい」
九州電力の玄海原発(佐賀県玄海町)は、玄界灘の青い海に突き出るように立つ。その東側で、新しい公園の造成工事が進む。玄海町の「次世代エネルギーパーク」だ。太陽光や風力などの新エネルギーを体験学習できる施設で、来年度の完成を予定している。
造成工事を請け負うのは、岸本英雄町長の実弟が社長を務める岸本組。町議の親族企業も工事に加わる。岸本町長は言う。「町の経済のため、地元企業を優先的に考えている」
総事業費は約14億7千万円。このうち約9億5千万円は、国の核燃料サイクル交付金を充てる。県と町は06年、ウランにプルトニウムを混ぜた核燃料を使う「プルサーマル」の玄海原発導入に同意した。交付金はその見返りだ。
■隣接自治体も潤う
原発の恩恵は、隣接する唐津市にも及ぶ。
佐賀県は早稲田大の創設者、大隈重信の故郷。早大の系属校、早稲田佐賀中学・高校が唐津市で開校したのは、昨春のことだ。
玄関に寄付者の名を書いた銅板が飾られている。最上段の右端の名が、ひときわ目を引く。
「校賓(こうひん) 九州電力株式会社取締役社長 真部利応」
開校に必要な寄付金は約40億円。九電は20億円を寄付し、開校に道をつけた。
坂井俊之市長らは08年9月、福岡市内での会合で、九電の松尾新吾会長に寄付を求めた。そのころ九電は、日本初のプルサーマルを玄海原発に導入する準備を進めていた。地元では「唐津をなだめるための寄付」という声が漏れる。
九電の配慮は近年、九州の中でも佐賀県に手厚い。原発から約70キロ離れた鳥栖市でも、13年開業予定の「九州国際重粒子線がん治療センター」に、約40億円を寄付する計画だ。
古川康知事は、再選をめざした07年の選挙で、「国際的に活躍する人材を育成する学校や大学の誘致」と「がん治療の先端的施設の誘致」を公約に掲げた。その実現を九電が支える。
古川知事は、県の危機管理・広報課を通し、電子メールでこう説明した。
「地域振興のため、企業に対して寄付などの支援を求めることは一般的に行われていること。九電としても、事業趣旨に賛同され、ご協力いただいた」
東京電力福島第一原発の事故後、定期検査で停止した原発が再稼働できずにいる。海江田万里経済産業相(当時)は6月29日、佐賀県入りして古川知事に運転再開への理解を求めた。
経産省が最初に接近したのは、しがらみの深い佐賀県知事だった。ただ、九電による国の説明番組での「やらせメール」問題が発覚。再稼働は遠のき、九電との関係が知事を窮地に立たせている。(小森敦司)
◇
■電力供給の地域独占
日本の電力会社は明治時代の黎明(れいめい)期、数百社が乱立。寡占が進んで5大電力体制になった。5社は激しく競争したが、戦時経済体制のもと解散。発電と送電は国策会社「日本発送電」が一手に担い、家庭や工場に供給する配電会社は、全国9地域に分けて再編された。いまの沖縄を除く電力9社は、戦後の1951年、九つの地域ごとに発送配電一体の形で発足した。
地域独占を認められた電力会社は、大きな資金力や設備投資を背景に、地域経済の中核を担う。電力自由化が一定程度進んだ現在も、関東を除く北海道から九州までの各地の経済連合会の会長職を電力会社が占め、経済界を束ねる。
◇
東京電力福島第一原発の事故を受け、電力供給のあり方を見直す機運が高まっている。ただ、改革を阻む電力会社の力は、津々浦々に及ぶ。「電力支配」の実態を追う。
*2011.10.13朝刊
-------------------
暮らし支え 脱原発に壁〈電力支配:中〉
福井県敦賀市の子育て総合支援センター。2歳になる長男のおむつを替えていた主婦(33)は、教えてくれた。「このおむつ、市がくれたんですよ」
敦賀市は第1子が生まれると1万円分、第2子以降は3万円分の育児用品を支給する。今年初めには次男が生まれ、おむつ22袋とお尻ふき19袋をもらった。
昨年、大阪から越してきたという主婦(30)は、抱っこひもを受け取った。「立派な施設もたくさん。大阪とは全然違います」
潤沢な育児資金の出どころは、原発だ。
敦賀市内には、日本原子力発電の敦賀原発2基に加え、日本原子力研究開発機構の「もんじゅ」と「ふげん」(解体中)がある。福井県の若狭湾沿岸は、ほかに関西電力の原発11基が立つ「原発銀座」。東京電力の福島第一、第二原発の計10基をしのぐ。
原発の立地自治体には、国から「電源三法交付金」が支払われる。敦賀市は毎年、この交付金のうち500万〜600万円を育児用品の支給にあてる。
「ハコモノ」限定だった交付金は、2003年の制度改定で福祉サービスなどにも使えるようになった。乳幼児の医療費助成、病院の人件費、消防署の運営費、お年寄りらの足となるバスの事業費……。「ゆりかごから墓場まで」を原発が支える。
■棚ぼた式開発
福井県と県内市町村は、74年に交付金制度が始まって以来、3463億円を受け取った。敦賀市の一般会計の歳入のうち、交付金や固定資産税など原発関連が24%を占める。美浜、おおい、高浜の各町にいたっては4〜6割に達する。
前敦賀市長は83年、原発誘致で揺れていた石川県志賀町で講演し、こう言った。「短大は建つわ高校は建つわ、50億円の運動公園はできるわ。棚ぼた式の町づくりができる」
もっとも、交付金が手厚いのは原発が動くまで。固定資産税も建設から15年もすると大きく減る。そこで声があがる。「もっと原発を」。敦賀市は敦賀3、4号機の増設を求めている。
■脱却探る市も
若狭湾を囲む2市4町には、約15万人が暮らす。関電の原発で関連業務を担う元請け業者は40社。定期検査になると、2千〜3500人の作業員が働き、地元の宿泊施設や食堂、タクシーを使う。
原発は地域経済に組み込まれている。ある旅館経営者は「不景気もあって観光客が毎年減っている。原発関連の宿泊客が頼みだ」と打ち明ける。
高浜町内の飲食店は、原発に弁当を納めている。高浜原発1号機は14年、営業運転開始から40年になる。店主は古い原発の建て替え時期が近いとみて、今年初めに数千万円かけて弁当工場を新築。ところが、福島第一原発の事故で目算が狂う。原発の建て替えが難しい情勢になったからだ。
東電の原発事故後、若狭地域でも「次の世代のため、原発に頼らない地域づくりが必要」(50歳代の商店主)といった思いが広がる。原発のない小浜市では6月、市議会が期限を定めて原発から脱却するように求める意見書を採択した。
一方、脱原発の動きを牽制(けんせい)し、高浜町議会は9月下旬、原発を一定程度は残すよう国に求める意見書を採択した。「高浜と原発とは切っても切れない仲だ」。粟野明雄副議長は本会議で賛同を求めた。
同じころ、敦賀市の河瀬一治市長は、全国原子力発電所所在市町村協議会の会長として、政府の原子力委員会の新大綱策定会議で訴えた。「原発は四十数年にわたる地場産業。地域経済のことも考えるべきだ」(清井聡、稲田清英)
◇
〈電源三法交付金〉 電源開発促進税法などの「電源三法」に基づき、計画段階を含め、発電所の立地自治体や周辺に国が支払う交付金。原発の立地促進を目的に、1974年に創設された。一般的な家庭で月約110円が電気料金に上乗せされている。
資源エネルギー庁の試算では、出力135万キロワットの原発を新設する場合、環境影響評価から運転開始までの10年間で約480億円、その後の40年間で約900億円が支払われる。今年度予算額で全国の自治体に配られる交付金は1318億円(一部補助金も含む)となっている。
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参入に壁 乏しい選択肢〈電力支配:下〉
企業の電気代節約をたすけるのが、海老(えび)進一郎さん(46)の仕事。新潟市でコンサルタント会社を営んでいるが、東北電力の厚い壁に悩まされている。
新規の電気事業者(PPS)に切りかえれば、電気代が安くなる。そうすすめるが、いつも「電力会社がタダで料理教室を開いてくれた」(スーパー)、「地元の名士会で社長が電力とつき合いがある」(パチンコ店)などと断られる。
海老さんは悔しがる。「有形無形の圧力を受けている。理不尽だ」
PPSは自らの火力発電所で発電したり、工場の余剰電力を買ったりした電気を売る。全国に四十数社あるが、経営がなり立っているのは半分ほど。販売電力に占めるPPSの割合は約3%にとどまる。住友商事系のPPS「サミットエナジー」の国岡秀規・企画管理部長は言う。
「アリとゾウの戦いだ」
電力10社の2009年度の設備投資は約2兆円。電気工事、通信、不動産など、多くのグループ企業をかかえ、持ちつ持たれつの関係を隅々まで築き、PPSの前に立ちはだかる。
■電気代3割減
東京電力の原発事故をうけ、変化の兆しもある。
東京都立川市にこの夏、視察や問い合わせが相次いだ。市営の立川競輪場。空調や大型スクリーンなどにたくさんの電気をつかう。昨年度、電気の調達先を入札によって東京電力からPPSにかえた。電気代は前年度より3割少ない4600万円になった。
市公営競技事業部の高橋博さんは驚く。「契約変更だけで、ここまで違うのか」。市は今年度、電力入札を小中学校など市内53施設に広げた。もっとも、多くの自治体は、しがらみから離れられないでいる。
全国市民オンブズマン連絡会議(名古屋市)は9月、全国の自治体の電力調達について調べた。電気代のうち、入札なしで電力会社と随意契約した金額の割合は、政令指定都市で平均71%、都道府県で86%、中核市で96%にのぼった。
中国地方5県の本庁舎は、入札のすえ、すべて中国電力との3年契約になった。各県の担当者は「長期契約だと割引になる」。原子力や水力をもつ電力会社にくらべ、火力中心のPPSは、原油や天然ガスの市況に経営を左右されやすい。PPS関係者は「長期契約になると、大手が優位。経営体力の弱いPPSには厳しい」とこぼす。
■風力なぜ上限
発電から送電、配電まで一貫した独占的な供給が、電力会社の力の源だ。一方で国から競争を求められてもいる。電力会社幹部はいう。「PPSは生かさず、殺さずがいい」
自然エネルギーも独占を脅かす。
太陽光や風力で起こしたすべての電気を買い取るよう電力会社に義務づけた「再生可能エネルギー特別措置法」。8月に成立したが、業界はうしろ向きだ。
岩手県葛巻町。標高1千メートルを超える高原を強風が吹きぬける。ジャンボジェットの翼とほぼ同じ長さの風車の羽根が、勢いよく回る。町内の風車は15台。計約2万2千キロワットを発電でき、町の電気をまかなって余りある。まだ470台ほどの風車を町にもうけられ、再生エネ法は商機のはずだった。
ところが、北海道、東北、東京の電力3社は9月末、風力発電の実証試験をするとして、風力発電の募集枠を発表した。
東北電力が11〜12年度にかけて40万キロワット、北海道電力が11年度に20万キロワット。町の自然エネルギー担当、日向(ひなた)信二さんは「新法は全量買い取りを求めているのに、なぜ上限を決めるのか」と首をかしげる。
政治からくらしまで深く入り込んだしがらみをはらい、電力改革にふみ出せるのか。市民オンブズ事務局長の新海(しんかい)聡弁護士は思う。
「まず身近な自治体でエネルギー政策を議論してほしい。そうすれば、政策や電力の支配構造も理解しやすくなる。問題は一直線には解決しないが、少しずつあぶり出されるはずだ」(中川透、小森敦司)
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〈電力自由化〉 国際的に割高な電気代を競争によって下げようと、「不磨の大典」といわれた電気事業法が、1990年代後半から改正された。卸発電は95年、大口需要家向けの電力小売りは00年に解禁。独占禁止法の地域独占を認める適用除外規定も廃止された。ただ、販売電力量の約6割が自由化対象だが、新規参入が広がらず、利用者の選択肢はふえていない。家庭までの自由化範囲の拡大は先送りされたまま、いまにいたる。
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