教育基本法改正~各党の思惑とコミュニケーション能力/NikkeiBP

2006-11-28 22:03:52 | 教育

・なぜ、今、改正論議が浮上しているのか
 教育基本法は、連合国軍の占領統治下にあった昭和22年に公布施行され、それ以来、改訂されていないことから、社会情勢に合ったものにすることを目的に、改正案が提出されている。

文部科学省は、「教育基本法案について」の中で、改正案提出の背景として、「戦後の教育水準が向上し、生活が豊かになる一方で、都市化や少子高齢化の進展などにより、教育を取り巻く環境が大きく変わっていること」「子供のモラルや学ぶ意欲の低下、家庭や地域の教育力の低下などの指摘や、若者の雇用問題の深刻化」などを掲げている。こうしたなか「新しい時代の教育の基本理念を明確に示し、国民の共通理解を図りながら、国民全体で教育改革を進め、日本の未来を切り拓く教育を実現する必要」をうたっている。

中央教育審議会(平成15年当時)では、教育基本法制定当時の昭和22年と平成13年では、「平均寿命(50〜54歳から78〜85歳)」「合計特殊出生率(4.54から1.33)」「65歳以上人口の割合(4.94%から17.34%)」「高校進学率(42.5%から97.0%)」「大学等進学率(10.1%から48.6%)」「産業別就業率第一次産業(48.5%から5.0%)」「同第二次産業(21.8%から29.5%)」「同第三次産業(29.6%から64.3%)」などの前提条件の違いを挙げている。

・教育基本法案の特徴
 改正案で大きく注目されるのは、義務教育など、これまでは国が全てを取り仕切ることにしていたが、そもそも幼児期を含め、家庭や地域における義務や責任なども理解し、しっかり取り組んでほしいという内容になっている点である。

例えば、「義務教育の年限を9年と定めていたところを他法に委ねる」「家庭教育における保護者の第一義的な義務」「幼児期の教育に関する国や地方公共団体の振興努力義務」「宗教に関する一般的な教養、宗教の社会的生活における地位の、教育上の尊重」などが挙げられる。

全体としては、今後の社会環境の変化も盛り込み、より柔軟なビジョンを提示したともいえる。

改正案は、旧法との対比が行われている上、提出される文言は縦書きの資料まで添付されている。例えば、「教育基本法案と現行教育基本法の比較(参考資料)(pdf)」を見れば、ある程度、何処に意識を払い、章立てや項目として新たに何を設け、何をキーワードに盛り込んだか (書きぶり)が理解できる。

なお、野党が「現実に生じている課題(必修科目の未履修、いじめ、タウンミーティングでのやらせなど)」が解決されていないことから法案を差し戻して再度議論すべきとしているが、文部科学省は「これらは教育基本法の改正後に、新しい教育基本法の理念を具体化するための制度改革などを行うとともに、教育振興基本計画の策定に取り組む」としている。これに対して野党は、一連の混乱などから文科省が提出する基本法案などをそもそも信頼しないとしている。

・与党のスタンス、野党のポジショニング
 与党(特に、自民党)からは、「家庭や地域」「国民全体」というキーワードが浮上してくる。それはちょうど米国共和党と同じスタンスであり、家族愛、家族の支えを前面に出し、家族や地域の崩壊が少子化へと結びついたという論旨となる。(「国家のために」が戦争へとイメージを拡げることへの、制御とも見えるし、もちろん、そうした行き過ぎを牽制する上で、公明党が与党として果たした役割もある。)

そうしたことから、野党(特に民主党)は、個人、個人主義を前面に出し、フリーダムを高らかに掲げるべきところだが、今のところ、「適度なモラルを守りつつのフリーダム宣言」が欧米ほど政党内で育成されていない。むしろ自民党以上に保守化傾向を強め、「国家主義」「戦前」への回帰懸念を公明党から指摘されてしまっていると国民には見えてしまう。(アジア的価値観の中での個人主義が定着しないなどの問題があるのと、都市での保守化/保守傾向には、前の自民党・小泉政権が一定の成果を挙げたからであろう。)

●各党のサイト上でのコミュニケーション能力

教育基本法は、国会内でのテクニカルな問題、現在進行形の単位履修問題、タウンミーティングでのやらせ問題、さらには知事選や市長選などの結果が微妙かつ複雑に絡み合い、年末に向け、攻防が続くことになろう。

ただし、実際には、何を訴求し、誰が主たるターゲットなのか、その結果、日本という国家、国民がどこに向かうのかを見据える必要がある。以下、教育基本法そのものの議論も含め、各党が誰に対し、何を訴求しているのか、Webサイトから検証を行いたい。(なお、攻める側、守る側からのコミュニケーション上の課題などを提示しているが、あくまでも中立的立場からの検証であることに留意願いたい。)

・自民党
 全体的に文章が多く、図表がない点が見づらい。文章内の不必要な下線がクリック可能な箇所と判断されるなど、混乱は多い。例えば、「教育基本法改正Q&A」にて議論を簡潔にメモ方式でまとめているが、頭に入る文言、文字数、行数かは再度検討する必要があろう。また、設問が18問は多すぎる。

注目されるのは、問2で、マスコミ各社の世論調査を載せていること、問11で「宗教的情操の涵養」が盛り込まれなかった事由などが説明されていることである。また、問12「学校現場での宗教教育変化」などがポイントとなる。

・公明党
 公明党は自民党のパートナーとして、言いにくいことにも口出しをし、チェック機能を高めることが自らのスタンスとなる。

サイト上の説明では、政策決定に関わりつつ、全体のバランスを見るというスタンスが確立されているためか、比較的サイトでの文言がわかりやすい。

太田代表の記者会見での「政府案と民主党案」の比較は解りやすい。政府案では「個人の尊厳などの理念堅持」「国家主義の懸念をなくす」「政治的中立性を守る」を評価し、民主党案では「国家主義の色彩ぬぐえず」「政治的影響を受けやすい」「信教の自由に抵触の恐れ」とした。

また、それを補足する内容(11月18日)として斉藤政調会長のインタビューを掲載。民主党案の最大の欠陥について、「地方自治体の教育委員会を廃止し、首長が直接教育行政を行うと規定し、教育の中立性、政治からの独立性が制度的に担保されていない」とした。さらに、民主党案では、「『宗教的感性の涵養』は特定宗派の実践を離れてありえないものであり、公立学校で行うことは、憲法で定める信教の自由に抵触する恐れがあり、民主党案には共産党、社民党も反対している」とした。

同サイトは、「そこが聞きたい教育基本法案Q&A」など、コンテンツが明快であり、すっきりしている。

・民主党
 民主党がどういう法案を出したか、一番知りたい部分が、すっきり書かれておらず、写真で活動中というイメージが先行しすぎている。

やや厳しい言い方をすれば、対案を出すということは360度、様々な角度からの検証を行い、政府案をどこで凌駕し、何が良いのか、どうしてベストなのか、きちんと訴求しなければならないということである。もしそれができなければ、単なる二番煎じと受け取られてしまうリスクを意識していないということである。また、野党4党での断固抗議は、採決や議論プロセスでの抗議であり、野党が一致団結して代替案を推奨している状況ではないことに限界が生じる。結果、国民には、政争と見なされることもある。

そもそも、改正により何処が変わるのか、政府並みの対比など、表現に工夫が必要であり、頭の良い議員(元官僚)による法案提出という側面、対案を提出したという満足感が全面に出過ぎている。

例えば、正確を期して、「日本国教育基本法案」をpdfでそのまま掲載しているのだろうが、縦横の貼り付け方など、読ませる工夫も含め、配慮が足りない。

また、「教育のススメ」というコーナーで子育てと教育の不安など、各種意識調査を全面に持ってきているが、メニューバーやその動線周り含め、ユーザービリティに欠けており、イメージ先行になっている。

・国民新党
 「愛国心の涵養」という基本的文言、考えが欠落している等の理由から政府与党案に反対している。自民党からの談合(申し入れ)を批判し、数の論理による暴挙に抗議しているが、さらに右寄りな発言をしているように、一般国民には見えてしまう。

・社民党
 4月21日付で教育基本法「改正」に向けた与党合意について、又市幹事長のコメントを掲載。教育基本法改正が平和憲法の何処を踏みにじり、国家統制への危険性が何処にあるかを指摘しており、勉強、参考にはなるが、杞憂に終わるかどうかが問われてもいる。

・共産党
 「教育基本法のページ」の冒頭の「平和」「愛国心」「子供」「先生」の各項目がポップアップになっており、一覧性に欠けている。「子供と読む教育基本法」に党としてのスタンスが書かれている。

●その他の注目ポイント

・教育再生会議の設置
 平成18年10月10日、内閣に設置された「教育再生会議」の議論が注目される。座長は、中央教育審議会が実施したヒアリングの対象であった有識者7名のうちの1人である野依良治・独立行政法人理化学研究所理事長。

第一回会議(10月18日)の議事録(pdf)を見ると、「教育委員会の実態は、事務方と委員会、組合が繋がっていて、改革が遅れ、隠蔽が蔓延っている(横浜市教育委員会教務委員)」「文部科学省、教育委員会、学校は、建前をあまりにも大事にし、きれいごとが多すぎる(元文部科学事務次官)」「春まで息子が通っていた中学校の地理の教科書では、世界の国々のうち、アメリカ、フランス、マレーシアの3カ国しか教えていなかった(公募公立小学校校長、私大付属小学校副校長)」などの意見が見られ、今後の活発な討論が期待される(会議は現在第二回議事録(pdf)まで掲載されている)。

林 志行(りん しこう)

シンクタンク代表

外交官である父の赴任に伴い、日本・台湾双方で教育を受ける。筑波大学大学院博士課程、日興證券投資工学研究所を経て、1990年、日本総合研究所の創設時に参画。経営戦略立案など大手企業へのコンサルティングに携わる。

2003年1月、国際戦略デザイン研究所を設立。代表取締役に就任。

アジア情勢分析、リスクマネジメントでは定評がある。沖縄金融特区(キャプティブ導入)の発案者、ITリゾートの提唱者として知られる。近年はWebマーケティングでも発言多数。経済産業省、総務省、内閣府、沖縄県などの各種委員を務める。2004年より、美ら島沖縄大使。2006年より、東京農工大学客員教授。

 

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