不正が予測される米中間選挙/田中宇の国際ニュース解説

2006-11-03 19:36:35 | アメリカ

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★不正が予測される米中間選挙
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 11月7日にアメリカで行われる中間選挙は、全米50州のうち最大10州
で、投票後の集計時に混乱や不正疑惑が起こりそうだという予測が、欧米のマ
スコミで指摘されている。
http://www.guardian.co.uk/midterms2006/story/0,,1932655,00.html

 連邦議会の下院の全議席、上院の3分の1、38の州知事が改選される今回
の選挙では、投票所における投票時の本人確認が厳しくなることについて選挙
管理委員会の側の対応ができておらず、運転免許証など写真入りで本人確認で
きる証明書を何も持っていない貧困層が、事実上、投票できなくなってしまっ
た州がいくつかある。貧困層は民主党支持が多いので、この措置はブッシュの
共和党に有利になる。
http://www.motherjones.com/news/feature/2006/09/just_try_voting_here.html

 とはいえ、黒人など貧困層に対する政治的な差別は、アメリカではありふれ
ているので、今さら目くじらを立てる話ではない。大騒ぎになりそうな話は別
にある。

▼トンデモ話として扱われていたが・・・

 アメリカでは、2000年の大統領選挙で、旧式のパンチカード型の投票機
械が、フロリダ州などで、判読困難な投票結果を生み出したことが一因で、開
票時に大混乱が起きた。この教訓を受け、ブッシュ政権下では、投票機を新型
の電子式(タッチスクリーン方式)に替える政策が、連邦予算の計上をともな
って進められてきた。その結果、11月7日の中間選挙では、アメリカの有権
者の8割が、電子式の投票機を使って投票を行うことになっている。

 問題は、この電子式投票機の中に、投票の集計結果を簡単に改竄して不正が
やれてしまうものが多いことである。アメリカの電子式投票機の大手メーカー
は3社あるが、最も台数が多いのは「ディーボルド社」の「アキュボート」
(AccuVote)という製品で、全米の投票所の約4割が、この投票機を使ってい
る。この製品名は「正確な(accurate)投票(vote)結果を出す機械」という
意味でつけられたのだろう。だがこのマシンは、名前が示すものとは正反対の、
不正な投票結果を出してしまうことで、アメリカの選挙専門家の間で有名にな
りつつある。

 私はすでに2004年に、この投票機の不正疑惑を記事にしている。
http://tanakanews.com/e1008election.htm
この投票機は、2002年から使われていたが、共和党に有利な選挙結果を出
す傾向があった。そのため、選挙結果に疑問を持った民主党の活動家などは、
投票機のプログラムのソースコードを入手して、簡単に不正ができることを突
き止めて発表したが、メーカー側は「言いがかりだ」と拒否した。民主党の中
枢も「そんなこと、あるはずがない」という態度で、アメリカのマスコミもこ
の話は記事にしなかった。日本でも全く話題にならなかった。英語のインター
ネット上では、すでにかなり深くこの問題を調べることができたので、私は記
事を書いたが、トンデモ話の扱いを受けて終わった。

 その後、04年11月の、ブッシュが再選された大統領選挙でも、接戦のオ
ハイオ州などで、ディーボルドの投票機が不正な集計結果を出力した結果、本
来はケリーが勝っていたはずなのに、ブッシュ勝利になってしまったという指
摘が民主党側の一部から出たが、民主党は内部がバラバラの組織なので、ケリ
ー自身ら党中枢はこの指摘を無視し、投票日の夜、早々に敗北宣言をしてしま
った。
http://www.opednews.com/articles/opedne_david_di_060723_the_diebold_bombshel.htm

(今年になってようやく、04年の大統領選挙で行われた不正疑惑について真
剣に調査すべきでした、という反省と謝罪を表明する民主党議員が出てきた)
http://www.bradblog.com/?p=2963

▼ようやくマスコミが報じ出した不正懸念

 ディボールド投票機の疑惑は「あり得ない話」として、世の中では処理され
ていたが、この投票機が全米の選挙区に普及すると同時に、ブッシュ政権が
「テロ戦争」の名のもとに、米国内外で人権無視の法律改定などを乱発してい
るのを見て不信感を募らせる人がアメリカの政界や言論界に増えた結果、11
月7日の中間選挙を前に、投票機の不正疑惑が報じられるようになった。

 たとえばニューヨークタイムスは9月24日の記事「Officials Wary of Electronic Voting Machines」で、ディーボルド投票機の不正疑惑を指摘して
いる。知事が民主党の州では、電子式をやめて旧式に戻したりして不正対策を
やっていることなどが紹介されている。
http://www.nytimes.com/2006/09/24/us/politics/24voting.html
http://www.commondreams.org/headlines06/0924-04.htm

 このほか、アメリカのABCテレビ、MSNBC、イギリスのフィナンシャ
ルタイムス、ガーディアンなどのマスコミでも、ディーボルド投票機の不正疑
惑問題が報じられた。
http://www.ft.com/cms/s/a98a912c-62e7-11db-8faa-0000779e2340.html
http://www.guardian.co.uk/midterms2006/story/0,,1932655,00.html
http://www.abcnews.go.com/WNT/Technology/story?id=2596705&page=1

 大手の映画専門ケーブルテレビのHBOは、ディーボルドの投票機の不正疑
惑をテーマにしたドキュメンタリー映画「Hacking Democracy」を、ディーボ
ルド社からの苦情をはねのけ、11月2日に放映した。
http://www.hbo.com/docs/programs/hackingdemocracy/synopsis.html
http://news.com.com/2061-10796_3-6131891.html

 9月には、プリンストン大学の教授と学生が、ディーボルド投票機の実機を
入手し、実際に不正ができるかどうかを試したところ、簡単に不正ができたこ
とが論文として発表されている。
http://itpolicy.princeton.edu/voting/index.html

 この論文( http://itpolicy.princeton.edu/voting/ts-paper.pdf )によ
ると、ディーボルドの投票機アキュボートは、OSがウインドウズCE3.0
で、CPUは旧式の日本のPDAにも多く使われていた日立のSH3プロセッ
サ(133Mhz)、マザーボードにはPCカードがついている。投票機は、
通常は内部メモリから起動するが、独自の起動プログラムを書いて fboot.nb0
 という名前のファイルとしてコンパクトフラッシュなどのメモリに保存し、
それをPCカードに差し込んで起動すると、通常と異なる動きをさせることが
できる。

 論文では、不正な独自プログラムによって、各候補者の得票率をあらかじめ
設定しておくことで、本当の投票結果とは関係なく、事前に設定した投票結果
を選挙後に出力できることを立証している。この投票機はセキュリティが甘い
ので、不正なプログラムで起動していることは、コンピューターの専門家が疑
問を持って詳しく調べない限り、有権者にも投票所の選挙管理委員会にも察知
できない。投票機のPCカードスロットには施錠できるふたがついているが、
そのカギは一般に市販されているロッカー用のカギと同じものだった。
http://www.correntewire.com/hotel_minibar_keys_open_diebold_voting_machines

 投票機は、OSとCPUが汎用性の高く、私がこの記事を書いている
Pocket WZ Editor も動くはずだ。ウインドウズCEのプログラムが書ける人
なら、不正プログラムを作れる。
http://www.villagecenter.co.jp/soft/pwz30/

▼紙が残らない完全犯罪

 PCカードから独自プログラムで起動する際、本体メモリの起動プログラム
を、独自プログラムで上書きできるので、それをやってしまうと、PCカード
を抜いた後、リセットしても投票機は不正な独自プログラムで動き続ける。
PCカードとロッカー用カギをポケットに入れて有権者として投票ブースに入
れば、1分で投票機を不正なプログラムに感染させられる。選挙当日に「投票
機メーカーのメンテナンス担当者」として投票所を回れば、数人で一つの州の
全体の投票結果を改竄できる。

 ここ数年の全米各地の選挙では、全候補の得票数の合計が有権者の総数を大
幅に上回っていたり、投票後に電子式で集計中に、一方の候補だけ得票数が途
中で減ったりする奇怪な現象がいくつか確認されている。これらは、不正プロ
グラムに周到さが欠けていた結果だった可能性がある。

 プリンストン大学の論文に対し、ディーボールド社は「論文が対象としてい
る投票機は古いバージョンだ。今の型式は、起動プログラムを変更する際にパ
スワードの入力を求められるので、不正ができない」と反論している。しかし、
最初に設定されているデフォルトのパスワードは、全米のすべての機械で同一
で、ほとんどのマシンは購入後にパスワード変更をしていないので、最初のパ
スワードさえ分かれば不正ができる状況だ、と教授側は再反論している。

 投票機は、1票ずつの投票結果を印字して紙として出力することもできるが、
多くの選挙区では印字機能は使われておらず、投票結果が不正かどうか、後か
ら検証することはできない。日本のように、紙と鉛筆の投票方式なら、後から
数え直すこと(再開票)ができるが、電子式の場合、投票機内部に蓄積された
データそのものを書き換えられてしまうと、数え直しすらできない。選挙管理
委員会や投票機メンテナンスの正式な担当者が不正プログラムを投票機に埋め
込んだ場合、完全犯罪ができうる。

 これまでの数年間に指摘された、ディーボルド投票機を使った不正疑惑は、
すべて共和党を有利にするものだったので、投票機を不正操作するノウハウは
共和党側に蓄積されている可能性が高い。ブッシュの支持率が落ちているので、
11月7日の中間選挙では、民主党の有利が予測されており、その分、不正が
行われる可能性が高いことになる。

 滑稽なのは、ディーボルド以外の電子投票機メーカー(セコイア社)のソフ
トウェアを開発している企業の一つがベネズエラの選挙用プログラムを作った
ベネズエラ政府系の会社だったため「ベネズエラの反米主義のチャベス大統領
が、アメリカの選挙を破壊しようとしているのではないか」という指摘が出さ
れていることだ。自分の不正を政敵のせいにするという、秀逸なスピン作戦
(マスコミや言論人を使って出来事の意味を変えることで、不利を有利に変え
るプロパガンダ戦略)と見た。
http://fairuse.100webcustomers.com/sf/nyt10_29_6.htm

 そもそも、2000年の大統領選挙で、パンチカード式の投票機のせいで混
乱したので投票機の近代化が必要だという話の流れを作り、パンチカード式よ
りもっとひどい混乱や不正が可能になる電子式を導入するという、改革すれば
するほど無茶苦茶になるという逆説的なやり方も、すぐれたスピン作戦である。

 ハイテク立国の日本が、電子式の投票機を使わず、1票ごとの再確認が確実
にできる紙と鉛筆の選挙を続け、折り曲げても投票箱の中で元に戻る投票用紙
の開発などに力を入れてきたことは、実は素晴らしいことで、民主主義を実践
する正しいやり方である。アメリカの民主主義は腐っているという指摘は、米
英の内部からも出てきている。
http://observer.guardian.co.uk/columnists/story/0,,1866780,00.html
http://www.iht.com/articles/2006/09/05/opinion/edvote.php
http://news.independent.co.uk/world/americas/article1940786.ece

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1 コメント

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お蔭様で (自民党も積極導入支持)
2006-11-04 13:09:42
に回ってらっしゃいます。
好き勝手に票が操れるなんて、超超長期政権にとっても理想的です。
独裁とも呼びますが。

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