保護の不履行/北朝鮮における国連安全保障理事会の行動への要請

2006-11-14 00:01:27 | 北朝鮮
保護の不履行



北朝鮮における国連安全保障理事会の行動への要請



ヴァーツラフ・ハヴェル(Vaclav Havel)閣下(チェコ共和国前大統領)

クェル・マニェ・ボンデヴィック(Kjell Magne Bondevik)閣下 (ノルウェー前首相)

エリー・ウィーゼル(Elie Wiesel)教授 (1986年ノーベル平和賞受賞者)



DLA Piper     北朝鮮人権アメリカ委員会







はじめに



この数週間、国際社会の関心事は北朝鮮の核実験に集中していますが、同国は、今日の世界でも最悪の人権・人災の状況にある国のひとつでもあります。しかも北朝鮮は、この地球上で最も閉ざされた社会の一つでもあることから、その状況に関する情報は長い間、殆ど得られることはありませんでした。



各国家は、その国民を甚だしい人権侵害から「守る義務がある」とした基本原則が満場一致により国連安保理で採択されたことにより、新たな国際外交ツールが出現しました。すなわち、各国家はその領土統治に対する主権を有するが、もし、その国家が国民を深刻な人権侵害から守ることができなくなった場合は、国際社会が各地域の組織および安保理を含む国連組織を通じて介入する義務を負うことになったのです。



このような背景をもとに、私たちは、世界的法律事務所である「DLA Piper LLP」に対し、北朝鮮政府が自国家の国民を守る義務を果たしていないことに関する客観的且つ明確な報告書を北朝鮮人権アメリカ委員会と共同で作成するよう依頼しました。



本報告書にある証拠・分析は実に憂慮すべき内容です。確かに、金正日と北朝鮮政府が積極的に人道に対する罪を犯していることは明らかです。北朝鮮は、1990年代に100万人もしくはそれ以上の自国民を餓死させましたが、その飢餓問題は慢性化し、北朝鮮の37パーセントの子どもたちが慢性的に栄養不良状態にあります。さらに北朝鮮は、現代の強制収容所グーラーグに現在20万人にもおよぶ人たちを収監しており、過去30年の間に推測40万もの人たちがこの収容所で死亡しました。



上記の理由により、私たちは国連安全保障理事会が北朝鮮の状況を取り上げることを強く求めます。国連安全保障理事会レベルによる対処以外に北朝鮮の人たちを守る道はありません。





チェコ共和国前大統領

ヴァーツラフ・ハヴェル(Vaclav Havel)



ノルウェー前首相

クェル・マニェ・ボンデヴィック(Kjell Magne Bondevik)



1986年ノーベル平和賞受賞者

エリー・ウィーゼル(Elie Wiesel)



この報告書について



この報告書の意図するところは、北朝鮮における状況に対して国際法の新たな原則(すべての国家がその国民を重大な人権侵害から守るという責務)を適用することです。公表された情報および証人からの聞き取り調査などの広範囲におよぶ慎重な調査に基づき、本報告は、北朝鮮が同国内における人道に対する罪から国民を守る責務を果たさず、また、この状況を改善するべく国連組織から出された先の勧告を北朝鮮側が拒否したため、国連安保理の行動が正当化されるものであるとの結論に至りました。



本報告ではさらに、北朝鮮が平和に対する異例の脅威的存在であることを述べてあります。このように指摘することにより、同国における国内問題が他国にも影響を与えるという理由から安保理の行動に対して完全に独立した正当性を持たせることができるからです。



また、本報告には、核兵器・化学兵器・生物兵器及びこれらに関連した発射装置の製造に関する北朝鮮の関与についても記述されています。



しかしながら、この情報は単に上記の状況の全体像を示すと共に北朝鮮がその資源をどのように配分するについて説明するために提供されるものであり、さらなる安保理の行動を正当化するものではありません。六カ国協議および先の北朝鮮によるミサイル発射と核実験に関する安保理の行動で既に軍事的脅威への対処はなされています。



ハヴェル大統領、ボンデヴィック首相、ウィーゼル教授は、北朝鮮の軍事的脅威により同国の人権問題があまりにも長い間、脇へ追いやられていたとして本報告書の作成を当方に委託しました。2006年10月9日に行われた北朝鮮の核実験は、安全保障問題の取り組みを成功させる上で人権問題による同国政府との敵対を避けるべきであるというこれまでの意見が誤りであったことを証明しました。上記3氏は、この核実験を受けて、北朝鮮内の人権・人道危機は安全保障の脅威と同列に扱われるべきであり、もはや国際社会での話し合いを抑圧するべきではないと考えています。



本報告書で述べる人権・人道侵害を北朝鮮当局は一様に否定しますが、このような政府による否定を額面どおりに受けることはできません。本報告書ならびに引用資料に記載された主張および内容に対して北朝鮮が否定あるいは取り消しを行うことができる唯一の真の方法は、国連職員、人権委員代表者、信頼できるNGOを招き入れて現場で証明し、これらの情報を無効とすることです。



最後にお断り致しますが、北朝鮮が外部から隔離され、同国に関する検証可能な情報の入手が困難であるため、本報告書に記載された統計値はすべて最善の推測に基づくものであることをご承知おきください。



DLA Piper LLP法律事務所

北朝鮮人権アメリカ委員会



エグゼクティブ・サマリー



北朝鮮国内の状況



· 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の人権・人道状況は悪化し続けており、測定可能な改善は全く見られない。政府、非政府組織(NGO)および多数の国連組織を含む国際社会のメンバーが人権・人道法の深刻な侵害について報告してきた。国連(国連総会、前人権委員、北朝鮮人権特別報告官等)による勧告事項の実施を北朝鮮政府が拒絶したために北朝鮮の人々の窮状が続いている。従って、国連安保理の行動が正当化され、また必要とされている。





国連安全保障理事会の権限



· 国家間の平和と安全を維持する重要な任務を負う国連安全保障理事会は、戦争阻止・人権保護・国際政局安定に対する国連の責務を支える上で、拘束力を有する決定を下す無比の権限を有する。



· 国連憲章第34条の第6章によると、安保理は次の権限を託されている。すなわち、「国際的摩擦に至る可能性のあるいかなる状況をも調査し ..... の状況の継続が国際的平和・安全の維持を危うくする可能性があるか否かを判定する .....」。また、第39条の第7章によると、安保理は次のような責務を負う。すなわち、「平和への脅威があるか否かを判定し ..... 勧告を行うか、もしくはどのような措置を採るべきかを決定する .....」。



· 安保理の行動には、違反政府側に対してその違反行為を抑えるための行動を要請する決議採択を含めることもできる。また、国連憲章の第25条により、国連の全加盟国は「安保理の決定事項を受け入れ、これを実行することに同意する」。



· ここで、同国の状況に関して安保理の行動を正当化するものとして、次の各々独立した2項目が挙げられる。(1)北朝鮮政府は、自国民を人道に対する罪から守る義務を怠った。(2)北朝鮮国内の状況が、平和に対する異例の脅威となっている。





保護責任の不履行



· 北朝鮮政府は、明らかに自国民を人道に対する罪から守ることを怠っており、同政府は自国民およびその他の人々に対して同罪を積極的に犯している。先の国連行動が、北朝鮮に対してこれらの深刻な問題に取組むよう動機付けることができなかったことから、今は国連安全保障理事会が北朝鮮の状況を取り上げるべき時である。





背景

· ワールド・サミット開催時の2005年9月20日、国連総会で集まった指導者たちは次のような声明を採択した。すなわち、「(もし)国内当局が、自国民を人道に対する罪 ..... から守ることができないことが明らかである場合 ..... 我々は安保理を通じて時宜にかなった断固たる態度で集団行動を取る用意がある」という内容の声明である。



· その後、この声明は、2006年4月28日に安保理により決議1674の下に満場一致で承認された。



· 通常、自国内の犯罪となる行為が国際的な「人道に対する罪」のレベルに上がるには、国家及び国家を代表する加害者らが、故意に殺人・皆殺し・拷問・拘禁、あるいは甚だしい苦痛や深刻な身体的または精神的な危害を意図的に及ぼすなどのその他の行為が民間人に対して向けられる広範且つ組織的な一連の攻撃に関わっていなければならない。





適用の根拠



· 北朝鮮政府は、次の2点において人道に対する罪に積極的に関与している。すなわち、(1)飢餓の原因となる食糧政策、および(2)政治囚の処遇。



食糧政策と飢餓: 北朝鮮は、100万人以上もの自国民を1990年代に餓死させたが、飢餓問題は同国内で現在も続いている。北朝鮮の37パーセントを越える子どもたちが慢性的に栄養不良の状態にあるが、今日でさえ、北朝鮮は同国内203郡のうち42郡への世界食糧計画によるアクセスを拒絶している。



政治囚の処遇: 北朝鮮は、正当な法の手続きも取らずに、グーラーグの現代版ともいえる強制収容所にほぼ飢餓状態で20万人以上もの人々を拘禁している。これまでの30年間に、このような収容所で推定40万以上の人が死亡した。



平和に対する異例の脅威



· 自国民を守る責任を怠った上に、北朝鮮は平和に対する異例の脅威となっている。平和に対する「通例の」脅威は通常、軍事的行動によって引き起こされるが、平和に対するいわゆる「異例の」脅威は、ある国の行為または行為を怠った結果、国境を越えて深刻な影響を及ぼす場合に生じる。異例の脅威の例として、麻薬の密輸、伝染病の蔓延阻止の失敗、大量の難民流出につながる深刻な人権侵害、自然環境劣化などが挙げられる。



背景



· 何が異例の「平和に対する脅威」を表わすかに関する明確な定義は無いが、安保理は、その他のケースにおけるこれまでの行動を通じて、このような平和に対する脅威を集合的に構成する一連の要素を解明した。安保理は個別的なアプローチをするため、特定の一要素あるいは一連の要素の組み合わせが方向を決定することはない。過去のそれぞれのケースが唯一つしか無い状況の組み合わせを具現化しており、いずれのケースにおいても、安保理は平和に対する脅威が生じつつあると判定する際に、状況を総合的に考察した。



· 当方の作業の指針を得るために、先ず、これまでに安保理が平和への脅威と見なした国内状況に対して安保理が初期に採択した決議を精査した。この結果、安保理が決断を下す際の助けとなった基準が判明した。これらの基準は、北朝鮮に関する決定要因として本報告でも用いられている。



すなわち、これらの要因として以下のものが含まれる -(1)広範な国内の人道・人権侵害、(2)難民の大量流出、(3)その他の国境を越える問題(例:麻薬密輸)、(4)政府機関と反乱軍あるいは武装民族集団、(5)民主的に選ばれた政府の転覆。




人道・人権

侵害
難民の

流出
その他(麻薬密輸・偽造)
内紛
民主政府の

転覆

北朝鮮



-
-





· 北朝鮮のケースでは、これら決定要因5項目のうち3項目が当てはまる。これら5項目中、3項目が該当すれば安保理の関与が正当化されるに十分であったことが、当方の検討した事例研究7件中5件あった(ハイチ、イエメン、ルワンダ、リベリア、カンボジアにおける状況等)。北朝鮮には特に下記のような要因が存在する。



広範に及ぶ国内の人道・人権侵害: 上に述べたように、北朝鮮政府が行っているもので人道に対する罪を構成し、本要因に合致する二組の活動がある。それは飢餓の原因となっている食糧政策と政治囚の処遇である。



難民の流出: 近年、10万~40万の北朝鮮人が同国から逃亡したと推定される。



その他の国境を越える問題:



- 麻薬の製造・密輸: 北朝鮮政府は、不法とされる麻薬の製造および密輸により、年間5億ドルから10億ドルを稼いだものと思われる。また、北朝鮮は、年間30~44トンのアヘンを収穫し、10~15トンの覚せい剤を製造すると推定されている。



- 偽札製造およびマネーロンダリング: 北朝鮮政府は、高品質の偽米国100ドル札(いわゆる「スーパーノート」 )を製造し、マネーロンダリングを行っている。北朝鮮は、年間300万ドル~2千5百万ドルのスーパーノートを製造していると推定される。





結論

 

· 北朝鮮における全体的な状況の深刻な事態の結果として、また、本報告に詳細に分析した情報のすべてに鑑み、北朝鮮政府が保護に対する責任を果たしていないという理由、あるいは平和に対する異例の脅威となっている理由 により、安保理は北朝鮮に介入する上で独自の正当な理由を有する。安保理による介入は、北朝鮮の人々の苦しみを軽減するために必要な国際的且つ多国間における手段である。





勧告



まず初めに、国連安保理は、国連憲章の第6章および安保理の前例に従い、その権限によって北朝鮮における状況に対する非懲罰的決議を採択すべきである。



その決議の内容は次のとおりとする。



· 安保理による介入の主な理由を概説する。理由の概説では、北朝鮮政府の自国民に対する保護不履行および本報告で述べた主要問題に起因する国際平和・安全に対する脅威に焦点を当てる。



· 国連および国際組織が同国の最も弱者である人たちに人道支援ができるよう、同国の全域への迅速で安全且つ妨害の無いアクセスを保証することを北朝鮮政府に対して促す。



· 拘禁により権利を侵害されているすべての政治囚を、北朝鮮も締約国となっている市民・政治的権利に関する国際盟約に従って解放するように北朝鮮政府に対して要請する。



· 国連の北朝鮮人権特別報告官の同国訪問を認めるよう北朝鮮政府に対して強く求める。



· 国連事務総長に対し、北朝鮮の状況に精力的に携わり続け、定期的に安保理に報告を返すよう求める。



もし、北朝鮮が第6章の決議に従わない場合、安保理は、第7章の下に拘束力のある決議を採択することを考慮すべきである。
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