◇◆◇ 大阪市職員アンケートは何が問題か ◇◆◇
水島朝穂
橋下徹氏は、1994年3月に早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業した。私は
その2年後の1996年4 月、早大に着任した。この年から、橋下氏も勉強したで
あろう10号館109教室で、400人近い政経学部の学生たちに、一般教育の「法
学A/B」を講義している。在外研究(1999年3月〜2000年3月)の1年間
を除き、15年間担当したことになる。
講義後、議論を吹っ掛けてくる元気な学生もいて、なかなか楽しい(最近はおとなし
くなったが)。教養の法学のため、私の専門の憲法だけでなく、「法と道徳」「法の
解釈」という法学概論の基本問題から、「犯罪と刑罰」「消費者の権利」といった問
題まで取り上げている。
毎回、この講義の冒頭10分間は、その週に起きた「法的な事件」を、新聞を使っ
て解説している。学生には必ず新聞を読み、「私ならこの事件」というものを1つ持
参するように指示している。そのなかで教育基本条例をはじめ、橋下氏が打ち出す施
策についても何度か紹介し、憲法あるいは関連法律に照らしてその問題点を指摘して
きた。
そうした立場からすると、2月9日に出された「労使関係に関する職員のアンケート
調査について(依頼)」(総務人第439−1号・平成24年2月9日)には仰天せ
ざるを得なかった。PDFファイルで全文をリンクするのでお読みいただきたい。
市長自署入りの「アンケート調査について」という前文を見ると、「紙での回答は
受け付けません」として「庁内ポータル」の利用を求めている。これで誰が回答して
いないか、一目瞭然となる。しかも、「このアンケート調査は、任意の調査ではあり
ません。市長の業務命令として、全職員に、真実を正確に回答していただくことを求
めます。正確な回答がなされない場合には処分の対象になりえます」とまで書いてい
る。処分まで振りかざし、強制力をもって回答を求めていることからも、これは「ア
ンケート」という名称にそぐわない。
調査内容は22項目ある。例えば、Q6は「組合活動に参加したことがあります
か」として、活動内容、誘った人、誘われた場所・時間帯まで詳細に聞いている。こ
れでは組合員が組合にとどまることに恐怖を覚え、組合脱退を促進することにつなが
る可能性もある。組合活動に対する間接的介入であり、不当労働行為となるおそれが
ある(労働組合法7条)。処分付きの業務命令で、組合活動への参加に圧力をかける
とすれば、憲法28条の団結権そのものが危うくなる。
地方公務員の政治的行為については地方公務員法36条による制限があり、憲法学
上の周知の議論がある。政治活動の自由が公務員について制約されるとしても、幹部
職と下級職とは同じ規制ではない。後者について、過度の規制は違憲の疑いが指摘さ
れてきた。この「アンケート」には、政治活動を行う可能性のある人を炙りだそうと
する姿勢が見え隠れしている。
Q7は「特定の政治家を応援する活動(求めに応じて、知り合いの住所等を知らせ
たり、街頭演説を聞いたりする活動も含む)に参加したことがありますか」というも
の。明らかに政治活動の中身に踏み込んで聞いており、しかも処分付きの業務命令で
聞くのは、明らかに憲法19条の思想・良心の自由の侵害となる。ここでも活動内容
や誘った人の明記が求められているので、政治活動全般に対する強い萎縮効果を生ぜ
しめるだろう。
Q8「職場の関係者から、特定の政治家に投票するように要請されたことはありま
すか」。Q9は「紹介カード」(特定の選挙候補者陣営への提供を目的として、知人
・親戚などの情報を提供するためのカード)について、配布した人や場所などを詳細
に聞いている。
そして、「Q6、7、8、9について無記名での情報提供をいただける方に関しまし
ては、以下の通報窓口にお願いいたします」として、野村修也弁護士の事務所の電話
・ファックス・メールアドレスが指示されている。これは、職場のなかに密告を奨励
し、疑心暗鬼を生む最悪の手法と言えよう。
そもそも、Q12「職場において選挙のことが話題になったことがありますか」
と、職場における一般的な会話まで、処分付きの業務命令で回答させる感覚を疑う。
私は、「紹介カード」など、特定の候補者を支持して行う活動全般について問題が
ないと言っているわけではない。むしろそういった行為には、憲法的見地から批判的
な考えをもっている。しかし、これも同じ憲法的見地から、橋下市長のように、それ
を力でねじ伏せようというやり方は認められない。
橋下氏はいま、一個人としてではなく、強大な人事権、許認可権等をもつ政令指定
都市の市長として存在しているのである。彼は、いま、大阪市職員の思想・信条の自
由に踏み込むという、乗り越えてはならない一線を超えてしまった。橋下氏は弁護士
でもある。弁護士法1条には、「弁護士は、基本的人権を擁護…することを使命とす
る」とあるが、橋下氏にこの条文への自覚はないのだろうか。
ごく普通に憲法や法律を学んだ学生からすれば、橋下氏の主張をそのまま肯定する
のは困難だろう。学生たちにとって、これは「突っ込み所満載」の凄まじい「教材」
である。春休み中なので、直接講義で触れる機会がないため、学生たちにはメールで
意見を聞いてみた。
この問題に限らず、橋下氏の言動に対するメディアの批判は驚くほどに鈍いので、
学生たちには、メディアでなく、自分の頭だけを使い、このアンケートの問題点を検
討するように言った。すぐに何通かのメールが戻ってきた。
下記は、橋下氏が卒業してから16年後に入学した、2年の女子学生の意見であ
る。私は、2月17日午後5時10分にメールを送ったが、18日午前1時48分に
彼女からの返信が届いた。夕方、私のメールを読んで、すぐに家族と議論。深夜にこ
のメールを書いたものと思われる。下記の一文は短時間でまとめたもので、内容的に
未熟さが残るものの、素直な気持ちで「橋下アンケート」に対する問題点を指摘して
いるので、紹介しておきたい。
… … … … … …
大阪市のアンケートについての意見
はじめに、アンケートの趣旨等の書かれた文書から、もう違和感を持たざるを得ま
せんでした。このアンケート作成者は、市の職員の政治活動・組合活動を全般的かつ
広範に、そして自己の中で前提的に「違法・不適切」なものとしていることは明らか
です。
まず、市の職員の組合活動についての私のおおまかな考えを述べさせていただきま
すと、私は「団結権」に関しては異論なく認められるものと思っております。そも
そも、難しいことを考える以前に、団結権を認めないことができるのか、と思えて
しまうほど、団結権は憲法が保障する国民の当然の権利であると思います。なぜなら
ば、団結している段階では、他者に迷惑をかけるものではないからです。
他者にも迷惑をかけない個人の思想・交友関係を規制する根拠など一体どこにあるで
しょうか。確かに、単なる友情などの交友関係ではなく、組合的な団結権を認めるこ
とは、その後に団体行動などが行われる可能性はあります。しかし、そのような「可
能性」なる曖昧なものによって「予防的」に規制するなど絶対に行ってはならないと
思います。
予防的な規制を許してしまうことの恐ろしさは、歴史が物語っています。とにもかく
にも、団結権が誰にでも(もちろん公務員にも)認められていることは、自明なもの
であるといえると思います。また、団体交渉権についても、団結権の当然の結果とし
て認められるべきと思いますが、団体行動権(ストライキ権)については、公務員の
場合、ある程度の制約はやむを得ないと思います。でも、団結権すら否定するような
状況が生まれているため、ここでは論ずる段階ではないと思うので、今回は述べませ
ん。
次に公務員の個人的政治活動について。私個人の意見としてはなるべく認められる
べきだと思いますが、組織的に投票や支持が行われることは、良いこととは思えませ
ん。あくまで政治活動や政治活動への支援は自主性に基づいて、個々人によって行わ
れるべきものと考えるからです。
しかし、確かに組織的な政治扇動のようなものには違和感を持ちますが、それは公務
員だけでなく、民間の会社員等にも言えることであって、公務員だけが特別に規制さ
れるべき内容のものではないと思います。したがって、組織的政治活動の強制への規
制ならまだしも、公務員の個人の政治的活動に関しては、このように調査することの
必要性も感じられませんし、不必要な調査による萎縮効果のほうが危ぶまれるため、
行うべきものではないと考えます。
このアンケートの細部を見る前に、直観的な印象を語らせていただきますと、はじ
めに想起されましたのは「ナチス」です。このアンケートには恐ろしい部分が多すぎ
ますが、その中でも最も恐ろしいと私が思う点は、「同僚からの告発を促す」です。
仲間内からの告発はナチスでも行われたことであり、大変恐ろしいものであること
は、ナチスの歴史が語っていると思います。
具体的にアンケート内容を見ていくと、まず組合に関しての活動の把握を市が行お
うとしていることがわかります。どのように組織され、活動しているかを具体的に調
べています。特に活動を開始したとき(組合に参加したとき)を重点的に調べている
ように感じました。
これは、今後の参加者を予防的に制限するために調べているのでしょう。はじめから
参加させないことが最も組合というものの存在を根絶やしにできるとの考えからだ
と思います。
政治活動に関しては、いわゆる「パワーハラスメント」のような上司・組織からの
押し付けがないかを重点的に調べているように思います。確かにこの点について、パ
ワーハラスメントのようなものが行われている事実があれば、それはやめるべき行為
でありますが、このアンケートの調査はそのようなパワーハラスメントをやめさせる
意図よりは、個人の活動を萎縮させる意図の方が大きくなってしまっている気がいた
します。
また、私はこのアンケート用紙を読ませていただくまで、「紹介カード」なるものの
存在も知らず、公務員の組織内部における政治活動の支援等があることにつき、ほと
んど無知でした。そのため、少ない前提知識の中にありますので、この政治活動に関
してはまず、自らの無知を改善していくことを今後の目標としたいと思います。今
後、「紹介カード」の存在の実態等を調べたうえで、考え続けていきたい問題と思い
ます。
全般として、最も大きな問題な点は、このような調査がおこなわれることによっ
て、職員のみなさんが、「組合に入ることは悪いこと」との印象を持ってしまうこと
にあると思います。なぜ悪いことなのか等の深い考えを持たずに「なんとなくいけな
いことなんだ」との考えを職員の方々に与え、職員の方々は組合にはいること、政治
活動をすること、を自主的に諦めてしまうと思います。
この「自主的な諦め」こそ、このアンケートの意図するものではないでしょうか。今
ある既存の組織・運営を制限させるもののようにみせているこのアンケートは、実は
もっと予防的効果を意図したものと思います。既存の組織への制約へは、日弁連等が
行ってくれているように一定の反対活動なども可能でありますが、「自主的に」諦め
てしまった職員への規制は反対運動等を起こしづらくしています。なぜならば、形式
上は「自主的」にやめているからであります。
しかし、これは本当に「自主的」なのでしょうか。おかしな日本語かと思いますが、
私は「自主的に諦めさせられている」とあえて表現したいです。本人も気づかないよ
うに思想をコントロールする最も恐ろしい規制方法であると思います。「自主的」に
見せかけて、本当は「諦めさせられて」いるのだと思います。
橋下市長の活動は連日メディアも報道しておりますが、橋下市長の支持率の高さの
せいか、具体的な内容を語ると言うよりは、そのパフォーマンス性を私たちに知らせ
るにとどまるものばかりと思います。特にテレビの報道はひどいです。ただ「橋下市
長主宰の政治の勉強会に3000人もの応募があった」など橋下人気をあおりたてる
ような報道のみが目立ちます。
また具体的内容は報道せずに「船中八策」などと耳障りの言いフレーズだけを強調
し、橋下市長の先導性を誇張する報道もありました。本当に昨今のメディア、特にテ
レビの報道方法には疑問をもたざるを得ません。新聞等では、きちんと語られている
場合もありますが、読者の新聞離れも進んでいるのが現状であります。
みな、テレビの10秒で伝えられたワンフレーズだけ、インターネットにでたNEW
sのトピック(題名)だけを見て、NEWsの情報を得たと思いこむ風潮があるよう
に思います。こんな浅くしか知らないのに、知っていると思いこんでしまうのであれ
ば、知らない方がまだましかもしれない、とすら感じてしまいます。かくいう私も現
代を生きる若者で、気をつけなければならないと思います。今回のアンケートに関し
ても無知な部分が露呈しましたので、より一層情報収集につとめます。
私はこの間の橋下市長の活動に関して、新聞の切り抜きを集め続けております。君
が代斉唱を強制する教育基本条例は言うまでもなく、昨今では、「教育目標」に関す
る橋下氏の過激な意見にも目を向けており、今後の動向を気にしているところであり
ます(例:朝日新聞1月31日付等)。
また、橋下氏の活動全般を知るうえで非常によかったと思いましたものは、朝日新
聞2月12日付11面「オピニオン」におけるインタビュー記事で、これはある意味
で大変興味深いものでした。
正直な意見を申せば、橋下氏の活動には、幾度となく疑問を感じております。しか
し、すぐに批判するという精神を持つよりは、いまだ若輩者の私は、疑問を持った点
に関して、深く掘り下げて知識を集めることを先にしたいと思います。それにより、
公平な視点を得たうえで、その後に批判的な視点をもっていきたいものであります。
と、冷静に考えたいと思うものの、正直、情報収集をしている間に怒りなどがあふ
れてきてしまうのは私の性でしょうか。
大変稚拙な文章をお読みいただき、ありがとうございました。急いで作成したた
め、論理的飛躍、誤字(極力気を付けましたが)があると思います。これからも情報
収集につとめ、友人・家族等とも意見交換を試みてみます。実際、我が家では先生か
らいただいたアンケート資料を全員で読み、意見交換をいたしました。それでは失礼
します。
… … … … … …
上記の意見は、1年生で憲法を一通り勉強して、これから憲法を専門的に勉強しよ
うという段階の学生のため、「アンケート」のもつすべての論点に触れているわけで
はない。憲法専門の大学院生などからのメールには、憲法19条、28条から公務員
法上のさまざまな問題に至るまで指摘したものがあるが、ここではあえて、一般市民
の感覚に近い感想を紹介した。橋下氏には、こうした率直な疑問に耳を傾けてほしい
と思う。
なお、2月17日、大阪市特別顧問の野村修也弁護士は、回収したアンケートの開
封や集計作業の一時凍結を指示した。野村氏は、大阪市労働組合連合会(市労連)
が、大阪府労働委員会に「不当労働行為にあたる」として救済申し立てをしたことか
ら、「法定の手続きが開始された以上、推移を見守るのが穏当」と述べ、再開の時期
は「未定」としている。橋下市長は「何ら問題ないと思っているが、野村氏に判断を
委ねている」と述べた(『朝日新聞』2012年2月18日付)。弁護士であり、法
科大学院教授でもある野村氏は、アンケート項目の設計段階から問題を感じなかった
のだろうか。
*水島朝穂の「今週の直言」(2012年2月20日付)より全文転載
http://www.asaho.com/jpn/index.html
──────────────────────────────────────
★大阪市職員アンケート PDF
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水島朝穂
橋下徹氏は、1994年3月に早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業した。私は
その2年後の1996年4 月、早大に着任した。この年から、橋下氏も勉強したで
あろう10号館109教室で、400人近い政経学部の学生たちに、一般教育の「法
学A/B」を講義している。在外研究(1999年3月〜2000年3月)の1年間
を除き、15年間担当したことになる。
講義後、議論を吹っ掛けてくる元気な学生もいて、なかなか楽しい(最近はおとなし
くなったが)。教養の法学のため、私の専門の憲法だけでなく、「法と道徳」「法の
解釈」という法学概論の基本問題から、「犯罪と刑罰」「消費者の権利」といった問
題まで取り上げている。
毎回、この講義の冒頭10分間は、その週に起きた「法的な事件」を、新聞を使っ
て解説している。学生には必ず新聞を読み、「私ならこの事件」というものを1つ持
参するように指示している。そのなかで教育基本条例をはじめ、橋下氏が打ち出す施
策についても何度か紹介し、憲法あるいは関連法律に照らしてその問題点を指摘して
きた。
そうした立場からすると、2月9日に出された「労使関係に関する職員のアンケート
調査について(依頼)」(総務人第439−1号・平成24年2月9日)には仰天せ
ざるを得なかった。PDFファイルで全文をリンクするのでお読みいただきたい。
市長自署入りの「アンケート調査について」という前文を見ると、「紙での回答は
受け付けません」として「庁内ポータル」の利用を求めている。これで誰が回答して
いないか、一目瞭然となる。しかも、「このアンケート調査は、任意の調査ではあり
ません。市長の業務命令として、全職員に、真実を正確に回答していただくことを求
めます。正確な回答がなされない場合には処分の対象になりえます」とまで書いてい
る。処分まで振りかざし、強制力をもって回答を求めていることからも、これは「ア
ンケート」という名称にそぐわない。
調査内容は22項目ある。例えば、Q6は「組合活動に参加したことがあります
か」として、活動内容、誘った人、誘われた場所・時間帯まで詳細に聞いている。こ
れでは組合員が組合にとどまることに恐怖を覚え、組合脱退を促進することにつなが
る可能性もある。組合活動に対する間接的介入であり、不当労働行為となるおそれが
ある(労働組合法7条)。処分付きの業務命令で、組合活動への参加に圧力をかける
とすれば、憲法28条の団結権そのものが危うくなる。
地方公務員の政治的行為については地方公務員法36条による制限があり、憲法学
上の周知の議論がある。政治活動の自由が公務員について制約されるとしても、幹部
職と下級職とは同じ規制ではない。後者について、過度の規制は違憲の疑いが指摘さ
れてきた。この「アンケート」には、政治活動を行う可能性のある人を炙りだそうと
する姿勢が見え隠れしている。
Q7は「特定の政治家を応援する活動(求めに応じて、知り合いの住所等を知らせ
たり、街頭演説を聞いたりする活動も含む)に参加したことがありますか」というも
の。明らかに政治活動の中身に踏み込んで聞いており、しかも処分付きの業務命令で
聞くのは、明らかに憲法19条の思想・良心の自由の侵害となる。ここでも活動内容
や誘った人の明記が求められているので、政治活動全般に対する強い萎縮効果を生ぜ
しめるだろう。
Q8「職場の関係者から、特定の政治家に投票するように要請されたことはありま
すか」。Q9は「紹介カード」(特定の選挙候補者陣営への提供を目的として、知人
・親戚などの情報を提供するためのカード)について、配布した人や場所などを詳細
に聞いている。
そして、「Q6、7、8、9について無記名での情報提供をいただける方に関しまし
ては、以下の通報窓口にお願いいたします」として、野村修也弁護士の事務所の電話
・ファックス・メールアドレスが指示されている。これは、職場のなかに密告を奨励
し、疑心暗鬼を生む最悪の手法と言えよう。
そもそも、Q12「職場において選挙のことが話題になったことがありますか」
と、職場における一般的な会話まで、処分付きの業務命令で回答させる感覚を疑う。
私は、「紹介カード」など、特定の候補者を支持して行う活動全般について問題が
ないと言っているわけではない。むしろそういった行為には、憲法的見地から批判的
な考えをもっている。しかし、これも同じ憲法的見地から、橋下市長のように、それ
を力でねじ伏せようというやり方は認められない。
橋下氏はいま、一個人としてではなく、強大な人事権、許認可権等をもつ政令指定
都市の市長として存在しているのである。彼は、いま、大阪市職員の思想・信条の自
由に踏み込むという、乗り越えてはならない一線を超えてしまった。橋下氏は弁護士
でもある。弁護士法1条には、「弁護士は、基本的人権を擁護…することを使命とす
る」とあるが、橋下氏にこの条文への自覚はないのだろうか。
ごく普通に憲法や法律を学んだ学生からすれば、橋下氏の主張をそのまま肯定する
のは困難だろう。学生たちにとって、これは「突っ込み所満載」の凄まじい「教材」
である。春休み中なので、直接講義で触れる機会がないため、学生たちにはメールで
意見を聞いてみた。
この問題に限らず、橋下氏の言動に対するメディアの批判は驚くほどに鈍いので、
学生たちには、メディアでなく、自分の頭だけを使い、このアンケートの問題点を検
討するように言った。すぐに何通かのメールが戻ってきた。
下記は、橋下氏が卒業してから16年後に入学した、2年の女子学生の意見であ
る。私は、2月17日午後5時10分にメールを送ったが、18日午前1時48分に
彼女からの返信が届いた。夕方、私のメールを読んで、すぐに家族と議論。深夜にこ
のメールを書いたものと思われる。下記の一文は短時間でまとめたもので、内容的に
未熟さが残るものの、素直な気持ちで「橋下アンケート」に対する問題点を指摘して
いるので、紹介しておきたい。
… … … … … …
大阪市のアンケートについての意見
はじめに、アンケートの趣旨等の書かれた文書から、もう違和感を持たざるを得ま
せんでした。このアンケート作成者は、市の職員の政治活動・組合活動を全般的かつ
広範に、そして自己の中で前提的に「違法・不適切」なものとしていることは明らか
です。
まず、市の職員の組合活動についての私のおおまかな考えを述べさせていただきま
すと、私は「団結権」に関しては異論なく認められるものと思っております。そも
そも、難しいことを考える以前に、団結権を認めないことができるのか、と思えて
しまうほど、団結権は憲法が保障する国民の当然の権利であると思います。なぜなら
ば、団結している段階では、他者に迷惑をかけるものではないからです。
他者にも迷惑をかけない個人の思想・交友関係を規制する根拠など一体どこにあるで
しょうか。確かに、単なる友情などの交友関係ではなく、組合的な団結権を認めるこ
とは、その後に団体行動などが行われる可能性はあります。しかし、そのような「可
能性」なる曖昧なものによって「予防的」に規制するなど絶対に行ってはならないと
思います。
予防的な規制を許してしまうことの恐ろしさは、歴史が物語っています。とにもかく
にも、団結権が誰にでも(もちろん公務員にも)認められていることは、自明なもの
であるといえると思います。また、団体交渉権についても、団結権の当然の結果とし
て認められるべきと思いますが、団体行動権(ストライキ権)については、公務員の
場合、ある程度の制約はやむを得ないと思います。でも、団結権すら否定するような
状況が生まれているため、ここでは論ずる段階ではないと思うので、今回は述べませ
ん。
次に公務員の個人的政治活動について。私個人の意見としてはなるべく認められる
べきだと思いますが、組織的に投票や支持が行われることは、良いこととは思えませ
ん。あくまで政治活動や政治活動への支援は自主性に基づいて、個々人によって行わ
れるべきものと考えるからです。
しかし、確かに組織的な政治扇動のようなものには違和感を持ちますが、それは公務
員だけでなく、民間の会社員等にも言えることであって、公務員だけが特別に規制さ
れるべき内容のものではないと思います。したがって、組織的政治活動の強制への規
制ならまだしも、公務員の個人の政治的活動に関しては、このように調査することの
必要性も感じられませんし、不必要な調査による萎縮効果のほうが危ぶまれるため、
行うべきものではないと考えます。
このアンケートの細部を見る前に、直観的な印象を語らせていただきますと、はじ
めに想起されましたのは「ナチス」です。このアンケートには恐ろしい部分が多すぎ
ますが、その中でも最も恐ろしいと私が思う点は、「同僚からの告発を促す」です。
仲間内からの告発はナチスでも行われたことであり、大変恐ろしいものであること
は、ナチスの歴史が語っていると思います。
具体的にアンケート内容を見ていくと、まず組合に関しての活動の把握を市が行お
うとしていることがわかります。どのように組織され、活動しているかを具体的に調
べています。特に活動を開始したとき(組合に参加したとき)を重点的に調べている
ように感じました。
これは、今後の参加者を予防的に制限するために調べているのでしょう。はじめから
参加させないことが最も組合というものの存在を根絶やしにできるとの考えからだ
と思います。
政治活動に関しては、いわゆる「パワーハラスメント」のような上司・組織からの
押し付けがないかを重点的に調べているように思います。確かにこの点について、パ
ワーハラスメントのようなものが行われている事実があれば、それはやめるべき行為
でありますが、このアンケートの調査はそのようなパワーハラスメントをやめさせる
意図よりは、個人の活動を萎縮させる意図の方が大きくなってしまっている気がいた
します。
また、私はこのアンケート用紙を読ませていただくまで、「紹介カード」なるものの
存在も知らず、公務員の組織内部における政治活動の支援等があることにつき、ほと
んど無知でした。そのため、少ない前提知識の中にありますので、この政治活動に関
してはまず、自らの無知を改善していくことを今後の目標としたいと思います。今
後、「紹介カード」の存在の実態等を調べたうえで、考え続けていきたい問題と思い
ます。
全般として、最も大きな問題な点は、このような調査がおこなわれることによっ
て、職員のみなさんが、「組合に入ることは悪いこと」との印象を持ってしまうこと
にあると思います。なぜ悪いことなのか等の深い考えを持たずに「なんとなくいけな
いことなんだ」との考えを職員の方々に与え、職員の方々は組合にはいること、政治
活動をすること、を自主的に諦めてしまうと思います。
この「自主的な諦め」こそ、このアンケートの意図するものではないでしょうか。今
ある既存の組織・運営を制限させるもののようにみせているこのアンケートは、実は
もっと予防的効果を意図したものと思います。既存の組織への制約へは、日弁連等が
行ってくれているように一定の反対活動なども可能でありますが、「自主的に」諦め
てしまった職員への規制は反対運動等を起こしづらくしています。なぜならば、形式
上は「自主的」にやめているからであります。
しかし、これは本当に「自主的」なのでしょうか。おかしな日本語かと思いますが、
私は「自主的に諦めさせられている」とあえて表現したいです。本人も気づかないよ
うに思想をコントロールする最も恐ろしい規制方法であると思います。「自主的」に
見せかけて、本当は「諦めさせられて」いるのだと思います。
橋下市長の活動は連日メディアも報道しておりますが、橋下市長の支持率の高さの
せいか、具体的な内容を語ると言うよりは、そのパフォーマンス性を私たちに知らせ
るにとどまるものばかりと思います。特にテレビの報道はひどいです。ただ「橋下市
長主宰の政治の勉強会に3000人もの応募があった」など橋下人気をあおりたてる
ような報道のみが目立ちます。
また具体的内容は報道せずに「船中八策」などと耳障りの言いフレーズだけを強調
し、橋下市長の先導性を誇張する報道もありました。本当に昨今のメディア、特にテ
レビの報道方法には疑問をもたざるを得ません。新聞等では、きちんと語られている
場合もありますが、読者の新聞離れも進んでいるのが現状であります。
みな、テレビの10秒で伝えられたワンフレーズだけ、インターネットにでたNEW
sのトピック(題名)だけを見て、NEWsの情報を得たと思いこむ風潮があるよう
に思います。こんな浅くしか知らないのに、知っていると思いこんでしまうのであれ
ば、知らない方がまだましかもしれない、とすら感じてしまいます。かくいう私も現
代を生きる若者で、気をつけなければならないと思います。今回のアンケートに関し
ても無知な部分が露呈しましたので、より一層情報収集につとめます。
私はこの間の橋下市長の活動に関して、新聞の切り抜きを集め続けております。君
が代斉唱を強制する教育基本条例は言うまでもなく、昨今では、「教育目標」に関す
る橋下氏の過激な意見にも目を向けており、今後の動向を気にしているところであり
ます(例:朝日新聞1月31日付等)。
また、橋下氏の活動全般を知るうえで非常によかったと思いましたものは、朝日新
聞2月12日付11面「オピニオン」におけるインタビュー記事で、これはある意味
で大変興味深いものでした。
正直な意見を申せば、橋下氏の活動には、幾度となく疑問を感じております。しか
し、すぐに批判するという精神を持つよりは、いまだ若輩者の私は、疑問を持った点
に関して、深く掘り下げて知識を集めることを先にしたいと思います。それにより、
公平な視点を得たうえで、その後に批判的な視点をもっていきたいものであります。
と、冷静に考えたいと思うものの、正直、情報収集をしている間に怒りなどがあふ
れてきてしまうのは私の性でしょうか。
大変稚拙な文章をお読みいただき、ありがとうございました。急いで作成したた
め、論理的飛躍、誤字(極力気を付けましたが)があると思います。これからも情報
収集につとめ、友人・家族等とも意見交換を試みてみます。実際、我が家では先生か
らいただいたアンケート資料を全員で読み、意見交換をいたしました。それでは失礼
します。
… … … … … …
上記の意見は、1年生で憲法を一通り勉強して、これから憲法を専門的に勉強しよ
うという段階の学生のため、「アンケート」のもつすべての論点に触れているわけで
はない。憲法専門の大学院生などからのメールには、憲法19条、28条から公務員
法上のさまざまな問題に至るまで指摘したものがあるが、ここではあえて、一般市民
の感覚に近い感想を紹介した。橋下氏には、こうした率直な疑問に耳を傾けてほしい
と思う。
なお、2月17日、大阪市特別顧問の野村修也弁護士は、回収したアンケートの開
封や集計作業の一時凍結を指示した。野村氏は、大阪市労働組合連合会(市労連)
が、大阪府労働委員会に「不当労働行為にあたる」として救済申し立てをしたことか
ら、「法定の手続きが開始された以上、推移を見守るのが穏当」と述べ、再開の時期
は「未定」としている。橋下市長は「何ら問題ないと思っているが、野村氏に判断を
委ねている」と述べた(『朝日新聞』2012年2月18日付)。弁護士であり、法
科大学院教授でもある野村氏は、アンケート項目の設計段階から問題を感じなかった
のだろうか。
*水島朝穂の「今週の直言」(2012年2月20日付)より全文転載
http://www.asaho.com/jpn/index.html
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よろしければ、もう一回!










【地方公務員の政治的行為については地方公務員法36条による制限があり】
←橋下批判者は、そもそもこの部分を書かない人が多い。
【政治活動の自由が公務員について制約されるとしても、幹部職と下級職とは同じ規制ではない。後者について、過度の規制は違憲の疑いが指摘されてきた】
←「違憲の疑いが指摘されてきた」のであって、違憲だというなにか法源性の強い確立したものがあるわけではない。そのこともはっきりいわない人が多い(水島も言ってない)。
【私は、「紹介カード」など、特定の候補者を支持して行う活動全般について問題がないと言っているわけではない。むしろそういった行為には、憲法的見地から批判的な考えをもっている】
←これなど、水島は言ってるが、言う人はほとんどいない。
水島は橋下の「アンケート」には大いに問題があると指摘する。それはかまわない。私も同意見だ。
しかし、では、【特定の候補者を支持して行う活動全般】を今後どうしようというのか?これまでのそれをどう処分しようというのか?
水島はその点について、なんの意見も示さない。学者の限界というべきか。ほんとうの泥はかぶりたくないのか。自分は言わないでおいて【未熟さが残る】学生に「ナチス」などと言わせようという魂胆さえ感じられるのは僻目か?
いずれにせよ、これでは橋下の敵にはなるまい。
早稲田がんばらなきゃ・・
もし、野村修也弁護士が橋下に無断で、第三者に情報提供すれば、橋下はどう責任をとるのか。そもそも弁護士は、依頼人の秘密保持義務があるからどうやってどういう権限で橋下に情報を流す権利と義務があるのか
いずれにしても危うい話しです、うかつに乗るべきではないと思いますが。どう?
あなたに答えると、また自分が不快なおもいをしそうなので気は進まないのですが、ご指名ですから、お答えしますね。
>>そもそも何故橋下は職員アンケートを求めたのでしょうか。
>>目的があるはずです。そこをご自分で分析しないで水島さんにケチつけても
>>すれ違いですよ。私は、このアンケートの目的は明確に組合つぶしだと思います。
目的は、橋下自身が、「市の職員による違法ないし不適切と思われる政治活動、組合活動について調査・実態解明を行う」旨を明らかにしています。アンケートをごらんください。
そして、この「目的」自体を非難しているまともな評論はありませんよ。水島氏も日弁連会長も、「目的」の非難はしていません。
かれらは法律家ですから、憲法問題は、行為の「目的」「手段」というふうにわけて検討するのが習い性です。「目的」に違法性があれば、法律家なら必ず指摘します。そのかれらが何もふれないのは、「目的」が違法ではないからです。
なお、宮地さんがいろいろおっしゃっているのは、目的のための「手段」にかかわる問題です。そして、その「手段」がよくないという点については、私も、以前にこのブログにかかせていただいていて、宮地さんも読んでいらっしゃるはずです。
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/38d63f9adafc7f790c166013a215b02b
なお、「ウラの目的」などと言い出せば、いろんな想像ができることは確かです。しかし、それだけでは、橋下がここで主張している「目的」をチャラにすることはできません。
水島などは、自分で堂々といえないものだから学生などに「ナチス」と言わせて見苦しいものです(いやもちろん私の邪推なのでしょう)。
橋下が石原と、三木谷のスポンサー下で組むことになったとささやかれています。それがほんとうなら、という前提で書きますが、
もともと、私は、橋下を全面的に支持していたわけではありません(というより、政治家に対して全面的支持は私の場合はもともとない)。国政面で、TPPなど重要政策で意見が異なります。
大阪という地方政府の内部改革をおこなうことには期待していました。まずはそれを全うしてくれれば良かったのにとおもいます。何をあせっているのかとおもいます。
ともかく、国政をにらんで石原と組むようでは、支持できません。単に私が石原が嫌いというだけでなく、橋下は、河村とおなじくセンスが悪い政治家だったのだということに納得しました。ブログ主さんなどからは、ほれ見たことかといわれそうですが。
なお、大阪市の内部改革は、だれかに続けてもらいたいとおもっています。