共謀罪を廃案に! 「法務省釈明」への反論 1/海渡雄一弁護士

2006-10-14 10:17:45 | 社会
法務省は、越境組織犯罪防止条約制定過程で、共謀罪規定に反対していた件について、ウエッブで釈明を掲載しました。http://www.moj.go.jp/KEIJI/keiji34.pdfこれに対して、近日中に、日弁連は反論を行う予定です。(13日正午現在、まだ掲載されていません)http://www.nichibenren.or.jp/



共謀罪立法の基礎となった国連越境組織犯罪条約5条に関する
立案の経緯において、隠されていること
                        海渡 雄一(弁護士)


■────────────────
第1 新聞報道に反論する法務省文書

 いわゆる共謀罪創設法案の審議入りを前に各新聞社が、国際組織犯罪防止条約
の起草過程で、日本政府代表団が「共謀罪は日本の法原則になじまない」として
修正案を提案したことについて、法務省は、10月6日にそのウェブサイト上で、
修正案を提出した時点では、共謀罪の対象となる「重大な犯罪」の範囲が定まっ
ていなかったが、その後、重大な犯罪とは長期4年以上の刑が定められている重
大な犯罪に限定しているうえ、組織的な犯罪集団が関与する共謀に限って処罰の
対象とすることにしたため、日本の法原則に反するものではないとの説明をする
文書を発表した。http://www.moj.go.jp/KEIJI/keiji34.pdf

 しかし、この法務省の説明では重要な事実経過が隠されており、その説明の信
用性には重大な疑問がある。


■────────────────
第2 条約案審議の経過において、明らかになったことと明らかになっていな 
   いこと

1 第2読会まで

 この論争を理解するためには、どのような議論の経過で、国連条約に問題の条
項が作られることとなったかを正確に理解する必要がある。条約の審議は第一読
会、第二読会と順繰りに進められ、争点を煮詰めながら、成案を得ていくため
に、公式、非公式の協議が続けられた。この条約の審議過程を、正確に要約して
いる文書としては、警察庁から条約起草委員会に参加していた今井勝典氏のまと
めた「国連国際(越境)組織犯罪防止条約の実質採択」警察学論集53巻9号(2000
年)がある。

 条約5条(審議の際は3条であった)についての審議は第三読会まで行われた。
3条についての第一読会は第一回(1999年1月19-29日)に行われた。第一読会の
開始の時点における条約案は次の通りであった。

▽----------------------
A/AC.254/4
第3条
 犯罪組織の関与
 1 各締約国は、その国内法体系の基本原則に従い、下記の行為のいずれかま
たは両方を可罰的行為としなければならない。

(a)XX年以上の禁固または自由刑に該当する犯罪行為の実行を1人または複数の
者と共謀した行為

(b)集団の一般的犯罪行為または犯罪目的を助長する(furthering)ことを目
的として、あるいは当該集団が犯罪を実行する故意(intention)があることを
知りながら、故意に犯罪組織に参加する行為

 2 本条の規定は、犯罪の構成要件および刑罰が締約国の国内法により定めら
れるものであり、犯罪の起訴および処罰はかかる法律に基づいて行われるもので
あるという原則に影響するものではない。
△------------------------

 まさしく、この最初の草案は、一般的な共謀罪または結社の参加自体を犯罪化
する法制度の創設を締約国に求める内容のものであった。日本政府が修正案を提
案することを決意したのは、この草案が国内法化することが不可能であると考え
たからであろう。
 第一読会における条約審議においては、G8のドラフトテキストをイギリスが単
独で第2案として提案した(外務省公電)。しかし、この条項については第一 読
会ではこのイギリス提案が他の言語に翻訳が完了していなかったため、必要な翻
訳を行ってから議論をすることとなったため、検討されなかったとされている。

2 第2読会の開始時点における草案

 3条についての第二読会は第二回(1999年3月8-11日)に行われた。
この時点における条約テキストは次のような内容であった。

▽-------------------------
A/AC.254/4/Rev.1
第3条
 犯罪組織の関与
第1案
 1 各締約国は、その国内法体系の基本原則に従い、下記の行為のいずれかま
たは両方を可罰的行為としなければならない。

(a)XX年以上の禁固または自由刑に該当する犯罪行為の実行を1人または複数の
者と共謀した行為

(b)集団の一般的犯罪行為または犯罪目的を助長する(furthering)ことを目
的として、あるいは当該集団が犯罪を実行する故意(intention)があることを
知りながら、故意に犯罪組織に参加する行為

 2 本条の規定は、犯罪の構成要件および刑罰が締約国の国内法により定めら
れるものであり、犯罪の起訴および処罰はかかる法律に基づいて行われるもので
あるという原則に影響するものではない。

第2案
 1 各締約国は、以下を犯罪としなければならない。
(a)組織犯罪集団が関与する重大犯罪の実行を組織し、教唆し、幇助し、扇動
し、支援し、助言する行為。
(b)以下のいずれかまたは両方を犯罪行為の未遂あるいは既遂と区別された犯
罪とする。
(i)金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的の
ため組織犯罪集団の関与する重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意す
ること。ただし、国内法上求められるときは、その合意の参加者の一人による当
該合意の内容を推進するための行為を伴うもの
(ii)組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は特定の犯罪を実行する意
図を認識しながら、故意に組織犯罪集団の以下の行為に参加すること
 a 本条約第2条bisにおいて言及された組織的な犯罪集団の活動
 b 当該個人が、自己の参加が犯罪の目的の達成が助長されることを認識しな
がら、組織的な犯罪集団のその他の活動に参加すること

2 本条第1項に規定する認識、意図、目的、故意は事実に基づく客観的状況によ
り推定される。
△--------------------------------

このオプション2は、前述したとおり、イギリスの提案した修正案である。

3 日本政府の提案した修正案とその理由

(1)日本政府の提案した修正案

 第2読会の3条の審議の冒頭で、イギリスが、草案第2案を説明した。これに対
して、日本政府は、文書で理由を付した正式文書の体裁で、このイギリス案に対
する修正案の形式で次のように提案した。

▽---------------------------------
A/AC.254/5/Add.4
第3条
犯罪的組織への参加

 締約国は、次の行為を犯罪としなければならない。
(a)組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を組織し、指示し、幇助し、
教唆し、もしくは援助しまたはこれについて相談すること。[下線開始]そして、
国内法の基本原則に従うこと。[下線終り]

(b)次の犯罪行為の未遂または既遂に含まれるものとは別個に成立する[下線開
始]少なくとも一つの犯罪。[下線終り]

(i)[下線開始]金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連
する目的のため組織犯罪集団の関与する[下線終り]重大な犯罪を行うことを一又
は二以上の者と合意すること。ただし、国内法上求められるときは、その合意の
参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴うもの」
(ii)組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は特定の犯罪を行う意図を
認識しながら、故意に次の活動に積極的に参加する個人の行為
 a 本条約第2条bisにおいて言及された組織的な犯罪集団の活動
 b 組織的な犯罪集団のその他の活動であって、当該個人が、自己の参加が犯
罪の目的の達成に寄与することを知っているもの
(iii)[下線開始]重大犯罪を実行することを目的とする組織犯罪集団の行為に参
加することであって、当該行為に自ら参加することがその犯罪の成就に貢献する
ことを認識しているもの[下線終り]
△---------------------------------

(2)提案理由

 この理由として提案された文書の全文は次の通りである。

▽---------------------------------
A/AC.254/5/Add.3
国連越境組織犯罪条約審議に関するアドホック委員会
第2セッション
ウィーン
1999年3月8-12日

(中略)

諸国政府から受領された提案と寄与

(中略)

日本
                             [原文 英語]

 文書番号A/AC.254/L.1/Add.2に示された本体条約の3条(訳注・・現在の5条)
についての提案

1 日本は、この条約草案において最も重要で挑戦的な条約3条について、提案
する。この条項は締約国に対して組織犯罪集団に参加することを犯罪化する義務
を課すことによって組織犯罪と闘う効果的な手段を提供するであろう点で重要な
ものである。そして、挑戦的というのは、共謀罪・参加罪の導入が各国の国内法
制度の基本的原理と関係するからである。

2 3条が共謀罪と参加罪の二つのオプションを設けていること自体、困難性を
示している。二つのオプションによって、英米法系のシステムにおける共謀罪と
いう概念に基づいた犯罪類型と大陸法系のシステムにおける参加罪という概念に
基づいた犯罪類型から選択できる。

3 しかし、この条約を世界各国が締結できるようにするためには、(英米法
系、大陸法系以外の)世界の他の法制度を持っている国でも受け入れられるよう
にしなければならない。また、この条項は、2条及び2条bisなどに定義された
「組織犯罪」や「組織犯罪集団」という概念と何らかの関連(nexus)を持つべ
きである。

4 この提案は、上記のような考慮に基づいて作成され、第3条の2つの選択肢
に基づいている。それは、イギリスによって提案されたものである。日本は、二
つの選択肢の改訂版が、世界の他の法制度に受け入れられるべき本条項の義務に
ついての本質的かつ最小限度の要求であると考える。
 
5 3条1項(b)は、参加罪という概念を導入するものである。上述したとお
り、参加罪という概念は、各国の国内法の基本原則と密接に関連する。例えば、
日本の国内法の原則では、犯罪は既遂か未遂段階に至って初めて処罰されるので
あり、共謀や参加については、特に重大な犯罪に限定して処罰される。したがっ
て、すべての重大な犯罪について、共謀罪や参加罪を導入することは日本の法原
則になじまない。しかも、日本の法律は、具体的犯罪を実行しないである犯罪組
織に参加すること自体を犯罪化する規定を有していない。それゆえ、参加行為の
犯罪化を実現するためには、国内法制度の基本原則の範囲内で実現するほかない。

6 そこで、日本は、3条の1項(a)と(b)の間に、「国内法の基本原則に従っ
て」というフレーズを加えることを提案する。

7 3条の1項(b)(i)は、「重大犯罪」を犯すことを「共謀する」ことを犯罪
化するものである。ここでいう重大犯罪とは、2条の2の(b)で「長期●年以上
の懲役に処せあっれる犯罪を構成する行為」と定義されている。この条約の範囲
が組織犯罪行為に関連する要素を含まなければならない以上、そのような要素に
関連させるためにこの規定は、さらなる限定がなされなければならない。現在の
ところ、このような要素は、条約草案2条1項すなわち、3条の1項(a)における
のと同様に、「2条bisに定義された組織犯罪集団の関与する重大犯罪」という表
現に見いだされる。

8 そこで、日本は、2条1項の起草における将来的な展開によって文言が変更さ
れる可能性を伴うものではあるが、3条1 項(b) (i)の第一行にある「重大犯」の
文言の後に「組織犯罪集団の関与する」というフレーズをいれることを提案する。

9 日本政府の基本的立場は、「組織犯罪集団の関与する」という概念は、重大
犯罪を実行することを目的とし、あるいはそのような集団の組織を利用してなさ
れる集団の行為の一部として行われること意味しなければならないというもので
ある。

10 3条1項(b)の(i)と(ii)は、英米法系あるいは大陸法系の法体系のいず
れかに合致するものとして導入されるように考案されている。条約をさらに多く
の国が受け入れられるようにするためには、世界各国の法体系が英米法、大陸法
という2つのシステムに限定されていないことから、第3のオプション、すなわち
「参加して行為する」ことを犯罪化するオプションを考慮に入れなければならな
い。

11 そこで日本は、3条1項(b)に次のような新しい条項を設け、新たなオプショ
ンとするべきだと提案する。
「(iii)重大犯罪を実行することを目的とする組織犯罪集団の行為に参加するこ
とであって、当該行為に自ら参加することがその犯罪の成就に貢献することを認
識しているもの」

12 この変更に伴い、3条1項(b)の柱書の文言を「一つあるいは両方」から
「(3つの選択肢の内の)少なくとも一つ」に変えるよう提案する。
△---------------------------------

(3) 日本政府提案の位置づけ

 この日本政府の国連に提出した意見がとても合理的で、日本にとって最小限度
の国内法によってこの条約を批准するために、真剣に考え抜かれ、その内容も非
常に合理的な内容となっていることがわかる。内容的には、いま、日弁連や民主
党の言っていることと、完全に重なっていると言うことができるであろう。この
文書は、前から存在は知られていて、第5パラグラフの共謀罪は我が国の法の基
本原則と相容れないと言うところは、繰り返し引用されてきた。しかし、それ以
外の部分は参加罪について書かれていて、共謀罪と関連しないと言うことで、関
係者の間できちんと読み込まれていなかったといえる。

 また、参加罪の捉え方が、団体への参加だけで処罰可能とする極端な制度であ
るという理解が先行し、組織犯罪集団の犯罪「行為への参加」という観点からは
理解されていなかったのである。条約原案を組織犯罪集団の犯罪「行為への参
加」の形式に変更する点ではオプション2のイギリス提案も日本提案の第3オプ
ションも共通するが、日本提案は具体的な犯罪行為との結びつきを要件としてい
る点でさらに限定されたものであった。このオプションが採用されれば、幇助犯
や共謀共同正犯が可罰的であることによって、日本政府は国内法を改正すること
なく条約を批准することができるという考え方に立っていたことが提案理由から
明らかである。

 そして、国内法の原則にしたがって国内の立法をすればよいこと、結社罪と共
謀罪のどちらの法伝統も持たない国も批准できるように配慮しなければならない
こと、各国は条約の文言とおりに国内法を起草する必要はないことな日本政府提
案の重要な趣旨は、そのまま立法ガイドにも反映されている。

▽------------------------------------
オプション2 略

 △------------------------------------

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□ 共謀罪を廃案に! 「法務省釈明」への反論・資料特集
□ ___________________________
□ メルマガ 3号(資料特集) 2006年10月14日
□ 発行:盗聴法(組織的犯罪対策法)に反対する市民連絡会
□ mlmag-kyoubou@alt-movements.org
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全文は
http://blog.mag2.com/m/log/0000207996/
ジャンル:
その他
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