核実験と核拡散(連載第二回)/山崎久慶

2006-11-24 22:01:32 | 世界
実験 成功か失敗か


 北朝鮮の核実験は成功だったのか失敗だったのか。おおざっぱに言えば米日
は失敗、ロシアは成功と言う見方。私も最初は「失敗だ」という意味のことを
書いた。
 しかしこれは、核実験の目的が何だったのかが分からなければ論ずることは
出来無いという意味で正確性に欠く。周りがどう言おうと、北朝鮮としては成
功裏に終わったと公表したのだ。少なくても軍事的にはいざ知らず。
 極端に言えば核分裂反応さえ起きていなかったとしても「成功」ではあった。
ただし私たちや国際社会がどう考えるかはまた別だ。
 現在の核武装国が保有する核は、戦略、戦術核弾頭共に水爆だ。いまどき原
爆をいくつか作ってみても軍事的にどの位の意味があるのかは疑問だ。特に北
朝鮮のようなやり方では、とても意味のある核兵器体系を獲得することは出来
ないだろう。
 核武装とは、現代においては単体の核爆弾や弾頭を持っているという意味の
ではなく、核兵器を運用するシステムを含めて、一つの包括的な軍事戦略を
持っているという意味である。少なくても「国家」の単位であるならば。
 北朝鮮の核実験は、核武装そのものを目指したと言うよりも、核爆発が起き
れば(または起きたことに出来れば)それで成功であったということなのであ
ろう。軍事戦略的な核武装を目指す国は、実戦配備もできないうちに保有宣言
などはしない。そんなことをすれば極端な場合は戦争を誘発してしまう。(保
有宣言さえしない段階でイラクの原子炉を81年に爆撃したイスラエル、94
年の朝鮮半島核危機の時に先制攻撃を考慮に入れて迫った米国の例を見よ)
 核武装をしたのに世界には隠し通して、核武装を解いてからそれを認めた南
アフリカ、核兵器を200発は持っているだろうと世界中が確実視しているの
に自らは明らかにしないイスラエル、74年に「平和目的」と称する核実験を
行った後、長らく核開発が表面化しないまま、パキスタンへの威嚇の目的で
98年に核実験を行ったインド、仮想敵国のインドが核実験を行ったので、対
抗上核実験をして核武装宣言をしたが、それ以前から核兵器を保有していたパ
キスタンなど、核兵器5カ国以降の核武装国は一様に核武装そのものは長く隠
蔽してきたのである。
 核実験の成否を考察するのに、爆発威力が指標となる。
 北朝鮮が中国に事前通告していた威力が「4キロトン」だったという報道が
あるので、それに基づけば十分の一かせいぜい四分の一だったことを捉えて客
観的には「失敗だった」と言えなくもない。
 また、核兵器に使うプルトニウムの質が悪く、数十キロのプルトニウムを通
常爆薬で臨界超過状態にしても、早期爆発が起きると1キロトン程度になると
いうことから、核実験の威力はそのまま早期爆発の威力であったと考えること
も出来る。


 北朝鮮核開発の能力


 核兵器開発の能力はどのくらいか。
 まず、平和利用などと称する日本の原子力開発との対比で考える。
 核爆発を起こすことが出来たということは、次のようなことを意味する。
(A) まず、原子炉で核燃料を照射して燃料棒中にプルトニウムを生成させ
た。これは「軍用原子炉の運転技術の獲得」である。日本ならば1960年代
の終わりには既に確立させていた。(68年10月に日本で初めて使用済燃料
からプルトニウム抽出に成功した)しかしながらこのとき抽出されていたプル
トニウムは核燃料を供給した米国に全量返還している。これは日米原子力協定
での義務であった。
 さらに66年に輸入した英国製のコールダーホール型原子炉を運転開始した
が、これは今現在北朝鮮がプルトニウム生産用に運転しているタイプと同じで、
東海原発としてプルトニウムを生成していた。さすがに核兵器開発に直接使え
る(運転サイクルを変えるだけでよい)原子炉であるため、使用済燃料の全て
は英国に輸送されて再処理され、日本には一切手を触れさせなかった。これは
核兵器開発に重要な要素である核兵器級プルトニウムの取り扱い技術獲得には
使えなかったことを意味する。
 たとえばウラニウムで臨界事故を起こす程度の知識水準では核兵器開発は到
底不可能である。現場作業員の話ではなく、原子力の中枢機関である動力炉・
核燃料開発事業団(当時)の話である。
 他の項目でも言えることだが、北朝鮮でどの位の事故(臨界事故に限らず)
が起きたかを知ることが出来れば判断の一端になるが、その情報がない。本当
はそういう情報こそが北朝鮮の核開発能力を知る重要情報なのだが、機密情報
なので明らかにされない。日本に関しては、一般の原発や核燃料サイクル上の
施設の事故は比較的に公表されているが、東海村の高速炉「常陽」に関しては
ほとんど情報がない。まさか日本なのだから隠されているというわけでは無か
ろうが、この炉の極めて高い安定度は、少なくても日本の核開発能力上重要な
一点すなわち戦術核弾頭用の高純度プルトニウム239の生産能力に関しては
核兵器大国なみの安定度であると言える。これに匹敵するのはほとんど同じ位
置づけにある高速炉「フェニックス」を有するフランスだけである。もっとも、
現在の常陽には核兵器級プルトニウムを作るために必要なブランケット燃料体
は装荷されていない。

(B) 次に生成したプルトニウムを抽出した。「核燃料再処理技術の獲得」
である。
 現在六ヶ所再処理工場で商業用再処理工場のアクティブ試験が行われている
が、こんな大きな施設がなくても十分可能である。日本では東海村の原研で既
に60年代に確立しているが、核兵器級プルトニウムを扱うことが出来る施設
となると、まだ東海村の再処理工場脇で建設中のRETF(リサイクル機器試
験施設)の完成を待たねばならない。
 北朝鮮規模の量ならばホット・ラボと呼ばれる実験室規模で今すぐにも抽出
可能かもしれないが、核弾頭を生産できるとなると、量産できる設備が必要で
ある。

(C) 次はそのプルトニウムを金属に還元して核爆発を起こすために必要な
爆縮用「金属プルトニウムコア」を作る。「プルトニウム冶金学的技術とプル
トニウムコアの製造能力の獲得」である。爆縮型であれ砲撃型であれ、この精
度が悪ければ核爆発の精度は悪くなるから、重要度の高い技術だが、この能力
は高いとも低いとも判断がつかない。北朝鮮の核実験のような早期爆発を起こ
してもかまわないとすればそう難しくはなさそうだが、戦術核弾頭のような小
型で高性能なものを作るのであれば、蓄積されたデータや経験がものを言うだ
ろうから、今の日本でも難しいだろう。繰り返し核実験を行い、データを取り、
高度なシミュレーションが出来るコンピュータを使って解析を繰り返す必要が
あり、北朝鮮は現段階では無理だろう。

(D) さらにそれを爆縮させることが出来る装置と爆縮レンズを作り、「爆
縮技術の開発と獲得」の段階に到達し、それらを組み立てて核分裂の連鎖反応
を起こすことに成功した。早期爆発であっても核爆発による1キロトンとは相
当の規模だから、爆縮による超臨界状態になったと思われる。

 これに関連し、これまで北朝鮮は繰り返し120回ほどの通常爆薬の爆発実
験を行っていたという報道がされている。高性能爆薬を使った爆縮実験を繰り
返したようだ。
 もう一つの方法、いわゆる「ガン・バレル方式」と呼ばれる、臨界未満の質
量の核分裂物質(この場合はプルトニウム)をいくつかにわけ、それを爆薬の
力で合体させて臨界超過状態にする方式もあるがその可能性はないだろう。
 一部にはウラニウムの濃縮で核兵器を作った可能性を示唆する意見もあるが、
可能性としてもあり得ないだろう。ウラン濃縮設備に使うことができるアルミ
ニウム管が押収されていることからそのような発想になるのかもしれないが、
ウラン濃縮は実験室規模でやっても核兵器が作れるほどの量を確保することは
無理である。
 マンハッタン計画においては広島型原爆を作るために高濃度(50kgが
89%、14.1kgは50%で平均80%合計51.55kgという)にウラ
ン235を濃縮したが、そのために巨大なガス拡散法のウラン濃縮工場を建て
て、運転に膨大な電力を使った。広大な工場と膨大な電力。どちらをとっても
北朝鮮に製造することが可能であるとは思えない規模の、とてつもないコスト
とエネルギー(電力)を使う。しかもこれを隠れて行うことなど不可能である。
 現代の衛星探査の能力は地上の10センチのものを識別できるだけではない。
電力網の中を流れる電力量や配線の位置、発電所の位置、消費施設の消費電力
量をも計測可能である。これは送電線の発熱を赤外線探査することでわかる。
ウラン濃縮施設ほどの電力を使う設備だと、衛星でその存在を探査し、稼動率
を割り出すことも可能である。地下に施設を作っても、秘密裏に出来ることで
はない。
 なお、ライス国務長官など米高官のテレビ発言を聞いていると、そのものを
表現するのに使っているのは「ニュークリア・ボム」ではなく「ニュークリ
ア・デバイス」であるようだ。これは正確に訳せば「核爆発装置」であり「核
爆弾」やましてや「核弾頭」ではなかろう。日本人や日本のメディアがどう思
おうと、米高官はそうはいっていないという意味での意図的な誤訳である。


 弾頭の運搬手段


 核爆発は起きたとしても、それが核兵器かというと、別の問題が生ずる。そ
れは運搬手段である。
 核兵器は核地雷のでもない限り攻撃対象に向けて運搬できなければならない。
 長崎原爆はB29戦略爆撃機で運搬したが、4.5トンの重量を運ぶことが
出来るものは他にはなかった。
 現在の核兵器運搬手段は航空機や巡航ミサイル、陸上発射弾道弾ミサイル
(ICBM)か中距離ミサイル、潜水艦発射弾道弾ミサイル(SLBM)であるが、こ
のうち北朝鮮が使用可能なのは陸上発射中距離ミサイルだけである。いわゆる
ノドンミサイルだけが、弾頭を核に変更すれば核戦力になり得る。
 その能力は、核弾頭の小型化にかかっている。
 少なくても核分裂装置の直径60センチメートル、誘導装置を含む弾頭総重
量1トン以下(現実にはペイロードはもっと少ないだろう)にできなければ、
ノドンへの搭載は不可能であると見られている。
 ノドン以外のミサイルとしては、スカッドCと「テポドン」があるがスカッ
ドでは日本の一部にしか届かず、テポドンは、仮に発射可能なものが開発でき
たとしても発射準備に何日もかかり、オープンスペースの発射台に据え付けな
ければならず隠密性がない。ノドンは、移動発射台に搭載し、トンネルに隠し
ておいて、発射数時間前に引き出せばよいがテポドンは不可能である。
 一部には貨物船の船底に積んで東京湾やニューヨーク港内で爆発させるなど
と言う荒っぽいことを言うものがあるが、軍事的意味はゼロである。大戦末期
に日本の潜水艦がシドニー港に突入して攻撃を行ったことがあるが、それの大
規模なものでしかない。「国家の存亡をかけて」やるような話ではない。


 プルトニウムの生成と性質


 プルトニウムとは原子番号94の金属である。安定同位体は存在せず、その
全ては放射性同位元素である。プルトニウムは天然には存在しないとされるが、
ごく微量に、天然原子炉と呼ばれているような自然現象で起きている核分裂反
応に付随する場合や、宇宙空間から来る中性子線を天然ウラン中のウラン
238が受けて、プルトニウムになる場合がある。
 もう一つの存在は言わずもがなの核実験の影響だ。核兵器に搭載されたプル
トニウムは全量が核分裂するわけではない。むしろ多くはそのまま高温のプラ
ズマ状態の中で蒸発し、再度冷やされて凝固し、塵となって降り注ぐ。(長崎
原爆では推定700グラム~1キログラムが核分裂した)しかしそのプルトニ
ウムの存在はまさか「天然」とは言わないから、天然中に存在するプルトニウ
ムは事実上無いといっていいだろう。
 ウラン238が中性子を吸収するとウラン239になり、それが半減期約
24分で中性子から電子線を一つ出す「ベータ崩壊」を起こして原子番号93
のネプツニウム239になる。それが半減期約2日半で再度ベータ崩壊してプ
ルトニウム239になる。瞬間的にプルトニウム239が生成されるわけでは
ない。
 このプルトニウム239にさらに中性子が当たると、多くは核分裂するが一
部は中性子を吸収しプルトニウム240に代わる。さらにもう一個中性子を吸
収すればプルトニウム241というように質量数の大きなプルトニウムが生成
される。これを高次プルトニウム同位体という。このような高次同位体の存在
が、核兵器設計とその安定性や爆発精度に大きな影響を与える。
 高次同位対比の量は、原子炉の燃料滞在時間に大きく影響する。つまり原子
炉内部にどれだけ長く存在したかと、その際にどの位の密度で中性子を浴び続
けたかに依るので、そんなに難しい話ではない。
 炉内の燃料中に生ずるプルトニウム同位体は、長い時間を経過すればするほ
ど、中性子を吸収して質量数の大きな高次の同位体に変化をする。一方、原子
爆弾に利用されるプルトニウムは、プルトニウム239と少量のプルトニウム
241を含む核分裂性プルトニウムが90%以上を占める「標準級プルトニウ
ム」であることが必要である。「原子炉級プルトニウム」と呼ばれる通常の発
電炉の使用済燃料から取り出されたプルトニウム(高次プルトニウムが多い)
は核兵器転用は困難だ。
 核兵器級プルトニウムか原子炉級プルトニウムかは、実はプルトニウム
240の比率が重要である。プルトニウム240は熱中性子を当てると核分裂
せず、中性子を吸収する。これはプルトニウム241であり、この核種自体は
核分裂性であるが、さらに中性子を吸収してプルトニウム242にもなる。
 核兵器にプルトニウム238と高次同位体が多く含まれた場合、いろいろと
問題を生じる。
 その最も大きなものは早期爆発と呼ばれる現象である。英語でfizzle yield
と呼ばれるこの現象はプルトニウム240の自発核分裂性と関連している。
 プルトニウムの同位体でも240は外から中性子をぶつけなくても核分裂し
やすいという性質がある。この性質は、特に核兵器の精度に重要な影響を与え
る。
 プルトニウム238なども自発核分裂の確率は高いが、プルトニウム240
のそれは、プルトニウム239と比べて5桁(10万倍)も大きい。
 この結果、プルトニウム240を多く含むプルトニウム同位体構成だと、爆
縮型であれガン・バレル型であれプルトニウム239は臨界未満で核分裂の連
鎖反応が部分的に起きることになる。これを早期爆発という。
 早期爆発を起こした場合、十分プルトニウムの原子距離が縮まっていないの
で、連鎖反応はすぐに止まってしまう。爆発が起きてプルトニウムの距離が離
れる(飛び散ってしまう)と、もう連鎖反応を継続することが出来ない。
 これを起こさないために、プルトニウム239を使う原爆は、プルトニウム
240の濃度が問題になる。
 いわゆる「核兵器級」と呼ばれるプルトニウムは、プルトニウム240を
6%以下にすることが重要だと言われる所以だ。
 北朝鮮のプルトニウムは、米国の情報に依ればプルトニウム239が90%
という。つまり米国などが通常核兵器に使うものより低い。米国は弾頭により
違うがおそらく96%以上のプルトニウム239比率であろう。
 90%のプルトニウム239だと、残りの10%のうち8%以上はプルトニ
ウム240であろう。従って、よほどうまく設計しないと早期爆発を起こす確
率は高い。逆に言えば早期爆発を起こしたとしても1キロトン程度の威力は期
待できるということも言えるかもしれない。
 そうすると、当初の威力を「4キロトン」として中国に通告したことを考慮
するならば、使ったプルトニウムの総量は6キロを超えないかもしれない。
 長崎型原爆のプルトニウム量は6.1キログラムであるという論文の存在を
「核情報」を主宰する田窪さんからいただいた。天然資源保護協会による推計
である。
 つまりプルトニウム239を90%含むプルトニウム6.1キロを使って核
兵器を作り、1キロ未満のプルトニウムが核分裂を起こしたのが、長崎型であ
るとすると、このときの威力は21キロトンだから、その威力を狙ったのでは
ないと分かる。
 異なる設計をしたとすれば、それはプルトニウムの組成に問題があったから
ではないか。長崎型は単純だが信頼性はあるから、それが使えるならばその設
計に従うだろう。


 プルトニウムの放射線


 プルトニウムを使う核兵器の場合、さらにその組成によって放射線の強さと
発熱量が問題となる。
 プルトニウムの同位体で半減期の短いものは壊変と共に熱を発する。自発核
分裂では一回の核分裂で200メガエレクトロンボルトのエネルギーを出す。
これはアルファ崩壊の数十倍(ウラニウムの崩壊によるアルファ線は5メガエ
レクトロンボルト程度)である。
 核兵器級のプルトニウムを固めた金属ボール(プルトニウム・ピットと呼ば
れる)は、触ると暖かいという。同位対比が原子炉級ともなると、この発熱量
は相当のものとなり、放出される放射線量は十分周囲の人々を殺傷する威力が
ある。
 プルトニウムとウランを混合した燃料体「MOX燃料体」は、常時水の中に
浸けて保管される。これは熱を除去すると共に放射線を遮蔽するためである。
輸送容器は使用済燃料陽気並みの堅牢さを要求される。
 核兵器級プルトニウムでも一定の発熱と強い放射線への対策が必要となるが、
組成が悪くなるとやっかいなことに核兵器をくみ上げてしまうと冷却すること
が困難になり、また取り扱い兵士や電子回路の放射線防護対策が必要になる。
 プルトニウム・ピットを常時組み込まず、核兵器使用直前に取り付けるとい
う方法であればある程度その影響を回避できるかもしれないが、それも程度問
題であろう。
 特に問題になるのは自発核分裂の中性子線である。被曝線量との関係でも、
プルトニウム240を多く含むものでは致命的欠陥となる。

第1回は
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/757d40b6e0febca2854bee9a4d742132
ジャンル:
その他
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