「オランダ右翼が「コーラン」批判ビデオ、イスラム世界反発」という読売新聞の記事を読んだ。
「オランダの右翼「自由党」のヘールト・ウィルダース党首が27日、イスラム教の聖典コーランを批判する自主制作ビデオをインターネット上で公開した。」
「ビデオは約15分間で、コーランから引用した言葉を米同時テロなどの映像に重ね、「イスラム化を防ごう」と呼び掛ける内容。」
探したら、既に YouTube 上で公開されていた。(www.youtube.com/watch?v=TBYblAw4P0k ほか、Part1と2に分けたものもある。分かれていない方は少し短めのようだ。)とりあえず、上記URLのビデオを視聴した。
題名の FITNA فتنة は「反乱、騒乱、内乱、暴動、一揆、騒動、不和、もめ事」などの意味を持つ(和訳は「Onlineアラビア語辞書」による)。まず、表紙に「聖コーラン القرآن الكريم」と書かれた書物が開かれ、かつてデンマークの新聞に載った預言者ムハンマドの風刺画(爆弾付きというところが最後の落ちと繋がる)が左頁に、15:00という時刻(字幕を見ると午後3時という解釈らしいが、残り時間15分ということではないか?)が右頁に浮き上がる。残り時間はカチカチと減っていく。ちりちりと焼けていく導火線。
頁がめくられ、コーラン(アル=クルアーン)の8章60節。(以下、聖典の和訳は、日本ムスリム協会『日亜対訳注解聖クルアーン』による。なお、字幕で省略されている部分は斜字体とした。)
「かれらに対して,あなたの出来る限りの(武)力 と,多くの繋いだ馬 を備えなさい。それによってアッラーの敵,あなたがたの敵に恐怖を与えなさい。」
続いて、9.11の映像。次いで爆弾爆発の映像。さらにイスラーム教徒(ムスリム)とおぼしき男が「アッラーは非ムスリムが殺されたとき、お喜びになる」などと演説している映像。その他テロや虐殺等の映像。(死体写真多数。視聴の際には注意が必要。)
しかし、この聖句の次の61節には、「だがかれらがもし和平に傾いたならば,あなたもそれに傾き,アッラーを信頼しなさい。本当にかれは全聴にして全知であられる。」とあるなど、コーランにおいては、何も異教徒を殺すことのみを主張しているわけではないのだが、そのあたりの文脈は一切無視されている。
次にコーラン4章56節。
「本当にわが印を信じない者は,やがて火獄に投げ込まれよう。かれらの皮膚が焼け尽きる度に,われは他の皮膚でこれに替え,かれらに(飽くまで)懲罰を味わわせるであろう。誠にアッラーは偉力ならびなく英明であられる。」
続く場面では、「ユダヤ人の喉をこの剣で切ってやる、アッラーは偉大なり」等と叫ぶ演説者と、歓声をあげる(?)群集の映像をダブらせてある。そして、3歳半の幼女(イスラーム教徒で、ヒジャーブをしている)が「彼ら(=ユダヤ人)は猿で豚」と言う。「誰がそう言うの?」「アッラー」「彼はどこでそれを仰ったの?」「コーラン the Quran で」という会話となる。残虐映像やロンドンの連続テロの映像のあと、さらに、イスラーム教徒が、女子供まで皆、ユダヤ人虐殺、ホロコーストを望んでいるという趣旨の読み取れる映像が流れる。
しかし、上記の聖句は、最後の審判の後の、アッラーによる異教徒への罰を述べているのは明白で、人間に対して「現世で異教徒を焼き殺せ」と言っているのではない。
さらに、コーラン47章4節。
「あなたがたが不信心な者と(戦場で)見える時は,(かれらの)首を打ち切れ。」
英訳はもっと残虐で When you have an encounter with a disbeliever cut their throats with a sword and spill their blood である。ところが、原文は、فَإِذا لَقِيتُمُ الَّذِينَ كَفَرُوا فَضَرْبَ الرِّقَابِ で、上記和訳が忠実である。「剣で」だの「彼らの血を流せ」などという単語はない。(そもそも、最初に a disbeliever と単数になっているのに、後半で their と複数形になっているのはおかしくないか。こんなところもいい加減である。)
映像は、Theo van Gogh 氏殺害に関するものとなる。英語版ウィキペディアによれば(日本語版にもテオ・ファン・ゴッホの項目があったが、「この項目は、翻訳が不適切であるため、修正・推敲を広く求めています」とのこと)、彼は、Submission という、イスラーム教徒女性が虐待される内容(その他、その女性の裸体に聖典の聖句が書かれているなど)のフィクション映画を製作し、2004年11月2日、Mohammed Bouyeri に射殺された。射殺後、Mohammed B. は、Theo van Gogh 氏の喉を切っているそうであるから、そのあたりの事情も上記聖句と重ね合わされているのであろう。
加えて、イスラーム過激派集団に殺害される人質の映像など。
コーラン4章89節。
「かれらは自分が無信仰なように,あなたがたも無信仰になり,(かれらの)同類にな ることを望む。だからかれらがアッラーの道に移って来るまでは,かれらの中から(親しい)友を得てはならない。もしかれらが背をむけるならば,ところかまわずかれらを捕え,見付け次第かれらを殺せ。かれらの中から決して友や援助者を得てはならない。」
これにも英訳には、余分な句が付け足されて、最後の部分が、don't trust them, it will be your grave などとなっているが、お前の墓場になるなどという文句はコーラン原文にはない。
続いて、異教徒が殺害されたり脅迫されたりした事件の新聞記事の映像等。中で、イスラーム教徒が「イスラームはユダヤ教やキリスト教に勝る。仏教やヒンズー教に勝る」と言っているが当然である。イスラームの考えでは、ユダヤ教→キリスト教→イスラーム教と、教えが進化してきたとされているし、偶像崇拝や多神教は否定されるからである。それだけの話で、それを即、異教徒に対する暴力に結びつけるのは短絡的だ。
終わりに近付いて、コーランの頁が破かれることが暗示される映像ののち、「イスラーム化を止めよう。我々の自由を守ろう」等の字幕。そして、最初の預言者の風刺画に戻る。時計は 00:00 となって爆弾爆発。コーランの表紙が閉じられ、題名の FITNA が FIN と変わって、エンド・ロール。これを見ると、このビデオが、様々なTV局などからの映像のはぎあわせであることがわかる。最後にオランダ語版ウィキペディアの FITNA の項のURLが表示されて終わり。
かくも悪意に満ちたビデオに、腹が立つというより悲しさが先に立つ。
【追記 2008/04/05】このビデオに関するデンマーク(かつてムハンマド風刺画問題の起きたところ)国内の事情が、『デンマークのうちがわ』で詳しく解説されています。
「オランダの右翼「自由党」のヘールト・ウィルダース党首が27日、イスラム教の聖典コーランを批判する自主制作ビデオをインターネット上で公開した。」
「ビデオは約15分間で、コーランから引用した言葉を米同時テロなどの映像に重ね、「イスラム化を防ごう」と呼び掛ける内容。」
探したら、既に YouTube 上で公開されていた。(www.youtube.com/watch?v=TBYblAw4P0k ほか、Part1と2に分けたものもある。分かれていない方は少し短めのようだ。)とりあえず、上記URLのビデオを視聴した。
題名の FITNA فتنة は「反乱、騒乱、内乱、暴動、一揆、騒動、不和、もめ事」などの意味を持つ(和訳は「Onlineアラビア語辞書」による)。まず、表紙に「聖コーラン القرآن الكريم」と書かれた書物が開かれ、かつてデンマークの新聞に載った預言者ムハンマドの風刺画(爆弾付きというところが最後の落ちと繋がる)が左頁に、15:00という時刻(字幕を見ると午後3時という解釈らしいが、残り時間15分ということではないか?)が右頁に浮き上がる。残り時間はカチカチと減っていく。ちりちりと焼けていく導火線。
頁がめくられ、コーラン(アル=クルアーン)の8章60節。(以下、聖典の和訳は、日本ムスリム協会『日亜対訳注解聖クルアーン』による。なお、字幕で省略されている部分は斜字体とした。)
「かれらに対して,あなたの出来る限りの(武)力 と,多くの繋いだ馬 を備えなさい。それによってアッラーの敵,あなたがたの敵に恐怖を与えなさい。」
続いて、9.11の映像。次いで爆弾爆発の映像。さらにイスラーム教徒(ムスリム)とおぼしき男が「アッラーは非ムスリムが殺されたとき、お喜びになる」などと演説している映像。その他テロや虐殺等の映像。(死体写真多数。視聴の際には注意が必要。)
しかし、この聖句の次の61節には、「だがかれらがもし和平に傾いたならば,あなたもそれに傾き,アッラーを信頼しなさい。本当にかれは全聴にして全知であられる。」とあるなど、コーランにおいては、何も異教徒を殺すことのみを主張しているわけではないのだが、そのあたりの文脈は一切無視されている。
次にコーラン4章56節。
「本当にわが印を信じない者は,やがて火獄に投げ込まれよう。かれらの皮膚が焼け尽きる度に,われは他の皮膚でこれに替え,かれらに(飽くまで)懲罰を味わわせるであろう。誠にアッラーは偉力ならびなく英明であられる。」
続く場面では、「ユダヤ人の喉をこの剣で切ってやる、アッラーは偉大なり」等と叫ぶ演説者と、歓声をあげる(?)群集の映像をダブらせてある。そして、3歳半の幼女(イスラーム教徒で、ヒジャーブをしている)が「彼ら(=ユダヤ人)は猿で豚」と言う。「誰がそう言うの?」「アッラー」「彼はどこでそれを仰ったの?」「コーラン the Quran で」という会話となる。残虐映像やロンドンの連続テロの映像のあと、さらに、イスラーム教徒が、女子供まで皆、ユダヤ人虐殺、ホロコーストを望んでいるという趣旨の読み取れる映像が流れる。
しかし、上記の聖句は、最後の審判の後の、アッラーによる異教徒への罰を述べているのは明白で、人間に対して「現世で異教徒を焼き殺せ」と言っているのではない。
さらに、コーラン47章4節。
「あなたがたが不信心な者と(戦場で)見える時は,(かれらの)首を打ち切れ。」
英訳はもっと残虐で When you have an encounter with a disbeliever cut their throats with a sword and spill their blood である。ところが、原文は、فَإِذا لَقِيتُمُ الَّذِينَ كَفَرُوا فَضَرْبَ الرِّقَابِ で、上記和訳が忠実である。「剣で」だの「彼らの血を流せ」などという単語はない。(そもそも、最初に a disbeliever と単数になっているのに、後半で their と複数形になっているのはおかしくないか。こんなところもいい加減である。)
映像は、Theo van Gogh 氏殺害に関するものとなる。英語版ウィキペディアによれば(日本語版にもテオ・ファン・ゴッホの項目があったが、「この項目は、翻訳が不適切であるため、修正・推敲を広く求めています」とのこと)、彼は、Submission という、イスラーム教徒女性が虐待される内容(その他、その女性の裸体に聖典の聖句が書かれているなど)のフィクション映画を製作し、2004年11月2日、Mohammed Bouyeri に射殺された。射殺後、Mohammed B. は、Theo van Gogh 氏の喉を切っているそうであるから、そのあたりの事情も上記聖句と重ね合わされているのであろう。
加えて、イスラーム過激派集団に殺害される人質の映像など。
コーラン4章89節。
「かれらは自分が無信仰なように,あなたがたも無信仰になり,(かれらの)同類にな ることを望む。だからかれらがアッラーの道に移って来るまでは,かれらの中から(親しい)友を得てはならない。もしかれらが背をむけるならば,ところかまわずかれらを捕え,見付け次第かれらを殺せ。かれらの中から決して友や援助者を得てはならない。」
これにも英訳には、余分な句が付け足されて、最後の部分が、don't trust them, it will be your grave などとなっているが、お前の墓場になるなどという文句はコーラン原文にはない。
続いて、異教徒が殺害されたり脅迫されたりした事件の新聞記事の映像等。中で、イスラーム教徒が「イスラームはユダヤ教やキリスト教に勝る。仏教やヒンズー教に勝る」と言っているが当然である。イスラームの考えでは、ユダヤ教→キリスト教→イスラーム教と、教えが進化してきたとされているし、偶像崇拝や多神教は否定されるからである。それだけの話で、それを即、異教徒に対する暴力に結びつけるのは短絡的だ。
終わりに近付いて、コーランの頁が破かれることが暗示される映像ののち、「イスラーム化を止めよう。我々の自由を守ろう」等の字幕。そして、最初の預言者の風刺画に戻る。時計は 00:00 となって爆弾爆発。コーランの表紙が閉じられ、題名の FITNA が FIN と変わって、エンド・ロール。これを見ると、このビデオが、様々なTV局などからの映像のはぎあわせであることがわかる。最後にオランダ語版ウィキペディアの FITNA の項のURLが表示されて終わり。
かくも悪意に満ちたビデオに、腹が立つというより悲しさが先に立つ。
【追記 2008/04/05】このビデオに関するデンマーク(かつてムハンマド風刺画問題の起きたところ)国内の事情が、『デンマークのうちがわ』で詳しく解説されています。










ムハンマドの風刺画の件では、ご迷惑をおかけしました(と代わりに謝ってみます)。Fitnaについて調べていて、こちらにお邪魔しました(トラックバックお願いします)。アラビア語からの直接の訳など、とても参考になりました。
「表現の自由」を掲げて争った、デンマークでの現在の、フィトナに対する反応に関して私のブログでもまとめてみました。良かったらご覧下さい。
デンマーク情報、日本ではなかなか入ってこない情報が多く、勉強になりました。さらに、ムハンマド風刺画再掲載問題(http://denjapaner.seesaa.net/article/84852400.html)も、Yahoo!News に出ていたのですか!? 気付いていませんでした…。リンクを張らせていただきます。