都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「コレクションのドア、ひらきます」 東京ステーションギャラリー
東京ステーションギャラリー
「鉄道絵画発→ピカソ行 コレクションのドア、ひらきます」
2017/12/16~2018/2/12
東京ステーションギャラリーで開催中の「鉄道絵画発→ピカソ行 コレクションのドア、ひらきます」を見てきました。
櫻田精一「東京駅」 1932年
まさに東京駅が出発点でした。冒頭は櫻田精一の「東京駅」で、昭和初期の丸の内口の駅舎を描いています。広場には乗用車が並び、奥には白い建物、すなわち現在のKITTEこと、東京中央郵便局が見えました。やや粗めの筆触ながらも、駅前の賑わいも伝わってくるような作品でもあります。なお当時、丸の内口の北口は、降車利用客専用だったそうです。
鉄道絵画を起点としたコレクション展です。テーマの展開を鉄道の路線に見立て、各駅、つまり都市と郊外、人、さらに抽象などのテーマを設定し、ステーションギャラリーが収集してきた作品を紹介しています。
本城直季「small planet tokyo station」 2004年
一転して現代の東京駅を捉えたのが、写真家の本城直季でした。カメラのいわゆるアオリの手法を用い、時にジオラマを思わせるような風景写真を手がけていて、東京駅も同様に、さも模型を俯瞰したかのような景色を作り出しています。復原工事前と工事後の2枚の写真があり、ともに駅の向かいの丸ビルより撮影されました。
元田久治「Indication - Tokyo Station」 2007年
過去から現代に次ぎ、虚構の近未来を表現したのが、元田久治でした。確かに東京駅舎の勇姿こそ見えますが、一部は朽ちていて、手前の広場に至っては、崩壊したのか、建材などが剥き出しになっていました。まさに廃墟な上、無人で、人の気配も一切ありません。とてつもない災害に襲われてしまったのでしょうか。
遠藤彰子「透影」 2009年
東京駅を出発したのちも、鉄道絵画はしばらく続きます。大岩オスカールは、空想世界、あるいは自身の記憶の中の新橋駅を描きました。また遠藤彰子は「透影」にて、地下鉄の駅を伴う都市風景を、独特の屈折した空間の中で表現しました。一つ一つはリアルながらも、全体では虚実入り乱れ、シュールな光景が立ち上がっています。過去か現在か、それとも未来なのかも判然としません。
椿貞雄「鵠沼風景」 1922年
いつしか鉄道は郊外へと進みました。2つ目のテーマが「都市と郊外」です。椿貞雄は「鵠沼風景」にて、電柱が立ち並び、犬を散歩する人の歩く、平穏で日常的な郊外の小道を表現しました。
諏訪敦「新宿からの富士」 2001年
都会から郊外を超え、さらに彼方を見据えたのが諏訪敦でした。「新宿からの富士」では、東京都庁から富士山の方向へ広がる都市の街並みを、テンペラや油彩を交えた技法で描いています。2002年にステーションギャラリーで開催された、「東日本の美ー山」展における委嘱作品だそうです。
村瀬恭子「ナミギワノサンゴ」 2011年
3つ目の「人」のセクションにも力作が少なくありません。村瀬恭子は「ナミギワノサンゴ」にて、揺らめく色彩の波の中を、ただ一人、少女が跪く様子を表しました。黄色から水色、そして緑色の入り混じる波はどこか抽象的でもあり、少女は一体、波の上にいるのか、それとも一体と化してているのかも良くわかりません。幻想的な光景が広がっていました。
山本麻友香「white rabbit」 2007年
山本麻友香の「white rabbit」も、不思議な魅力をたたえた作品ではないでしょうか。緑色の草原が広がる中を、ウサギの着ぐるみ姿の少年が、やや笑みを浮かべながら立っています。白く無邪気な少年と、背後の不気味な夜の闇の対比も印象に残りました。
山田純嗣「on the table #201」 2005年
出展作家中、最も凝った技法と言えるかもしれません。山田純嗣は、「on the table #201」にて、東京、あるいはニューヨークなどを連想させる高層ビル群の風景を、インタリオ・オン・フォトという独自の技法で表現しました。まず石膏で立体物を制作した上で撮影し、それを印画紙に焼き付けては、銅版の線を重ね、樹脂を吹き付けるという複雑なプロセスを辿っています。確かに近づくと、可憐な線の文様が浮かび上がってきます。繊細なテクスチャーも魅力でした。
野田裕示「WORK1767」 2011年
4駅目の「抽象」では、松本陽子や野田裕示、それに辰野登恵子などの、比較的大型の作品が目立っていました。うち野田裕示は「WORK1767」において、作者自身の手の動きによって現れた、人のように見える形を連続して描いています。アクリルによる厚塗りの画肌にも迫力が感じられました。
曽谷朝絵「Circles」 2005年
美しい光のリングを描いた、曽谷朝絵の「Circles」にも魅せられました。そして終着駅こそがピカソです。全4点のうち、とりわけ充実していたのが、「黄色い背景の女」でした。鮮やかな黄色を背景に、顔が左右に分割し、胸から腕にかけて丸みを帯びた女性が、椅子に座っています。色彩のコントラストも美しく、全体のフォルムにも安定感があり、量感にも申し分がありません。ハイライトを飾るのに相応しい一枚でした。
派手さはありませんが、コレクションを紹介するのも、美術館にとって重要な活動の1つではないでしょうか。意外にも1988年に美術館が開館して以来、初めての全館規模のコレクション展でもあります。
村井督侍「山手線フェスティバル ドキュメンタリー写真」 1962年
前衛芸術グループのハイレッド・センターが、山手線内にて行ったゲリラパフォーマンスの写真までをコレクションしていたとは知りませんでした。鉄道をモチーフとした絵画から抽象画、そしてピカソと幅広い内容でしたが、思いの外に見入りました。
「コレクションのドア、ひらきます」会場風景
一部の作品を除き、撮影も可能です。(*ピカソは全点NG)
2018年2月12日まで開催されています。
「鉄道絵画発→ピカソ行 コレクションのドア、ひらきます」 東京ステーションギャラリー
会期:2017年12月16日(土)~2018年2月12日(月・祝)
休館:月曜日。年末年始(12/29~1/1)、1月9日(火)。1月8日、2月12日は開館。
料金:一般900(800)円、高校・大学生700(600)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
時間:10:00~18:00。
*毎週金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
「鉄道絵画発→ピカソ行 コレクションのドア、ひらきます」
2017/12/16~2018/2/12
東京ステーションギャラリーで開催中の「鉄道絵画発→ピカソ行 コレクションのドア、ひらきます」を見てきました。
櫻田精一「東京駅」 1932年
まさに東京駅が出発点でした。冒頭は櫻田精一の「東京駅」で、昭和初期の丸の内口の駅舎を描いています。広場には乗用車が並び、奥には白い建物、すなわち現在のKITTEこと、東京中央郵便局が見えました。やや粗めの筆触ながらも、駅前の賑わいも伝わってくるような作品でもあります。なお当時、丸の内口の北口は、降車利用客専用だったそうです。
鉄道絵画を起点としたコレクション展です。テーマの展開を鉄道の路線に見立て、各駅、つまり都市と郊外、人、さらに抽象などのテーマを設定し、ステーションギャラリーが収集してきた作品を紹介しています。
本城直季「small planet tokyo station」 2004年
一転して現代の東京駅を捉えたのが、写真家の本城直季でした。カメラのいわゆるアオリの手法を用い、時にジオラマを思わせるような風景写真を手がけていて、東京駅も同様に、さも模型を俯瞰したかのような景色を作り出しています。復原工事前と工事後の2枚の写真があり、ともに駅の向かいの丸ビルより撮影されました。
元田久治「Indication - Tokyo Station」 2007年
過去から現代に次ぎ、虚構の近未来を表現したのが、元田久治でした。確かに東京駅舎の勇姿こそ見えますが、一部は朽ちていて、手前の広場に至っては、崩壊したのか、建材などが剥き出しになっていました。まさに廃墟な上、無人で、人の気配も一切ありません。とてつもない災害に襲われてしまったのでしょうか。
遠藤彰子「透影」 2009年
東京駅を出発したのちも、鉄道絵画はしばらく続きます。大岩オスカールは、空想世界、あるいは自身の記憶の中の新橋駅を描きました。また遠藤彰子は「透影」にて、地下鉄の駅を伴う都市風景を、独特の屈折した空間の中で表現しました。一つ一つはリアルながらも、全体では虚実入り乱れ、シュールな光景が立ち上がっています。過去か現在か、それとも未来なのかも判然としません。
椿貞雄「鵠沼風景」 1922年
いつしか鉄道は郊外へと進みました。2つ目のテーマが「都市と郊外」です。椿貞雄は「鵠沼風景」にて、電柱が立ち並び、犬を散歩する人の歩く、平穏で日常的な郊外の小道を表現しました。
諏訪敦「新宿からの富士」 2001年
都会から郊外を超え、さらに彼方を見据えたのが諏訪敦でした。「新宿からの富士」では、東京都庁から富士山の方向へ広がる都市の街並みを、テンペラや油彩を交えた技法で描いています。2002年にステーションギャラリーで開催された、「東日本の美ー山」展における委嘱作品だそうです。
村瀬恭子「ナミギワノサンゴ」 2011年
3つ目の「人」のセクションにも力作が少なくありません。村瀬恭子は「ナミギワノサンゴ」にて、揺らめく色彩の波の中を、ただ一人、少女が跪く様子を表しました。黄色から水色、そして緑色の入り混じる波はどこか抽象的でもあり、少女は一体、波の上にいるのか、それとも一体と化してているのかも良くわかりません。幻想的な光景が広がっていました。
山本麻友香「white rabbit」 2007年
山本麻友香の「white rabbit」も、不思議な魅力をたたえた作品ではないでしょうか。緑色の草原が広がる中を、ウサギの着ぐるみ姿の少年が、やや笑みを浮かべながら立っています。白く無邪気な少年と、背後の不気味な夜の闇の対比も印象に残りました。
山田純嗣「on the table #201」 2005年
出展作家中、最も凝った技法と言えるかもしれません。山田純嗣は、「on the table #201」にて、東京、あるいはニューヨークなどを連想させる高層ビル群の風景を、インタリオ・オン・フォトという独自の技法で表現しました。まず石膏で立体物を制作した上で撮影し、それを印画紙に焼き付けては、銅版の線を重ね、樹脂を吹き付けるという複雑なプロセスを辿っています。確かに近づくと、可憐な線の文様が浮かび上がってきます。繊細なテクスチャーも魅力でした。
野田裕示「WORK1767」 2011年
4駅目の「抽象」では、松本陽子や野田裕示、それに辰野登恵子などの、比較的大型の作品が目立っていました。うち野田裕示は「WORK1767」において、作者自身の手の動きによって現れた、人のように見える形を連続して描いています。アクリルによる厚塗りの画肌にも迫力が感じられました。
曽谷朝絵「Circles」 2005年
美しい光のリングを描いた、曽谷朝絵の「Circles」にも魅せられました。そして終着駅こそがピカソです。全4点のうち、とりわけ充実していたのが、「黄色い背景の女」でした。鮮やかな黄色を背景に、顔が左右に分割し、胸から腕にかけて丸みを帯びた女性が、椅子に座っています。色彩のコントラストも美しく、全体のフォルムにも安定感があり、量感にも申し分がありません。ハイライトを飾るのに相応しい一枚でした。
派手さはありませんが、コレクションを紹介するのも、美術館にとって重要な活動の1つではないでしょうか。意外にも1988年に美術館が開館して以来、初めての全館規模のコレクション展でもあります。
村井督侍「山手線フェスティバル ドキュメンタリー写真」 1962年
前衛芸術グループのハイレッド・センターが、山手線内にて行ったゲリラパフォーマンスの写真までをコレクションしていたとは知りませんでした。鉄道をモチーフとした絵画から抽象画、そしてピカソと幅広い内容でしたが、思いの外に見入りました。
「コレクションのドア、ひらきます」会場風景
一部の作品を除き、撮影も可能です。(*ピカソは全点NG)
【本文デザイン・新刊】『まるごと東京ステーションギャラリー』(東京美術 #東京ステーションギャラリー 監修)展覧会「コレクションのドア、ひらきます」も始まっています!年末年始のお出かけや帰省の際に是非! pic.twitter.com/CtIhOTWXlh
— designfolio (@desifoli) 2017年12月27日
2018年2月12日まで開催されています。
「鉄道絵画発→ピカソ行 コレクションのドア、ひらきます」 東京ステーションギャラリー
会期:2017年12月16日(土)~2018年2月12日(月・祝)
休館:月曜日。年末年始(12/29~1/1)、1月9日(火)。1月8日、2月12日は開館。
料金:一般900(800)円、高校・大学生700(600)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
時間:10:00~18:00。
*毎週金曜日は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
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