都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「藤森建築と路上観察」 東京オペラシティアートギャラリー
東京オペラシティアートギャラリー(新宿区西新宿3-20-2)
「藤森建築と路上観察 第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展帰国展」
4/14-7/1
藤森照信の建築を日本で初めて本格的に紹介しています。東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「藤森建築と路上観察」展へ行ってきました。
基本的に体験型の展覧会です。展示室一面にはゴザが敷かれ、靴を脱いでパネルや模型を楽しむ仕掛けがとられています。またライフワークでもある路上観察の映像作品は、巨大な竹かごの「シアター」の中で見ることが出来ました。竹とわらの匂いにも包まれ、例のトマソンをじっくりと楽しむのはなかなか痛快です。展示内容自体の『密度』はそれほど濃いものではありませんが、時間を経つのも忘れてしばらく滞在してしまうような内容でした。
展示の導入が、やや意表を突く印象で優れています。というのも、藤森建築で使われる素材がかなりマニアックに紹介されているのです。ほうきや泥を塗った壁のサンプル、またはチェーンソーで削り取った剥き出しの木材、それに芝生を埋め込んだ芝屋根や、手もみで味わいのある凹凸感の生み出された銅板など、ともかく多種多様な物質が所狭しと並んでいました。さながら、どこかのホームセンターの素材売り場でも見るような感覚と言っても良いかもしれません。これまでにも図面や模型などが丁寧に紹介されている建築展は何度か拝見しましたが、今回ほどその素材に焦点を当てた展覧会もないと思います。体験型とは言えども、単なるイメージ先行の建築展ではなかったようです。(欲を言えば、それらに触ることが出来ればなお良かったとも思います。)
茶の形式からの解放もうたってつくられたという茶室、「高過庵」(2004)は、どこか可愛らしくも感じる建物でした。6メートルの高さに浮くような小さな茶室が、僅か2本のクリの木だけで支えられています。また屋根にニラを植え付けた「ニラハウス」(1997)や、今度は壁にタンポポを植えた「タンポポハウス」(1995)なども印象に残りました。また、誤解を生んでしまうかもしれませんが、藤森建築にどこか『工作』の雰囲気を感じます。あえて取り組むアナクロニズムの面白さとも言えるかもしれません。
その意味も含め、いささか過激なのが「東京計画2107」です。温暖化による海面上昇によって水没し、さらには砂漠化した近未来の東京が、今度はサンゴや土だけを原料にして自然再生型の都市を作り上げています。大きく後退した海には、かつての文明の残骸としての東京タワーが無残にも折れ曲がっていました。こうした未来観に対する賛否はともかくも、ここには藤森建築を支える一種の思想のようなものをショッキングな形で見て取れると思います。
展示の最後には、お馴染みの路上建築が豊富な資料にて紹介されていました。ここは素直に笑って楽しみたいところです。
7月1日までの開催です。(6/3)
「藤森建築と路上観察 第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展帰国展」
4/14-7/1
藤森照信の建築を日本で初めて本格的に紹介しています。東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「藤森建築と路上観察」展へ行ってきました。
基本的に体験型の展覧会です。展示室一面にはゴザが敷かれ、靴を脱いでパネルや模型を楽しむ仕掛けがとられています。またライフワークでもある路上観察の映像作品は、巨大な竹かごの「シアター」の中で見ることが出来ました。竹とわらの匂いにも包まれ、例のトマソンをじっくりと楽しむのはなかなか痛快です。展示内容自体の『密度』はそれほど濃いものではありませんが、時間を経つのも忘れてしばらく滞在してしまうような内容でした。
展示の導入が、やや意表を突く印象で優れています。というのも、藤森建築で使われる素材がかなりマニアックに紹介されているのです。ほうきや泥を塗った壁のサンプル、またはチェーンソーで削り取った剥き出しの木材、それに芝生を埋め込んだ芝屋根や、手もみで味わいのある凹凸感の生み出された銅板など、ともかく多種多様な物質が所狭しと並んでいました。さながら、どこかのホームセンターの素材売り場でも見るような感覚と言っても良いかもしれません。これまでにも図面や模型などが丁寧に紹介されている建築展は何度か拝見しましたが、今回ほどその素材に焦点を当てた展覧会もないと思います。体験型とは言えども、単なるイメージ先行の建築展ではなかったようです。(欲を言えば、それらに触ることが出来ればなお良かったとも思います。)
茶の形式からの解放もうたってつくられたという茶室、「高過庵」(2004)は、どこか可愛らしくも感じる建物でした。6メートルの高さに浮くような小さな茶室が、僅か2本のクリの木だけで支えられています。また屋根にニラを植え付けた「ニラハウス」(1997)や、今度は壁にタンポポを植えた「タンポポハウス」(1995)なども印象に残りました。また、誤解を生んでしまうかもしれませんが、藤森建築にどこか『工作』の雰囲気を感じます。あえて取り組むアナクロニズムの面白さとも言えるかもしれません。
その意味も含め、いささか過激なのが「東京計画2107」です。温暖化による海面上昇によって水没し、さらには砂漠化した近未来の東京が、今度はサンゴや土だけを原料にして自然再生型の都市を作り上げています。大きく後退した海には、かつての文明の残骸としての東京タワーが無残にも折れ曲がっていました。こうした未来観に対する賛否はともかくも、ここには藤森建築を支える一種の思想のようなものをショッキングな形で見て取れると思います。
展示の最後には、お馴染みの路上建築が豊富な資料にて紹介されていました。ここは素直に笑って楽しみたいところです。
7月1日までの開催です。(6/3)
コメント ( 9 ) | Trackback ( 0 )
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現代アートに詳しく、そしてそれを楽しまれるはろるどさんらしい記事ですね♪
>藤森建築にどこか『工作』の雰囲気を感じます。あえて取り組むアナクロニズムの面白さとも言えるかもしれません。
本当にそのとおりだと思います。東大生産所というアカデミックな地にありながら、藤森先生はとても楽しそうです。そしてその楽しみを、周りにも味わわせたい、という思いが感じられます。
だから見てるわたしたちも楽しめるんだなーと思います。
わくわくしました。
藤森先生はあれだけ立派なポジションにいながら
全くそれを感じさせない人柄というか腰の低さ
気さくさなど作品からも感じ取れますね。
実にサービス精神旺盛な方です。
こんばんは。
>東大生産所というアカデミックな地にありながら、藤森先生はとても楽しそうです。そしてその楽しみを、周りにも味わわせたい、
そうですね。Takさんも仰っていますが、
ほんとうにサービス精神のある方ですよね。
遊び心満載とも言うのでしょうか。時間を忘れて楽しみました。
@Takさん
こんばんは。
向こうでの評判はどうだったのでしょうね。
靴を脱いでみる展覧会だけでも驚きでしょうから…。
ついつい長居してしまいました。あの茶室でお茶を味わってみたいものです。
「メゾン4畳半」ではさらに顕著でしたね。
現在の文明が滅びてしまったあとに、
残された人々が手作りで再建した建築。
藤森建築にはそんなことを夢想してしまいます。
HERMESの展覧会は見逃しておりました…。
あの空間ですと、確かにいわゆる「工作」色が強まりそうですね。
>現在の文明が滅びてしまったあとに、
残された人々が手作りで再建した建築。
同感です。東京計画を見てそう感じました。
未来の東京の折れ曲がった東京タワーはまるで映画「猿の惑星」のラストを見るような衝撃がありました。はたまた、宮崎アニメの「未来少年コナン」の核戦争後の地球のような雰囲気もありました。
ちょっと怖いです…
その分、路上観察で笑わせてもらいました。
>核戦争後の地球のような雰囲気もありました。ちょっと怖いです…?
SF的な怖さがありますよね。実際の未来は誰にも予測出来ませんが、
警鐘をならすという意味もあるのでしょうか。
あの辺の考え方も藤森建築の基礎の一つになっていそうです。
>路上観察で笑わせて
竹かごシアターは面白かったですよね。
ついつい長居して他の方にご迷惑をかけてしまいましたが…。
この展示、はじめは真面目に見ていましたが、触覚に訴える展示だと感じて途中からずっとゴザに座っていました。主に路上シアターと高過庵のビデオのあたりで。楽だし最高です(笑)。
藤森ワールドは楽しげで良いですね。
>触覚に訴える展示だと感じて途中からずっとゴザに座っていました。
記事にも書いたのですが、やはり初めの素材の展示を触れればとも思いました。
ゴザはもう気持ちよかったですよね。
また靴を脱いであがる展示が、ベネチアではどう受けたのかも気になりました。
>高過庵のビデオのあたり
あんな茶室のあるお家にすみたいものです…。