「ティツィアーノとヴェネツィア派展」 東京都美術館

東京都美術館
「ティツィアーノとヴェネツィア派展」
1/21~4/2



ルネサンス期のヴェネツィアで華開いた絵画芸術を俯瞰します。東京都美術館で開催中の「ティツィアーノとヴェネツィア派展」を見てきました。

何よりもチラシ表紙を飾る「フローラ」が大変に魅惑的です。まずはこの一点に尽きると言って良いかもしれません。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「フローラ」 1515年頃 フィレンツェ、ウフィツィ美術館

制作はティツィアーノ。初期の作品です。モデルは花の女神のフローラです。右手でバラの花束を握っています。肌は実にきめ細かい。頬の部分のみが僅かに赤らんでいます。くっきりとした目鼻立ちです。自信に満ちた様子で彼方を見据えています。ブロンドの髪は肌へ透き通るように垂れていました。白い衣服、さらには刺繍の施されたマントも美しい。服の襞はもちろん、やや毛羽立ったマントの質感までが再現されています。背後は暗い。何もありません。フローラは光に導かれるように浮かび上がっています。なお薬指に指輪をはめていることから、花嫁や結婚の寓意とも考えられているそうです。


ジョヴァンニ・ベッリーニ「聖母子(フリッツォーニの聖母) 1470年頃 ヴェネツィア、コッレール美術館

目立つのは聖母子のモチーフでした。ベッリーニの「フリッツォーニの聖母」はどうでしょうか。一面の水色の空を背景に聖母子の姿を表しています。聖母があどけなく見えるのに対し、キリストは幾分と大人びています。何やら苦悶の表情をしているようにも見えました。手足の関節の描線が強調されています。まるで彫像のようでした。

ベッリーニはティツィアーノの師です。1470年頃からヴェネツィアで活動して工房を構えました。それを中核に形成されたのがヴェネツィア派の画家です。代表的なのはもちろんティツィアーノ。「躍動感のある構図と輝くような色彩」(解説より)を特徴とします。売れに売れたのでしょう。多くのパトロンを抱えます。ヴェネツィアのみならず、ヨーロッパの王侯貴族から作品が依頼されました。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「ダナエ」 1544〜46年頃 ナポリ、カポディモンテ美術館

「フローラ」と同様に美しいのが「ダナエ」でした。「フローラ」より30年後の作品です。日本初公開。寝台の上でダナエが裸体を晒しています。表情は虚ろで、より官能性が高い。このスタイルが大いに受けたそうです。ちなみにダナエの視線の先には金色の靄がかかっています。これが黄金の雨です。この姿に変えたユピテルが彼女と交わろうとするエピソードに基づいています。だからこそ恍惚とした表情を見せているのでしょう。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「マグダラのマリア」 1567年 ナポリ、カポディモンテ美術館

ティツィアーノではもう1点、「マグダラのマリア」も力作でした。天を見上げては涙を流すマリア。胸に手を当てています。頭上には一筋の光が差し込んでいました。背後は鬱蒼とした森、ないし崖です。右手には荒涼とした大地も広がっています。晩年の作風を反映しているのかもしれません。タッチは奔放で荒い。まさしくペインタリーです。印象派の作風を連想させます。当時、大変な人気を集めたそうです。本作に基づく版画も多く制作されました。

次の世代のヴェネツィア派についても言及があります。代表的なのはティントレットとヴェロネーゼでした。


ヤコポ・ティントレット「レダと白鳥」 1551〜55年頃 フィレンツェ、ウフィツィ美術館

ティントレットで目立つのは「レダと白鳥」です。レダは腰をかけるというよりも、さも椅子から滑り落ちるかのように斜めに座っています。金色の冠が光り輝いています。白鳥は首を伸ばしてレダの方に寄っていました。赤と緑の布地に強いハイライトが示されています。眩いまでの色彩に包まれていました。


パオロ・ヴェロネーゼ「聖家族と聖バルバラ、幼い洗礼者聖ヨハネ」 1562〜65年 フィレンツェ、ウフィツィ美術館

ヴェロネーゼは工房を含め4点です。うち「聖家族と聖バルバラ、幼い洗礼者聖ヨハネ」が充実しています。ティツィアーノ、ティントレットに比べて優美と言えるのではないでしょうか。なにせ美しいのはバルバラの髪です。さらに金を多用した衣服もゴージャス。眠りこけるキリストもより自然に描かれているように見えます。幼いヨハネが足に口をつけています。安定した構図です。なお本作、図版では分かりませんが、天使を象った額も大変に豪華でした。



出品は約70点。50点が絵画です。うちティツィアーノは7点です。さらにイタリア・ルネサンスの版画家、スキアヴォーネの版画が17点ほど加わります。

ヴェネツィア派と言って思い出すのが、昨年に国立新美術館で開催された「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展です。同地のサン・サルヴァドール聖堂を飾るティツィアーノの「受胎告知」のほか、アカデミア美術館のコレクションが約60点ほど出展されました。

率直なところ、その時の方が粒揃いだったかもしれません。今回はティツィアーノの割合が高く、確かに充実していたものの、ほかの画家の作品の質にばらつきがあるように感じられました。



会場内は意外と空いていました。現時点ではスムーズです。但し春の上野は混み合う可能性があります。早めに見ておくのが良さそうです。


4月2日まで開催されています。

「ティツィアーノとヴェネツィア派展」@titian2017) 東京都美術館@tobikan_jp
会期:1月21日(土)~4月2日(日)
時間:9:30~17:30
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。3月21日(火)。但し3月20日(月・祝)、27日(月)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生・専門学校生1300(1100)円、高校生800(600)円、65歳以上1000(800)円。高校生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
宮廷音楽 (PineWood)
2017-03-10 20:37:06
金曜日の今夜ミニコンサートでイタリア宮廷音楽を聴いてから本展示を見ました。集中して歌っている様な官能があって、集中力があって、パッションを感じました♪
 
 
 
Unknown (はろるど)
2017-03-23 17:57:27
@PineWoodさん

>ミニコンサートでイタリア宮廷音楽を聴いてから本展示を見ました。

それは素晴らしいですね!

漠然とした印象で恐縮ですが、イタリアの古典絵画は音楽と親和性が深い気がします。
 
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