「龍子の生きざまを見よ!」 大田区立龍子記念館

大田区立龍子記念館
「没後50年特別展 龍子の生きざまを見よ!」 
11/3~12/3



大田区立龍子記念館で開催中の「没後50年特別展 龍子の生きざまを見よ!」を見てきました。

1885年に和歌山で生まれた川端龍子は、10歳の頃に上京し、のちに現在の大田区へと移り、日本画を創作しながら、終生を過ごしました。現在、龍子の旧宅とアトリエは、龍子公園として整備され、その隣地には、龍子自らが設計した龍子記念館があり、一般に広く公開されています。

まさに龍子ゆかりの地での回顧展です。「龍子の生きざまを見よ!」とは、何とも挑戦的なタイトルですが、これは生前の龍子が、新聞紙上にて、「この人を見よ!」と称賛されたことに由来します。

出展数は50点超です。生誕の地の和歌山の作品を中心に、山種美術館、福井県立美術館などの他館のコレクションも交え、幅広い画業を紹介していました。


川端龍子「新樹の曲」(部分) 昭和7年 東京国立近代美術館

自らの制作を、広く大衆に訴えるべく、「会場芸術」を主張した龍子ですが、それを体現したとも言えるのが、冒頭の「新樹の曲」でした。横幅4メートルにも及ぶ6曲1双の屏風で、手入れの行き届いた松などの植栽を描いています。ともかく目を引くのが、植栽の造形で、どこか琳派を思わせる装飾性も感じられるのではないでしょうか。龍子の三男が、造園家として独立する際に制作されました。なお三男は戦争中、南方で病に倒れて亡くなりますが、龍子の思い入れも深かったのか、自身の葬儀の際、祭壇に「新樹の曲」が飾られたそうです。特別な作品だったのかもしれません。


川端龍子「狩人の幻想」 昭和23年 和歌山県立近代美術館

「狩人の幻想」も会場芸術をうたうのに相応しい力作です。画面中央にて青い明王が猪に跨り、上目遣いで険しい表情をしながら、左で白い鳥を射抜き、右で同じく白い鹿を捕まえています。また猪には、犬が噛みついていました。下方を覆う草花はやはり装飾的ですが、明王を頂点にした動物たちには躍動感があります。まるで画面から飛び出さんとばかりの勢いでした。

愛犬家でもあった龍子は、犬をモチーフとした作品を数多く残しています。うち1つが「雷雨」で、突然の雷雨に驚く犬と、雨風に揺れる山百合や芭蕉を描いています。画面には雷光を示す黄金色の色彩が広がる一方、芭蕉は暗がりで黒く、どこか不穏な気配も感じられました。山百合が殊更に艶やかで、その香りが伝わるかのようでした。


川合玉堂「若竹」 昭和30年 パラミタミュージアム

大観と玉堂、そして龍子による連作も見どころの1つでした。昭和27年、3名の画家は雪月花展を開き、各々が3つの主題を描いては、連作として完成させるプロジェクトを始めました。さらに同様に「松竹梅展」も開催し、新たな創作活動を展開していきます。展示では第3回の雪月花展と、第1回の松竹梅展の出展作が出ていましたが、三者三様ながらも、1つの主題に取り組む様からは、画家らの深い交流も伺えるのではないでしょうか。薄い緑で地面から生える竹を描いた、玉堂の「若竹」なども印象に残りました。


川端龍子「西国巡礼草描」より「第十六番清水寺」 村上三島記念館

「那智の瀧」は文字通り和歌山を舞台とした作品です。険しい崖の中、深い緑を割くように、飛沫をあげて落ちる瀧の姿を描いています。また信仰心に厚かった龍子は、亡くなった妻や、息子の菩提を弔うために、霊場の巡礼にも出かけました。その際に描いたのが、「西国巡礼草描」で、昭和33年から、約3年の間に渡り歩いた霊場をスケッチに残しています。さらに自作の俳句も添えられていて、情景も浮かび上がりました。軽妙な筆と、薄塗りで瑞々しい水彩表現からは、かの会場芸術の大作とは異なった魅力が感じられるかもしれません。

さて見どころは絵画だけにとどまりません。仏像です。龍子は自邸に持仏堂をもうけ、奈良時代の十一面観音菩薩立像と、ともに平安時代の不動明王立像と帝釈天立像などを安置し、日々、祈りを捧げていました。現在、三体の仏像は、大田区が所有し、東京国立博物館へと寄託されています。


それが特別に開帳しました。しかもケースがなく、露出での展示です。さらに同じく持仏堂の襖にはめ込まれていた、伝宗達ともされる「桜芥子図」を高精細で複製し、あわせて公開しています。


伝俵屋宗達「桜芥子図襖」 1624〜43年頃 大田区立龍子記念館

複製とはいえども、さすがに高精細だけあり、素人目には本物と区別がつきません。この光景を、龍子も日々、眺めていたのでしょうか。そう思うと感慨深いものがありました。



隣接の龍子公園の見学もおすすめです。

川端龍子ゆかりの「龍子公園」を見学してきました

原則、開館日の10:00、11:00、14:00の1日3回、記念館の職員の方の案内により、見学することが出来ます。(ガイドツアー方式)私も一度、参加しましたが、随所に龍子のこだわりが感じられる建物や庭園にも趣きがあり、職員の方も実に丁寧に説明して下さいました。一見の価値があります。



僅か1ヶ月の龍子特別展です。この夏には山種美術館でも回顧展が行われましたが、あえて異なる選定をしたのか、殆ど出展作品が重なりません。その意味では新鮮味もありました。

12月3日まで開催されています。

「没後50年特別展 龍子の生きざまを見よ!」 大田区立龍子記念館
会期:11月3日(金・祝)~12月3日(日)
休館:月曜日。
時間:9:00~16:30
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人500円、小・中学生250円。65歳以上は無料。
住所:大田区中央4-2-1
交通:都営浅草線西馬込駅南口から徒歩15分。JR大森駅西口から東急バス4番荏原町駅入口行に乗車、臼田坂下下車。バス停より徒歩2分。 
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