「KORIN展」 根津美術館

根津美術館
「特別展 KORIN展 国宝『燕子花図』とメトロポリタン美術館所蔵『八橋図』」
4/21-5/20



根津美術館で開催中の「KORIN展」のプレスプレビューに参加してきました。

震災の影響により一年延期された光琳ことKORIN展、ともかく今か今かと待っておられた方も多いかもしれません。

何と1世紀ぶりの邂逅です。根津美術館所蔵の光琳畢竟の大作「燕子花図屏風」と、同じカキツバタのモチーフ、つまり伊勢物語の主題をとるメトロポリタン美術館の「八橋図屏風」が同時に展示されています。


右:「燕子花図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 根津美術館
左:「八橋図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 メトロポリタン美術館


大正4年、当時は国内にあった「八橋図屏風」が三越呉服店の光琳展に出品された際、根津氏所蔵の「燕子花図屏風」も同じく展示されました。

しかしながら「八橋図屏風」がアメリカへと渡ると国内での出品機会は激減、以来両作品を同じ会場に展示されたことは一度もありませんでした。(八橋図が来日したのも戦後一度だけ、昭和47年の東博琳派展のみです。)

そのような100年越しの出会いを今回のKORIN展が実現したわけです。


右:「八橋図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 メトロポリタン美術館
左:「燕子花図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 根津美術館


さてカキツバタがリズミカルに群れる両作品、当然ながら橋の有無しかり、絵画表現上において大きな違いがあります。

そもそも「燕子花図屏風」は光琳が40代半ば頃に描いたのに対し、「八橋図屏風」は50代の半ばに制作されたと考えられています。

時間差は約10年です。両作の比較はもとより、その間の光琳の変化、さらにはカキツバタ前後にまで視野を広げて画業を追うというのが、本展の趣旨でもありました。

さて両作、構図上の橋だけでなく、ディテールもかなり異なることが見て取れるのではないでしょうか。


参考スライド:尾形光琳の「燕子花図屏風」と「八橋図屏風」

明らかに違うのは花の描写です。「燕子花図屏風」は総じて絵具が厚塗りであるため、花は重くふっくらと、また図像的であるのに対し、色味の軽い「八橋図屏風」ではもっとスリムでかつ自然の花に近い表現がとられています。

また背景の金箔も「燕子花図屏風」の方がやや暗めです。 そうしたことにもよるのか「燕子花図屏風」の重厚感に対し、「八橋図屏風」の軽快さが際立っています。

これは実際に並べて見ないとわかりません。同じ金箔に群青と緑青という配色にも関わらず、まさかこれほど異なっているとは思いませんでした。

さて光琳は「燕子花図屏風」から約10年、何故にカキツバタへ橋を描き入れたのでしょうか。


参考スライド:尾形光琳の「紅白梅図屏風」

そのヒントとなるのが、「八橋図屏風」同様、晩年の大作として知られる「紅白梅図屏風」(本展非出品)です。

ともかく物語性を取っ払い、極めて大胆な構図をとる「燕子花図屏風」こそ光琳の最終的な到達点とされることも少なくありませんが、時間軸で追う限りは必ずしもそうではありません。

「紅白梅図屏風」の中央には流水が描かれていますが、向かい合う梅の中へ水を取り入れる、つまりは一つのモチーフの中へ別の造形を投げ込むことで、これまでにはない空間を作りあげることに成功しています。

「八橋図屏風」も同様です。先行する「燕子花図屏風」にはない橋を挿入することで、全く視覚効果の異った作品へと仕上がりました。


参考スライド:尾形光琳の「燕子花図屏風」と「八橋図屏風」

ちなみに「燕子花図屏風」では型紙を用い、同じ花群を描いていることで知られていますが、「八橋図屏風」にも「燕子花図屏風」の花群を持ち込んだのではないかと思われる箇所があるそうです。

ここではあまり詳しくは突っ込みませんが、ともかくこの二点のカキツバタには光琳の画業を紐解くエッセンスが無数に詰め込まれているわけでした。


「十二ヶ月歌意図屏風」尾形光琳 江戸時代 17世紀 個人蔵

さて本展、先にも触れたようにこの二作品の比較から、その前後についての言及がある点も重要なところです。

展示では冒頭に光琳の初期作を並べ、そこから「燕子花図屏風」へと至った経過について簡単に触れています。

現存する光琳作で最も若書きの「十二ヶ月歌意図屏風」にも目を引かれますが、やはり伊勢物語主題として見逃せないのが、その名の通りの「伊勢物語八橋図」です。


「伊勢物語八橋図」尾形光琳 江戸時代 18世紀 東京国立博物館

宗達画のモチーフを借り、東下りのシーンがカキツバタはもちろん、橋や人物までを合わせて描かれています。

ここから「燕子花図屏風」へは大きな飛躍があるように思えるかもしれませんが、同じくカキツバタのみを描いた「燕子花図」の存在など、光琳が陶芸作品に見られる「留守文様」、つまりは物語絵から人物を取り除いて謎絵のようにする方法にヒントを得たという指摘もあります。


「中村内蔵助像」尾形光琳 江戸時代 1704年 大和文華館

またパトロンであった「中村内蔵助像」も出ていますが、光琳が作風を大きく変化させていったのは、彼との出会いが大きかったという説もあるとのことでした。

さて「八橋図屏風」以降、本展の重要なテーマとして挙げられるのが酒井抱一による「光琳百図」です。


「光琳百図 前編・後編」酒井抱一 江戸時代 1815年/1826年 東京藝術大学大学図書館

後半では光琳の草花図の展開とともに、「八橋図屏風」も写した抱一の視点による光琳画の諸相を見る流れとなっています。

展示ケース下部、出品作に「光琳百図」の参考図版が置かれているのをお気づきになられたでしょうか。


「青楓朱楓図屏風」酒井抱一 江戸時代 1818年 個人蔵

ラストには抱一の「青楓朱楓図屏風」が出ていますが、これも彼が光琳画を写したものと考えられています。


参考パネル:酒井抱一の「光琳百図」

残念ながら光琳の本画は確認されていませんが、光琳から抱一への琳派変奏への展開を分かりやすい形で見ることの出来る作品と言えるのかもしれません。

なお「八橋図屏風」といえばもう一点、抱一も光琳を写したとされる作品を描いています。 実際の作品こそ展示されていませんが、光琳画と光琳百図、そしてそれに基づいたであろう抱一画はやや異なっています。

結局、何故、光琳画と百図が違うのかはよく分かっておらず、またそれは光琳画の伝来の問題にも繋がるそうですが、その辺については図録のテキストが参考になりました。そちらも合わせてご覧下さい。


「隅田川図」酒井抱一 江戸時代 18-19世紀 根津美術館(展示室6)

ちなみに2階の展示室6「初夏の茶」にも抱一作が一点出ています。こちらもお見逃しなきようご注意下さい。

お庭のカキツバタはGWの頃に見頃を迎えるのではないでしょうか。


庭園。弘仁亭前のカキツバタ。(4/20現在)

同館では4月28日(土)以降、会期末まで閉館時間を1時間延長して、18時まで開館します。夕方以降も狙い目となりそうです。


ミュージアムグッズから琳派シリーズ「お箸袋」。乾山の絵皿からモチーフを取り込んだ40種の箸袋が発売されました。

琳派ファンはもちろん、日本美術ファンにとっても一期一会と言うべき展覧会ではないでしょうか。

根津美術館アプリでも情報更新中です。



5月20日まで開催されています。もちろんおすすめします。

「特別展 KORIN展 国宝『燕子花図』とメトロポリタン美術館所蔵『八橋図』」 根津美術館@nezumuseum
会期:4月21日(土)~5月20日(日)
休館:月曜日。但し4月30日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。但し4/28~5/20は時間延長。18時まで。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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