「川原慶賀の植物図譜」 埼玉県立近代美術館

埼玉県立近代美術館
「ロシア科学アカデミー図書館所蔵 川原慶賀の植物図譜」 
4/8~5/21



江戸時代後期、長崎の地で、シーボルトの要請を受けては、植物の写生に勤しむ一人の絵師がいました。

それが川原慶賀です。生まれは天明6年。長崎の町絵師として活動し、出島への出入りも許されます。その画力が知れ渡ったのでしょう。当時、日本の植物をヨーロッパに紹介しようと考えていたシーボルトから、植物画の制作の依頼を受けました。

結果、シーボルトは1000点以上もの植物の絵を持ち帰ります。現在はロシア科学アカデミー図書館の収蔵です。うち125点が里帰りして来ました。


川原慶賀「ツクシシャクナゲ」 1824〜1828年頃 ロシア科学アカデミー図書館

一連の植物図譜が殊更に魅惑的でした。まずは写実性が高い。そして何よりも緻密です。細い葉脈から茎のうぶ毛、花弁に蕊も事細かに描いています。また彩色も繊細です。遠目からではまるで本物の押し花かと錯覚するほどでした。


川原慶賀「植物図譜 ビワ」 1824〜1828年頃 ロシア科学アカデミー図書館

慶賀は陰影や明暗表現を西洋画に学びます。例えば長崎の特産でもあるビワです。果実に影を描き入れることで、その立体感を表すことに成功しています。また近代的な植物学に基づいているのもポイントです。植物を単に写しているわけではありません。一つの図に、植物の全体図だけでなく、花弁や実、また根などの解剖図を描き加えています。こうすることで植物の形態を多角的に捉えることが出来ます。


川原慶賀「植物図譜 ヤブコウジ」 1824〜1828年頃 ロシア科学アカデミー図書館

一方で墨線をあえて残したり、別の実と重ね合わせたりするなど、絵画的な志向を見せているのも面白いところです。植物図譜だけで120点超。かなりのボリュームです。しかも質に殆ど差がありません。極めて均一です。シーボルトも出来栄えに納得したのではないでしょうか。解説に「慶賀の目はカメラの目」とありましたが、あながち誇張とは思えませんでした。

さて「川原慶賀の植物図譜」展は、何も植物図譜だけで構成されているわけではありません。というのも、慶賀自身、植物画以外の作品を数多く残しているからです。


川原慶賀「年中行事絵」より 19世紀 長崎歴史文化博物館

一例が「人の一生」でした。10点以上の連作です。出産にはじまり、宮参り、お見合い、結納、縮減、病臥、死去、葬列、送り火といった、日本人の一生を描いています。

「出産」の構図は吹抜屋根でした。大和絵の絵巻を連想させます。「お見合い(出会い)」では、店先の縁側でくつろぐ男たちが、行き交う女性の一行を見やっています。「結納」の場面は夜でした。結納品を載せた輿が到着し、仲人と主人が挨拶を交わす様子を表しています。面白いのが「死去」でした。居室では家人が床に伏せた死者を嘆き悲しむ一方、家の先ではやれやれといったような表情をした医者が籠に乗ろうとしています。あえて対比的に描いたのでしょうか。何やら風刺的でもありました。

また「年中行事絵」では長崎の風俗や情景を表現。花見や七夕、観菊会などの、今の日本でも馴染みのある風俗をはじめ、「陸ペローン」といった長崎の伝統的な祭りなどを克明に表しています。


川原慶賀「長崎の年中行事 子供中、陸ペローン」 19世紀 長崎歴史文化博物館

これらは何故に制作されたのでしょうか。答えはオランダ人の依頼でした。というにも、出島で生活していたオランダ人は、外に出て日本人と交流することは叶いません。しかし日本人の生活には強い関心を抱いていました。そこで慶賀の絵が重宝されたわけです。一説ではオランダ人の旺盛な要求に応えるために工房を構えていたとも言われています。


川原慶賀「蘭館紅毛芝居絵巻」 1820(文政3)年頃 黒船館

「人の一生」で死に関する主題が多いのは、オランダ人が日本人の死にとりわけ興味を持っていた現れでもあるそうです。一方で出島ではオランダ人の肖像画も制作しています。それらは長崎を訪ねた日本人らの鑑賞の対象となりました。鋭い観察眼を持つ慶賀はともかく器用な画家です。日蘭双方の注文を見事にこなしています。

町絵師ゆえか没年は不明。墓所もわかっていないそうです。しかし植物画だけでなく、長崎の風俗を描いた絵画も面白い。西洋画と日本画を時に折衷させたような技法も見逃せません。


「狩野家及南画家寄合画帖」 1841(天保12)年頃 個人蔵

狩野派や土佐派の絵師、20名超の合作、「狩野家及南画家寄合画帖」にも慶賀は絵を寄せています。コウシンバラと小禽の組み合わせです。これも優品です。一つの花鳥画として洗練されていました。


江戸の長崎に慶賀あり。再評価の機運も高まるやもしれません。作品の魅力はもとより、その足跡を含め、発見の多い展覧会でした。

[ロシア科学アカデミー図書館所蔵 川原慶賀の植物図譜 巡回予定]
下関市立美術館:8月5日(土)〜9月24日(日)
長崎歴史文化博物館:10月7日(土)〜11月26日(日)



5月21日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。

「ロシア科学アカデミー図書館所蔵 川原慶賀の植物図譜」 埼玉県立近代美術館@momas_kouhou
会期:4月8日 (土) ~ 5月21日 (日)
休館:月曜日。但し3月20日は開館。
時間:10:00~17:30 入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円 、大高生800(640)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *MOMASコレクションも観覧可。
住所:さいたま市浦和区常盤9-30-1
交通:JR線北浦和駅西口より徒歩5分。北浦和公園内。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
細密描写 (PineWood)
2017-05-26 21:24:47
植物画家のリアルさに吃驚!風俗画も細密描写に長けて本領発揮でしたね!
 
 
 
Unknown (はろるど)
2017-06-20 20:11:38
@PineWoodさん

こんばんは。
リアルでしたね。風俗画の少し変わった感じも良かったです。
 
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