「絵画への意志 新規収蔵品からの展望」 大田区立龍子記念館

大田区立龍子記念館
「絵画への意志 新規収蔵品からの展望」 
6/23~10/15



日本画家の川端龍子が、自作を公開するために建てた龍子記念館は、大田区中部の住宅地の中に位置します。

最寄りは都営浅草線の西馬込駅です。駅から小さな商店街、さらに桜並木を抜けておおよそ15分ほどでした。途中からはほぼ一本道でしたが、うっかりすると迷ってしまうような込み入った場所でした。

現在、龍子記念館では、修復後初公開となる「大和の國」ほか、新規収蔵品を交えた、「絵画への意志」と題した展覧会が開催されています。

この「大和の國」がかなりの迫力でした。同作は昭和16年、龍子は「國に寄する」(解説より)ため、日本各地の60余州を表そうとしたもので、ほかにも「伊豆の國」や「大和の國」などを描き残しています。結果的に連作は敗戦のために断念されました。


川端龍子「大和の國」 昭和17(1942)年

大和とあるように、舞台は奈良の吉野の山々です。下からせり上がる山の峰を濃い墨を用いて描いています。中央には白い桜の咲く姿も見えました。奥千本、中千本と連ね、春の吉野を俯瞰した構図で表しています。

連作のうちの「伊豆の國」も出展されていました。これがより引きのある視点です。上方には白い雪を冠った富士がそびえ、その下に黒々とした山々の続く伊豆半島が広がっています。海には船も浮かんでいました。例えれば飛行機の上、ひょっとするとそのさらに上から眺めねば、捉えきれないほどの構図ではないでしょうか。伊豆から富士を望む景色を雄大に描いていました。


川端龍子「賭博者」 大正12(1923)年

平成27年に新たに収蔵されたのが「賭博者」です。大きく中央には松が葉を付け、その中で隠れるように男が3人、何やら怪しげな様子で向き合っています。タバコをくわえている者もいました。さらに右下にはカマキリが草むらから姿を現しています。

何故に「賭博者」なのか分からないかもしれません。答えは龍子の実体験でした。ある日、画家が鵠沼海岸を歩いていたところ、茂みに隠れるようにして賭博をする男らを見たと語っています。その光景を表現しているわけです。色彩感は強く、洋画の摂取が活かされた作品とも指摘されています。

迫力といえば「霹靂」も忘れられません。作品のサイズは、超ド級ならぬ、横幅7メートル超もあり、そこに堂々とそびえる富士の頂きを描いています。富士の山肌にはまるで波しぶきのように沸き立つ白い雲が靡き、光を示すのか、金色の線が交わってもいました。空は金色に朱色が加わっています。なんとも神々しいまでの空色ではないでしょうか。これほどに力強い作品を、龍子は72歳時の登山体験を元にして描きました。画業に衰えるところを知りません。

超ド級を示すに最たるのが「逆説・生々流転」でした。さも無限にまで広がる大パノラマは、全長何と28メートルにも及びます。ところで、この「生々流転」の名に聞き覚えのある方も多いかもしれません。言うまでもなく、横山大観の手による長大な画巻です。大観は、一粒の雨が川となり、海となり、最後は龍となって天へと駆ける様子を表現しました。


では逆説とはどのような意味をなすのでしょうか。ひょっとすると龍子は持ち前の反骨精神を発揮したのかもしれません。大観が自然の光景を叙情的に示したのに対し、龍子はむしろ自然の厳しさ、脅威を表現しようと考え、「逆説・生々流転」を描きました。

モチーフは台風です。しかも実際の台風、すなわち日本を昭和33年に襲った狩野川台風に取材しています。これもかつてマスメディアで仕事をした、龍子のジャーナリズム的精神の表れかもしれません。

はじまりは南国の長閑な海辺の景色です。半裸で漁をする男たちがいて、木の船も浮かび、家々が連なる姿を見ることも出来ます。台風の発生したグアムの光景でした。

するとヤシの木が風に揺れ、次第に暗雲が広がり、白波が波打ちはじめました。嵐の到来です。雨はさらに叩きつけるように降り、いつしか場面を代えて表れた日本の家屋をに襲いかかりました。濁流は家々をのみ込みます。人々はなす術もありません。屋根に登って何とか難を逃れた人がいる一方、流木につかまり、力尽きたのか、濁流にのみ込まれては、水に沈み込む人もいました。まさに自然の猛威は、人々の生活や日常、あるいは生命までを奪っていきました。

しかし何もここで全てが終わるわけではありません。龍子は自然に向き合って生きる人々の力強さ、逞しさを表そうとしたのでしょう。復興の場面も描いています。ダンプカーが登場し、荒れた土地を整備します。さらに白い橋も完成し、七色の虹もかかりました。未来への希望を意味しているのかもしれません。

これほどの内容を一枚の画巻におさめた「逆説・生々流転」。私にとってはかなり衝撃的な作品でもありました。なお本図にあわせ、一部の下絵も展示されています。下図と本画には相違点もあります。龍子の制作プロセスの一端も伺い知ることも出来ました。

出品は計20点です。点数こそ多くありませんが、「逆説・生々流転」しかり、見応えのある作品も少なくありませんでした。



さて龍子記念館が建てられたのは1963年のことです。当初は龍子の率いる青龍社によって運営されてきましたが、現在は大田区が事業を引き継いでいます。



建物自体はさほど大きくはないもの、天井高もある館内は想像以上に広く、「会場芸術」を貫き、大作の多い龍子の作品を展示するには不足のないスペースでした。画家自身が設計したとするのにも頷けます。



この日、龍子記念館の向かいにある、旧宅とアトリエを保存した龍子公園もあわせて見学してきました。別エントリにまとめる予定です。

川端龍子ゆかりの「龍子公園」を見学してきました(はろるど)

10月15日まで開催されています。

「絵画への意志 新規収蔵品からの展望」 大田区立龍子記念館
会期:6月23日(金)~10月15日(日)
休館:月曜日。但し7月17日、9月18日、10月9日の祝日は開館し、翌日休館。
時間:9:00~16:30
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:大人200円、小・中学生100円。65歳以上は無料。
住所:大田区中央4-2-1
交通:都営浅草線西馬込駅南口から徒歩15分。JR大森駅西口から東急バス4番荏原町駅入口行に乗車、臼田坂下下車。バス停より徒歩2分。 
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