「新井卓 Bright was the Morningーある明るい朝に」 横浜市民ギャラリーあざみ野

横浜市民ギャラリーあざみ野
「あざみ野フォト・アニュアル 新井卓 Bright was the Morningーある明るい朝に」
1/28~2/26



2016年に木村伊兵衛賞を受賞した写真家、新井卓の個展が、横浜市民ギャラリーあざみ野で開かれています。

さて新井が主に用いる手法は1つ、ダゲレオタイプです。ダゲレオタイプとは19世紀にフランスで発明された世界初の実用的な写真撮影法で、日本では銀板写真とも呼ばれています。



ダゲレオタイプにおいては「被写体を固定」、さらに「長時間の露光」(ともに解説より)が必要となります。また銀板上に直接画像が定着されるため、複製の制作は叶いません。実際、新井も1日に1枚か2枚しか撮れないそうです。



写真はほぼ鏡面と言っても差し支えないかもしれません。映り込みは強烈です。像を確認すべく覗き込むと、ほぼ確実に自分の姿が映し出されます。また映り込みのゆえか遠目では何が写っているか判然としません。鑑賞には作品に限りなく近づく必要がありました。



見せ方に一工夫ありました。例えば「明日の島」と題された連作です。小さな銀板写真が並んでいます。被写体は東日本大震災の被災地、ほぼ福島でした。そして作品の上に白熱灯が設置されています。幾つかを除いて明かりは付いていませんでした。



しかし近づくと静かに点灯します。センサーでしょうか。人の動きと連動。作品との適度な距離感で光を放ちます。すると写真のイメージも光に導かれるかのように浮かび上がりました。僅かにセピア色を帯びた写真はどこか懐かしく見えます。不思議と詩的な感興を呼び起こしました。



福島などの震災をはじめ、広島、長崎の原爆をテーマにした作品が多いのも興味深いところです。例えば「明日の歴史」です。ダゲレオタイプで少年少女のポートレートを撮影。そこに新井が聞き取りの取材をしています。被災地の子どもたちでした。原発事故について語ります。「原発は無くなればいい。」とはっきり語る子もいれば、「良くわからない。」として何も語らない子もいます。反応は千差万別です。さらに広島の若者にも同じく聞き取りを行っています。



元々、新井は第五福竜丸の事故など、核の問題について関心があったそうです。そして震災です。ほかにもアメリカのミサイル実験場を捉えた写真をはじめ、原爆の模擬爆弾をテーマにした映像もありました。ダゲレオタイプという古い技法を用いながらも、新井の視点はまさに今、社会に横たわる様々な問題に向けられています。



ダゲレオタイプの制作プロセスは複雑です。通常の写真よりもはるかに長く被写体と向き合わなくてはなりません。言い換えれば被写体そのものだけでなく、取り巻く時間を捉えていると言えるかもしれません。さらに銀板上に薬品で固定されたイメージは幾分と生々しくも見えます。イメージ自体は朧げながらも、より心象へ強く刻み込まれるような気がしてなりませんでした。



なお横浜市民ギャラリーあざみ野では現在、「写真ー時間の位相」と題したコレクション展も開催中です。19世紀の古いダゲレオタイプカメラも出展。新井の写真展と連動しています。


場内の撮影が可能なため、一応、写真を撮りましたが、率直なところ画像だけでは魅力がまるで伝わりません。是非、会場でご覧ください。



入場は無料です。2月26日まで開催されています。これはおすすめします。

「あざみ野フォト・アニュアル 新井卓 Bright was the Morningーある明るい朝に」 横浜市民ギャラリーあざみ野@artazamino
会期:1月28日(土)~2月26日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00
料金:無料。
住所:横浜市青葉区あざみ野南1-17-3 アートフォーラムあざみ野内
交通:東急田園都市線あざみ野駅東口徒歩5分、横浜市営地下鉄ブルーラインあざみ野駅1番出口徒歩5分。
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